2、卯月4月 その2 始業式その後
無事始業式も終わって、さて授業が始まるかという頃合い。私たちのクラスではいまだにお花見会の準備をしていた。しかも、授業中と思われる時間もすべて使って。
「授業って私たち大丈夫なのかしら…」
ぽつりとつぶやくと隣で里羅が言った。
「そのうち課題もらうから大丈夫よー。ほらこの前も言ったでしょ、私たちのクラスは“特別”だって」
「それもそうだけど…」
クラスにもだいぶ慣れてきたこの頃。まだまだ見慣れない顔も多いけど、なんとかやっていけそうと思った矢先の心配だった。
「なになにー? 勉強の心配?」
「まじめだねーらいらちゃん」
前の方から似たような顔が2つひょっこりとのぞかせた。片方は後ろで髪の毛を一つにくくっていて、もう片方はそのまま流している。唯一の違いはそれくらいだった。
「あら、松崎姉妹」
「「松崎姉妹って言うな!」」
見事にぴったりそろう二人。二人は松崎姉妹こと、松崎夏希と松崎真澄だ。夏希は髪の毛を結んでいる方で冷静沈着なお姉さん。真澄は明るくほんわかした妹だ。双子なのに性格は真逆だった。本人たち曰く、双子だからって性格まで似るものじゃないとのことだ。もちろん二人は得意なものも違っていた。
「相変わらずだーねー、…ふわぁ」
脇であくびをしたのは久納夜宵。ゲーマーでよく徹夜をするらしい。今日も目の下に隈ができていて、とても眠そうだ。というかそのうち立ったまま寝ちゃうんじゃないかと心配でしょうがない。
「夜宵も相変わらずだな。それ、つらくないのか?」
隣で声をかけるのは、男性のような女性のような中性的な顔立ち、そして長い髪の毛。私も最初女性と間違えてしまったけどれっきとした男性。名前は法楽都。みんなから“みやさん”って呼ばれてる。
「あー、みやさんかー。んー? だいじょうぶー、慣れてるからー」
と言いながらもふらふらと歩く夜宵。見ているこっちがおっかない。ついに里羅が背中を支えてやる始末。
「相変わらず好きなのはいいけど、ほどほどにしないとダメだよー。一応学生なんだから」
「んー、でもさすがに納期とメンテかぶったら徹夜は必須だからしょうがないのよー」
夜宵はゲーマーでもあり、プログラマーでもあるらしい。夜宵から自己紹介を受けた当初、さすがの私でも知っているような有名なネットゲームの名前を出されて、「あれプログラムしてるの私」と言われたときは驚いた。
「相変わらず忙しそうだねー、夜宵」
と心配そうに声をかける恋。まあそんなこともないというように夜宵は首を横に振る。
「まあこれでも春休み中に比べたらマシだよー。春休み中は5徹くらいした…」
「5徹って…!?」
「それ人間業じゃないよ…!?」
夏希と真澄がタイミングのいい掛け合いを見せる。みんな心配してることには変わりないんだろうな。もちろん知ってからの私もそうだけど。
「そこまで忙しいと、結構収入もあるんやろ?」
柚樹がおどけた風に聞く。夜宵は首をゆっくりかしげてゆっくり戻して言った。
「んー、んー? まあそこそこあるだろうけど、それなりに電気代も食ってるしなー。それに貯金とあと3割はいろんなとこの募金に回してもらってるしなー」
売れっ子には売れっ子なりの金銭事情というものがあるらしかった。プログラマーに売れっ子とかってあるのかはわからないけれど。
「んで、らいらちゃん。授業の心配だってー?」
そういえば本題を忘れていた。授業開始日になっても私たちのクラスでは授業をしないわけ。本当に大丈夫なのかしら…。
「ああ、だいたい私たちにはお花見会の準備任されてるから基本的に免除されてるの。まあその代わり、課題がすっごくでるんだけどね」
と、里羅が説明してくれる。
「まあ俺らなら平気なレベルのもんしか出ないから安心しぃ」
と言う柚樹。みんなも同調するように頷く。
「まあそこまで気にしなくていいのよー。じゃなかったら、らいらちゃんはこのクラスにはいないはずだからー」
一言、恋の口から洩れる不穏な言葉。このクラスが“特別”と言われているのと何か関係があるのだろうか。
みんなの言葉に首をかしげつつも、私にその意味がわかることは今の段階ではなかった。