17、葉月8月 その1 ある夏の日
太陽がアスファルトを照りつけている中、数人の女の子たちが歩いていた。その手には思い思いのカバン。
「あっついなぁ」
これは数日前にさかのぼる…。
「お盆明け登校日だった…」
恋がぽつりとつぶやく。その手にはほとんど手が付けられていない課題の数々。そして、ふと思いついたように課題を投げ出して、誰かのもとに電話をかける。
「里羅―。課題終わってたりするー?」
クラスの学級委員長で、仲のいい里羅のもとだった。恋は里羅を頼ろうとしているのだ。
『もうちょっとかなー』
「どーしよう。私登校日のことすっかり忘れてた…」
『あはは、恋のことだからそうだと思ったよ』
電話越しに里羅の笑い声が響く。ひとしきり笑った後に、思い出したように恋に言う。
『そういえば明後日にらいらちゃんと松崎姉妹と勉強会する予定だったんだけど、来る?』
その言葉に目を輝かせて、恋は返事をする。そしてふと思い出したように聞く。
「夜宵もきっと終わってないよね…?」
『まああの子なら終わってないだろうねぇ』
「いっそ女子でやるっていうのも…」
『まあいいんじゃないかなー。あ、でも一応らいらちゃんに連絡はしておかないとね』
「夜宵にはこっちから連絡しとくよー。あとでメールしてー」
『はいはい』
そうして今日にいたる。
そうして、女子4人。歩いてらいらの家に向かっていた。それぞれ課題を持って。
「なんでこんな夏休みの暑い日に課題なんかやらなきゃいけないのさー」
夜宵がうだるような暑さに負けそうに声をあげる。
「まあまあ、もう少し我慢してね」
そんな夜宵とは対照的に、里羅は涼しい顔をしてすたすたと先を歩いていく。そうしてしばらく歩いていると、大きな日本式の門が見えてきた。里羅は臆することせず、門の脇にお飾りのようについているインターホンを押す。返事はすぐにきた。
『あ、いらっしゃい。門は開いてるから入ってそのまままっすぐ玄関来れると思うよー』
らいらの声がインターホン越しに聞こえる。その言葉を聞くと、里羅は遠慮せずに門を開け、すたすたと中に入ってしまう。ほかのメンバーも里羅に続いて入っていく。
「いらっしゃいー」
らいらが玄関に出て待っていた。みんな思い思いに靴を脱ぎ、上がっていく。それを待ってらいらは部屋へと案内する。
「一昨日、里羅から聞いたときは驚いたよ」
そう言いつつふすまを開ける。すでに用意ができていたらしく、大きめのテーブルと人数分の座布団が置かれていた。
「あ、適当に座ってね。今飲み物取ってくる」
そう言って、パタパタと駆け出すらいら。みんな思い思いの場所に座る。里羅はすぐにテキストとノートを出して並べている。
「そういえばみんなどこまで進んでるの?」
里羅の問いにみんなが答える。進み方はまちまちだったが、ほとんどみんな手をつけていないようだった。
「おまたせー。ごめんね、私クーラー苦手だからこの部屋クーラーついてないの。暑いでしょ?」
「へ? いやそんなことないよ、涼しい」
夏希がぽけーっとした声をあげて否定する。らいらの部屋は、外の暑さが嘘のように涼しかったからだ。
「そっかよかった。じゃあさっさと終わらせちゃおうか。なんかおばあちゃんが張り切って何か作ってるっぽいし」
そう言って苦笑いするらいら。そうして、課題を取り出すと空いている場所に座り、みんなを眺める。
「…あー、この様子だと終わりそうもないのが何人もいるわね」
恋がぽつりともらす。確認してみると、ほぼ終わりそうなのは、里羅、らいら、真澄。ほとんど手を付けていないのが、恋、夜宵、夏希。
「と、とりあえずじゃあさ、やってないとこ終わらせちゃおうか」
真澄があわてた様子で言う。その隣にいる夏希からの視線が痛い。
「まっちゃん、なんで私と一緒になって遊んでるのにそんなに進んでるの…」
「いや、うんまあちょっとずつやってたし…ね…?」
それでも夏希は納得いかないように膨れている。
「ほらほら、そんなこと言ってるとさらに進まなくなるわよ」
里羅が的確に仲裁に入ると、夏希はしぶしぶといったようにノートを開きだす。
あとに響くのは、シャーペンの音と少しの話し声、麦茶の氷の音だけだった。