表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/48

10、水無月6月 その2 本番

そしてむかえたテスト当日。いつものように、そしていつもよりたくさんみんなと勉強したからなのか、少しだけ余裕があった朝だった。

「あーもう、最後の最後までここんとこわかんなかったぁ」

そう言う恋が見ているのは数学の問題集の最終ページ。そこは最終的な応用問題の書かれた場所で、私も理解するのがやっとやっとだった。

「まあ、あとはなるようになるしかないでしょ」

里羅はのんびりと数学の公式の確認をしている。

「これ、70点いかなかったら」

「私たち補習だもんねぇ」

松崎姉妹も最終確認として、問題集を眺めている。私たちのクラスは、特別クラスなため、点数も厳しくされている。もちろんほかのクラスよりも難易度を上げたうえでだ。

「やることはやったんだ。間違っても仕方ないさ」

柚樹は余裕そうにぼんやりしている。その隣で都が最終確認として、柚樹に聞いてたりする。少し離れたところではみっさんが同じように問題集を開いていた。

「相変わらず、夜宵は余裕そうだねぇ…」

ふと見てみると、自分の席ですでにうたた寝している夜宵がいた。ちょうどいい感じに太陽の光が当たるところで、とても気持ちよさそうだ。

「まあ一応あの子はプログラマーだからね。これくらいの数学できなきゃだめじゃないの、ねえ専門家?」

そういう里羅の言葉は柚樹に向いていた。柚樹は呆れたように答えた。

「あーまあ必要っちゃ必要やろなぁ。俺と夜宵じゃ専門が違うからようわからんけどな」

柚樹は数学を専門としたタイプ。夜宵はどちらかというとプログラム系統。数学としては似ているかもしれないけれど、かなり違うタイプらしい。私には説明されてもよくわからなかったのだけど。

「どーせ柚樹も楽勝なんでしょー」

恋がふてくされたように声をあげる。本当に数学が苦手なようだ。

「私の得意は英語だもーん。言語系だもーん」

「ほらほら、恋。私だって専門は古典よ。だからこうやってやってるんじゃない」

里羅がなだめにかかる。里羅は古典の博士号を取得しており、たまーに大学部の方に行っては、古典文学の口語と読解をしているそうだ。里羅に言わせると、昔の人たちの情緒は面白いそうだ。

「みっさんは結構万能だよねー」

そう言って恋が視線を向けると、みっさんは目をそらす。

「恋―。そろそろあきらめたらー」

「人間諦めが肝心だよぅ」

松崎姉妹がのんびりと声をかけてくる。すでにテスト開始5分前になっていた。


「はい、じゃあここまで」

その声を聞いて一息つく。1日でテストを全部終わらせるのが、この学校というかこのクラスの決まりらしい。科目数も基本5教科くらいなものだし。

「やーっと終わったー」

恋が机に突っ伏す。相当お疲れなようだ。夜宵は自分の席で突っ伏して寝ている。夜宵より後ろの方にいた私は気づいたが、彼女はテストのほとんどを寝て過ごしていた。しかし、最初の方には起きて問題に取り組んでいた。いったいどんな速さであれを解いたのだろう…?

「みんな、おつかれー」

そういう里羅も少し疲れた様子。里羅は、テスト日であっても学級委員としての仕事があったからだ。

「なんや、恋。めずらしく撃沈しとるなぁ」

柚樹が伸びをしながら、声をかける。そのまま軽いストレッチをしている。

「さすがにこの密集したテスト時間は疲れるな」

都も疲れ果てたように一息ついた。

「やー大変だった」

「大変だったぁ」

松崎姉妹も疲れているようだった。しかし、急ぎの用事でもあるのか、早々に帰り支度を始めている。

「あ、夏希は部活かー。もうそろそろ大会だもんなー」

6月末には高校体育大会が控えている。夏希は陸上部として、出場するのだ。ほかにもいろいろな部から助っ人を頼まれたらしいが、すべて断っていた。

「まぁ、なっちゃんはこの時期忙しいよねぇ」

真澄ものんびりと答える。

「まっちゃんだって、夏休みにコンクールあるでしょ。そろそろ本格的に打ちこまなきゃ」

真澄は吹奏楽部でフルートをしているらしい。たまに指揮も振っているらしい。

「あー、まあ選曲と楽譜作成は先生にまかせてるからなー。そろそろかなー」

そういいながらスコアブックを取り出す。見てみるとたくさん書きこまれた跡が。

「んー、一応これかこれなんだろうけど。指揮振るんだったらこっちがいいかなー」

そういって見せてきた曲は私が知らないようなクラシック。かろうじてクラシックとわかる程度のもの。

「今回は難易度高いわねー…」

恋がぽつりとつぶやく。さすがにいいとこのお嬢さまらしく、音楽に関してはそこそこわかるらしい。

「まあ、芸術科が今年は多いからねー」

芸術科とは、晴光学院にある学科の一つでA組にあたる。だいたいが芸術推薦で入ってきた子で、美術や音楽など多岐にわたっている。パンフレットの受け売りだけども。

「都だってそろそろ大会じゃないの?」

里羅が都に声をかける。都を頭をかいて答えた。

「とりあえず明日から。今日はテストだしってことでお休み」

「いいねぇ。私のとこなんかもう今日から走り込み。こっちもスポーツ科多いからねぇ」

スポーツ科も晴光学院の学科の一つ。こっちはB組。松崎姉妹はどちらも特別学科に悩まされているらしい。でもなんかいきいきしている。

「まあ走るのも好きだからいいんだけどねー」

「私も音楽はずーっと好きだから」

好きこそものの上手なれらしい。マイペースな二人だからこそだ。

「私は部活来週からだしなぁ」

そういう恋は茶道部所属。礼儀作法を身につけなさいということで、親に言われたらしい。時々の突飛抜けたことさえなければ、十分作法は身についていると思うのだけど。

「みんな忙しそうなんだね…」

ぽつりとつぶやくと、恋が頭を撫でてきた。すごくいい笑顔で。

「忙しいけど楽しいからいいのよー」

そういうと手を離して、ニッコリ笑った。


 その空気はテスト明けの安堵と日常の温かみが混じっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ