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19、葉月8月 その3 臨海学校

夏も佳境に差し掛かった暑い日。私たちはバスの中にいた。その行き先というのは…。


「うみだーーー!」

恋と夜宵が二人で叫ぶ。バスの窓から見える風景はさわやかな海だった。磯のかおりもしっかりとする。

「恋、夜宵、座ってろ」

みっさんが、見かねたように叱責する。みっさんに言われると二人も文句を言えないのか、おとなしく座席に座った。その後ろで夏希と真澄がクスクスと笑っている。

「そういえば、らいらちゃん。乗り物酔いは大丈夫?」

里羅が控えめに聞いてくる。私は元から前の方でのんびりと風に吹かれていた。

「酔い止め飲んできたし、前のほうだし、大丈夫そう」

「そっか、それならよかったー。また酔っちゃって海で遊べないとかなったら残念だもんねー」

そう言う里羅の手にはうきうきと籠バックが握られている。

 今日から一泊二日の臨海学校。その道中だった。海のシーズンも終わりかけの頃合いに、学校所有のプライベートビーチで行われるらしい。というのを私が知ったのは、お盆明けてすぐの登校日。その数日後にこうやってきているのである。

「しかし…、この学校ってプライベートビーチまであるんだね…」

そんな私の声に恋がうんうんと頷きながら答える。

「まあ、学院長がそもそもぶっ飛んだ人だからねぇ」

「恋、あなたの身内でしょ」

「うん、だから、うちの叔母さんはぶっ飛んだ人なんだって」

どうも学院長は恋の叔母さんらしい。そこらへんの事情は、里羅やみっさんも知っているらしく、みっさんにいたっては恋に同調するように頷いている。

「あー…。今日の臨海学校には学院長先生もいらっしゃるそうだ…ぞ…」

海藤先生の一言で、恋とみっさんが凍りつく。いやな予感をたたえつつ、私たちを乗せたバスは浜近くの別荘地へと走っていく。


「やあやあみんな! 遅かったじゃないか!」

海に着いて最初に見たのは、黒いビキニ姿の女性の姿だった。その手に持っているのは、ビーチボールとイルカ。遊ぶ気満々なのはその姿から容易に思いついた。

「学院長…。生徒より遊ぶ気満々じゃないの…」

恋がいつものテンションをなくして、すごく引いている。できれば関わりたくないという表情までしている。しかし、そんな恋の雰囲気には気づかず、学院長先生はすぐに恋を見つけて近づいてくる。

「やあやあ恋! 満も! 元気にしていたか!」

ザカザカと砂をもろともせずに勇ましく歩いてくる。その姿は何物も寄せ付けないような雰囲気すら感じる。

「学院長…。とりあえずほかの生徒もいるので少し自重してくれませんか…」

恋が気圧されるように言う。そんな恋の言葉に学院長は首をかしげ、そして笑顔になって恋の肩を叩いている。

「やだなぁ! 前みたく蓮歌さんって呼んでよ!」

どうも空気を読めない人のようだ。後ろを見るとみっさんもげんなりした顔でやりとりを眺めている。と、学院長の後ろから男の人がため息をつきながらやってきた。

「いい加減にしろ蓮歌。生徒が困っているだろうが」

そしてそのまま学院長を引っ張っていく。その様子をあっけにとられながら見ていると、恋と満が二人そろって溜息をついた。

「助かった~」

そのままへろへろと座り込みそうになる恋。そんな恋の腕を持って、砂がつかないようにしている満。

「とりあえず後で葵さんに礼言わなきゃな」

「そうね…。よく学院長につきあってられるわね…」

そう言いながら固まった体をほぐすように伸びをする恋。みっさんは何かを言いたそうにしていたけれど、結局言葉にしなかった。

「とりあえず荷物おいてこようかー」

里羅がうきうきと声をかける。みんなはそれに合わせて今日泊まる予定のホテルへと入っていった。


 その夜。最近は夜もだいぶ慣れてきたので、いつものメンバーで男子部屋に集まってトランプをしていると、ドアがノックされる音がした。

「だれだろ…?」

みっさんが首をかしげながらドアを開けると、そこにいたのは学院長だった。

「あら、満。恋はいる?」

「…いますけど」

そういってみっさんが道をあける。そうすると学院長はずかずかと入ってきて、恋に飛びついた。

「ホント久しぶりねぇ」

「学院長…。ちょっと…!」

恋は心底迷惑そうだ。しかし、それにかまうことなく恋を抱きしめて撫で繰り回す学院長。しまいに恋はされるがままの状態になっていった。

「で、なんで学院長が俺らの部屋にきてるんですか…」

みっさんがため息交じりに言うと、学院長ははっとした顔になっていった。

「だって、葵がこっちでも仕事持ってきてるんだものー」

どうも仕事から逃げ出すためにきたらしい。

「とりあえず葵さんには連絡しときますね」

みっさんがケータイを取り出して、電話をかける。電話はすぐにつながったらしく、そのままやりとりが聞こえる。電話をおえてすぐ、バタバタと足音が聞こえたかと思うと男の人が息を荒げて入ってきた。

「蓮歌、いい加減にしろよ!」

そう言うと学院長の腕を取ってそのまま引きずっていく。部屋から出るとき、顔をのぞかせて「邪魔してごめんねー」と言ってくれた。

「相変わらず台風みたいな人なんやね…」

その柚樹の言葉に溜息をつく、みっさんと恋であった。


学院長と秘書の昔話ができました。

こちらからどうぞ↓

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4214346

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