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18、葉月8月 その2 ある夏の日その2

焼けるように熱いある日。とある家の一室で男子3人が頭を突き合わせて手を動かしていた。その目線の先にあるのはノート。ふと一人が顔を上げる。

「あーもう、疲れたわぁ」

「柚樹、そこ間違ってる」

「いや、みっさん。ちょっと目離した途端間違い見つけるのやめて!」

そう言って話しているのは、柚樹、満、都の3人。3人は満の家で勉強会をしていた。その経緯は昨日にさかのぼる。


「は? なんだって?」

「だから、明日はらいらちゃんの家で勉強会するの。女子だけで」

恋がパタパタとうちわであおぎながら言う。普段から家じゅうに空調が効いているはずなのだが、恋は時折うちわを取り出す。

「いや、それは聞いたけど。大丈夫なのか?」

「んー、まあ大丈夫じゃない?」

恋はその家柄から、よくいろいろな連中から狙われる。満はそのためにいろいろなことを取得したボディーガードとしてついている。普段出かけるときは、必ず恋についていくのだが。


「まあ、行くのがらいらの家だからなぁ」

らいらの家は満も通っていたことがある、武術の名家だ。そんな家だからこそ、安心して普通でいられるのだ。

「らいらちゃん強そうやもんなぁ」

「そうは見えないけど?」

柚樹と都が勝手な想像で盛り上がっている。実際のところ、満もらいらの強さは知らない。鍛えられていたとはこの前聞いてはいたのだが。

「みっさん、手合せとかしたことねえの?」

都が恐る恐るといった感じで満に聞く。満は首をかしげて腕を組んでしばらく考え込んだ。

「…ねえな」

「え? でも小さいころ会ったことあるんでしょ?」

「小学生の時だしなぁ。あっちは夏休みで遊びに来てただけだろうし…」

「おもろいめぐりあわせもあるもんやなぁ…」

そう言ってコツコツとシャーペンでノートをたたく柚樹。都も手が止まっていた。満はもちろんシャーペンすら手に持っていない。

「少し休憩するか? なんかあったはずだから持ってくる」

そう言って、満が立ち上がって部屋を出ていく。二人も伸びをするなど、気を抜いていた。

「女性陣は見事に終わってる派と手を付けてない派に分かれるんだろうな」

「そやろなぁ。特に夜宵あたりは俺らの誰かが言わなきゃやらんだろうしなぁ」

そう言って柚樹がパラパラと見返す問題集の残りはあと数ページ。3人とも課題は割とまじめに取り組むようだ。

「麦茶と適当に持ってきたけど、これでいいか?」

満がお盆を片手に扉を開ける。ぶわっと蒸し暑い空気が一瞬流れる。

「いやいや、かまわんでいいんで」

「まあ、やるかって言ってたあたりから用意はしてたんだがな」

そして、そのまま氷の入ったコップに手際よく麦茶を注いでいく満。適当にしてはきちんとしたものが入った菓子入れを真ん中において、二人にコースターを渡す。

「ほんとみっさん準備いいよなぁ」

「なんか恋がうらやましいわ」

満の動きに柚樹と都がしみじみとつぶやく。その言葉にいぶかしげに二人に目線を向ける満。

「おだててもこれ以上何にも出ねえぞ」

「いやいや、本心やて。みっさんって寡黙で近寄りがたいイメージとかあるけどなぁ」

「いいように恋に使われてるようでもったいないなってなぁ」

柚樹の言葉にうんうんとうなづきながら、言葉を返す都。そんな二人の言葉に苦笑いする満。そのまままじめな、しかし少しさみしそうな表情をして言った。

「まあ家のことだから仕方ないんだよな」

そんな空気に飲まれそうになる都と柚樹。満ははっとして笑う。

「まあなんだかんだで楽しいからいいんだよ」

そうつぶやいてから照れ隠しのようにそっぽを向く満。それを目を丸くしながら見る二人。しばしの沈黙が流れる。その沈黙に耐えられなくなったのか、思い出したように言葉を発する柚樹。

「そういえば、みっさんと恋っていつからの付き合いなん?」

「確か…、幼稚園のときじゃ…。あ、いやそれ以上前だ。親父についてよく砂野家には遊びに行っていたからな」

それが何かというように言葉を返す満。柚樹は若干口ごもって、それから言葉にする。

「あー、じゃあ恋愛感情とかはないんやな」

「…どうしてそうなるんだ」

「いや、幼馴染って結構ベタやろ」

「あいつのわがままなとこしか見てないからな。そんな気も起きないわ」

半ば呆れたように言う満。納得したように頷く柚樹。そんな二人をニコニコしながら見る都。

「はいはい、もうそろそろ休憩終わり」

いたたまれなくなったのか、満が無理やり話を切る。そして、シャーペンを持ち出してノートを広げる。

「さっさと終わらせてしまおうぜ。下手したら、また課題写させてって言われかねないからな」

「絶対誰かに言われる気がするよ…」

「まあ終わらせるに越したことはないな」


 そうしてまた、夏の一室にシャーペンの音が響いていた。



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