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とってもまるくてステキに赤いです

作者: 三毛猫

 放課後。部室代わりに使っている空き教室に入ったら、知らない女生徒が所在なさげに立っていた。

 スカーフの色から二年生と判断。上級生のようだ。

 腰まで届きそうな長い髪を先の方でゆるくひとつに赤いリボンでまとめていて、背はあまり高くない。

「あの、うちの部に何か用でしょうか?」

 時期的に入部希望とも思えないけれど、もしそうだったら嬉しいなと思いながら声をかけると、こちらには気がついていなかったようで先輩は少し驚いた様子でこちらを振り返った。

「あ、あの、生物部ってこちらでよろしいのでしょうか? こちらの教室で活動していると伺ったのですけれど」

「ええ、うちは生物部ですよ。まぁ、部員は僕一人だけなので廃部同然な状態なんですけれど」

 上級生なのに一年の僕に対してずいぶんと丁寧な口調で問いかけて来たので、礼儀正しい人なんだなと思いながら小さく笑みを浮かべて歓迎の意を示すと、先輩もつられたように小さく微笑み返してくれた。

 笑顔が似合う人だな、とちょっとドキドキしてしまう。

「それで、どういったご用件でしょうか?」

 ……こういう笑顔がステキな先輩が入部してくれたらちょっと嬉しいんだけど。

 内心の照れをごまかすようにちょっと期待をこめて様子をうかがうと、先輩は不思議そうに小さく首を傾げた。

 残念ながら、目的は違うみたいだ。

「あの、ちょっと相談があってきたのですが……」

 先輩は教室をぐるりと見回して、言いづらそうに言葉を濁した。

 部室として使っている教室の中は、隅に机や椅子を積み上げて、窓際にぽつんと普段僕が使っている席がひとつあるだけ。生物部らしいところはどこにもない。何かを飼っているわけでもないし、はっきりいってただの空き教室にしか見えないだろう。

 この有様を見れば当然のことながら、相談しても本当に役に立つのかと疑っているのだろうと思う。

「どれだけお役に立てるかはわかりませんが、話していただけるのであれば出来る範囲での協力はしますよ」

 今では僕一人になってしまったけれど、去年までは部にも先輩達が何人かいてペット相談のようなことをやっていた。大々的に宣伝とかしていたわけではないけれど、先輩はどこかでうちの部のことを聞いて来たんだろう。

 僕の代でお終いにしてしまうしてしまうわけにもいかない。しっかりと相談にのってあげなくては。

 隅の方に積み上げてあった椅子の埃を丁寧に払って、先輩の方に差し出す。自分はいつもの席の方に行って、鞄を置いてから席に腰掛けた。

「それで、相談というのは?」

 問いかけると、先輩はちょっと首を傾げて何か考えるようにして、

「あの、お話の前に、まずは自己紹介をさせていただきますね」

 と言って立ったまま身体の前で両手を揃えて、ぺこりと一度お辞儀をした。

「二年二組の、細野と申します。突然お邪魔して申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 先輩はそう言って、それから先ほど僕が用意した椅子におずおずと腰掛けた。

「名乗りもせずに本題に入ろうとして大変失礼しました」

 僕は慌てて立ち上がった。

「一年三組の、中神です。よろしくお願いします」

 先輩と同様にきちんと両手を揃えてぺこりとお辞儀をすると、先輩はちょっと微笑んだ。

「それで、あの、さっそくで申し訳ないんですけれど。いい、かな?」

 自己紹介をすませたら、細野先輩はやや砕けた調子になった。

「ええ、生物部に用事ということは、何かペットに関することでしょうか?」

「はい。あの、先日、ちょっと珍しい動物を拾ったのですけれど、図書館で図鑑などで調べてみても飼いかたが良くわからなくて。生物部の方なら見当がつくのではないかと思って」

 膝をきちんとそろえたまま、もじもじとしながら上目遣いにこちらを見つめてくる先輩。

「珍しいというと、具体的にどんな動物なんでしょう? 例えば犬に似ているとか、猫に似ているとか、そういった外見的な特徴はどういった感じですか?」

 メモの用意をして尋ねると、細野先輩は非常に困った顔をした。

「ちょっと説明が難しいです……」

「似た動物が思い当たらない?」

「ええ。今まで見たことが無いです。昨日の夜、川の側を通った時に見かけて、なでてあげたらわたしについてきたものですから、情が移ってしまって。ペットとして飼おうかと」

「なるほど。では、耳の形と指の数、体色などは今わかりますか?」

「耳は、あるのかしら……。呼びかけには応えてくれますし、こちらの言葉をある程度理解しているような節があるので、あるのでしょうけれど」

「外見上は耳のようなものは無いということでしょうか?」

「ええ」

 動物、ということで単純にイヌやネコのような哺乳類かと思っていたけれど、耳のようなものが無いと言う事はもしかしたら爬虫類なのかもしれない。爬虫類はあまり普段そこらで見かけるようなものでもないし、確かに飼い方がよくわからないかもしれない。

 どこかで飼われていて逃げ出したトカゲとかカメレオンなんかを拾ってしまったというところだろうか。

 ふむ、と頷きながらメモ帳に候補をいくつか書き込む。

「では、足の指の数などは?」

「足はたぶん無いと思います。ふわふわと、宙を飛びますので」

「……は?」

 足が無くて宙に浮かぶ動物だって?? そんなものがこの世に存在するのだろうか。

 耳がなくて足もない。ということはヘビの仲間だろうか?

 しかしヘビはジャンプすることはあっても、ふわふわと宙を浮かぶなんてことはないはずだ。

「そうそう、色は夜見たときには赤かったんですよ。朝には色が変わっていたのですけれど」

 色が変わるというところはカメレオンのようだけれど、それにしたって足がなくて宙を飛ぶとは考え難い。

 そうなると……。

「……あの、もしかして、細野先輩のおっしゃる動物というものには昆虫も含まれていますか?」

 生物部なので昆虫も範囲に含まれるとはおもうけれど、それなら最初から虫といって欲しかった。

「あら、動く物と書いて動物なんじゃありませんの?」

 先輩は、きょとんとした様子で首をかしげた。

「……具体的にどういった姿をした生物なんでしょう?」

 なんだかいやな予感がしてきたけれど、気を取り直して先輩に問いかける。

 すると。

「具体的には、とってもまるい感じです。とってもまるくて、ステキに赤いです! 真っ赤でふわふわって空中を動きます。しっぽもあります」

 にこにこ微笑みながら楽しげに語る先輩の様子を見て、僕の脳裏に真っ赤な風船がゆらゆら揺れている絵が浮かんだ。その横で楽しげに細野先輩が、まるで頭をなでるかのように風船をなでなでしている様子が簡単に思い浮かんで、僕はメモ帳を机の上に放り出した。

 ……まいった。ずいぶんとおっとりした感じの人だと思っていたけれど、この分じゃ風船が風に揺られているのを見てペットにしようとでも思ったのではないのだろうか。

「あの、どうかなさいました?」

 細野先輩が、少し驚いたようにこちらをうかがう。

 僕は、先輩が自分のことを馬鹿にしているわけではないのだと理解したうえで、それでも多少の苛立ちを抑えることができなかった。それでも想像で決め付けて他人を否定するのは恥ずかしいことだと思うだけの自制心は残っていたので、ひとつ深呼吸をして、それから先輩に言った。

「すみません。今うかがった範囲では、どういった生物であるのか見当もつきません。直接見せていただくことは可能でしょうか?」

「えっと……タマは、今うちに居ますので。あの、今日でしょうか?」

 もう風船に名前までついてるんだ……。いやいや、決め付けちゃダメだ。

「いえ、無理にとは言いません。写真などがあれば、それでもかまわないのですが」

「……まぁ! うっかりしてました。最初から写真を撮ってお見せすればよかったですね!」

「では、アドレスの交換をしましょう。今夜にでも、写真を撮って送っていただければ明日までにはおそらく調べがつくと思います」

 決して下心からではなくアドレス交換を持ちかけると、警戒した様子も無く細野先輩は、たどたどしい手つきでアドレス交換をしてくれた。

「すぐにわかれば、そのままメールで返信しますので」

「はい、お願いします」

 細野先輩は立ち上がって一礼すると、教室の入り口に静々と歩いてゆき、入り口でまたこちらを向いて一礼してから去っていった。

 やっぱり妙に礼儀正しい人だ。微妙に天然っぽい感じもするけれど。

 とりあえず性格はおいとくとして、かわいい先輩と知り合いになれたのはちょっと嬉しかった。





 その日の夜はメールをずっと待っていたのだけれど、夜の九時を過ぎても、十時を過ぎても一向に写真は送られてこなかった。こちらから催促のメールを送るのもなんだか違うような気がして出来なかった。

 午前零時を過ぎた時点で、さすがに今日はもうメールが来ることもないだろうと、布団に入ってその日はそのまま寝ようとしたのだが。


 ――深夜二時過ぎに、メールの着信を知らせる音で目が覚めた。

 こんな時間に非常識な、と思いながら携帯を見るとそれは細野先輩からのメールだった。

「ごめんなさい、ちゃんとした姿が写りませんでした……だって?」

 添付されていた写真を見ると、一枚目には空の鳥かごが写っていた。

 二枚目も空の鳥かご。一枚目と特に変わったところはないようだ。

 そして三枚目。先の二枚と異なり、部屋を真っ暗にして写したらしいその写真には、鳥かごの中で紅く光る、ぼんやりとした謎の物体が写っていた。

 これは、風船なんかじゃない。はっきりとはわからないが、蛍か何かのように発光する生物だろうか?

 鳥かごが一般的な大きさだと仮定して、赤く光る物体は、直径十センチほどだろうか。

 宙に浮かぶと言っていた通り、移動中だったのか、光の帯が後方に流れていて、全体の形はぶれていてはっきりしないが概ね球体に近いように見える。

 先輩の言ったとおり、足があるようには見えないし、耳のようなものも見て取れない。

 この大きさで、こんな風に赤く発光する陸上の生物なんて居ただろうか。海の生物ならいくつか思い浮かんだけれど、陸上でこの大きさとなるとまったく見当もつかない。

 これが生物だとするなら、新種というよりまったく既存と異なる系統に属する生物なんじゃないだろうか。まだ、先輩が何か別のものを動物と勘違いしている可能性は否定できないが、すくなくとも赤い風船ではないことは確認できた。

 もしかしたら、既存を覆すとんでもない発見なのかもしれない。そう思ったらちょっと興奮してきた。

 すぐに先輩メールに返信をする。

『写真では判断がつかないようです。明日、直接見せていただくことは可能ですか?』

と書いて送ると、十秒も経たないうちに、『おっけー』となんだかすごく軽い返事が帰って来た。

 礼儀正しかったり軽かったり、ちょっと不思議な人だ。

『追伸:明日、部室にお迎えに上がりますので、授業終了後、生物部の部室にて待ち合わせいたしましょう』

 続けて先輩から待ち合わせ場所がメールされてきたので、『了解しました』と返信してその日は眠りについた。






 翌日、授業が終わってからすぐに部室代わりの教室に向かうと、細野先輩は既に昨日用意して片付けるのを忘れていた椅子に、ちょこん、と腰掛けていた。

「お待たせしました」

 声をかけて教室に入ると、細野先輩は立ち上がってこちらに向かって一礼した。

「昨夜はうまく写真を撮れなくて、申し訳ありませんでした」

 先輩はちょっと恥ずかしそうにそう言ってから、携帯を鞄から取り出した。

 それから先輩は携帯を手に、こちらを見ながら

「あの、それと昨日説明し忘れていたのですけれど、今夜は遅くなっても大丈夫ですか?」

と言った。

「え、はい。明日は土曜ですし、こちらこそ、ご迷惑でなければ多少遅くまではお邪魔させて頂きたいです」

 僕が答えると、先輩はすぐに携帯を操作してどこかへ電話をかけたようだった。

「ちょっと失礼しますね」

 先輩はそういって、静々と教室の隅へ行き、もしょもしょと通話を始めた。

 三十秒もたたずに通話終了し、また静々とこちらへ戻ってきて椅子に腰掛けると、

「家に連絡しました。今日はうちで晩御飯を食べていってください」

と言って小さく微笑んだ。

「え、あ、いえ、そこまでご迷惑をかける気は」

 僕はあわててかぶりを振ったが、先輩は「もう手配をお願いしましたから」とニコニコ微笑むばかり。意外に押しが強い。

 確かに今更断るのも悪いかもしれないなと思って、僕も自分の家に夕飯はいらない旨の連絡を入れた。うちはそれほど厳しくないので連絡さえ入れておけば、意外と融通が利く。

「では、参りましょうか」

 先輩が先に立って促したので、僕は先輩の後に続いた。

「車を待たせていますので、こちらへ」

 は……? 先輩って結構いいところのお嬢様だったりするんですか?

 と一瞬思ったりもしたのだが、案内された裏門の方に停まっていたのは、別に豪勢な外車などではなく普通の国産車だった。

「大学生の兄です」

 先輩に紹介されて運転手の青年がこちらに頭を下げたので、慌ててこちらも頭を下げる。

 無口な人なのか、車中では特にこれと言った会話も無く二十分ほど街中を走って、先輩の家に到着した。

 先輩の家は、住宅街にある普通の一戸建てだった。

 離れたところに駐車場を借りているという、先輩のお兄さんとはそこでいったん別れた。

「お邪魔します」

 先輩の家に上がると、先輩は僕を客間らしきところへ案内してくれた。

「着替えて来ますので、しばらくこちらでお待ち下さい」

 先輩はそう言って自分の部屋に行ったようで、入れ替わりに先輩の母親らしき人がお茶を持ってやってきた。

「こんにちは、お邪魔します」と挨拶をしたら、先輩の母親は「こんにちは、若い人にはジュースの方がよかったかしら?」と言いながら、急須の中身を湯のみに注いだ。

 先輩の母親も、意外に押しが強いようだ。

 注がれたお茶をつき返して、ジュース下さいなどというわけにも行かず、僕は「いえ、ありがとうございます」と湯のみを受け取っってずずず、と熱く渋いお茶をすすった。

 ぼりぼりとお茶請けのせんべいを齧っりながら先輩のお母さんと世間話をしていると、私服に着替えた先輩が降りてきた。

「お待たせしました」

 家の中では髪をまとめないらしく、正座してお辞儀をした先輩の背から、さらさらとした黒髪が流れ落ちた。

「さっそくで悪いのですが、見せていただいてもよろしいですか?」

 立ち上がって言うと、先輩はちょっと首を傾げて、それからぽん、とひとつ手をうった。

「説明をすっかり忘れてました!」

 そう言えば部室でも何か言っていたような気がする。晩御飯を食べていけということかと思っていたけれど、他にも何かあったのだろうか。

「見ていただいた方が早いですね」

 先輩の案内に従い、二階の先輩の部屋に入る。

 女性の部屋というものにはちょっとした期待と憧れがあったのだが、先輩の部屋は至って普通だった。

 机と小さな本棚がひとつ。部屋の端に飾り気の無いパイプベッドがあるだけ。衣類などは壁にある収納棚に入れているのだろうか。

 綺麗に片付いているともいえるけれど、年頃の女性の部屋にしてはずいぶんと殺風景なようにも思えた。

「あの、あまりじろじろ見ないでいただけますか。その、恥ずかしいので」

 先輩が、ちょっと頬を染めて言った。ちょっと不躾に部屋を眺めすぎたようだ。

「すみません」

 素直に謝ると先輩は許してくれたらしく、ひとつうなずいてからベッドの側にある窓の窓のさんにぶら下がっている鳥かごを指差した。

「タマちゃんは、こっちです」

 普段先輩が寝ているベッドの上に乗るのも気が引けて、ベッドの端から鳥かごを覗き込むが中には何も見えなかった。

「何もいないように見えますけど……」

 僕が言うと、先輩は「見えないけど、そこに居るんですよ」と小さく微笑んだ。

「わたしも最初は、朝になったらいなくなっちゃったと思ってびっくりしたんですけれど、夜になったらまた籠の中でステキに赤く輝いていたんですよ」

 言いながら先輩が携帯電話を操作して画面に何かを表示させて僕の方に差し出してきた。

「昨日の写真の一枚目と二枚目です。この状態だとどうしても知覚できないみたいなんです」

 確かに空の鳥かごにしか見えなかった。

 ”いる”けど見えない??

「夜中になると、三枚目の写真のように赤く輝いて見えるようになるんです」

「普段はカメレオンのような保護色的なもので姿を隠しているのかな……」

 何度鳥かごの中をのぞきこんでも、中に何か居るようには見えない。

 もっとよく見ようと一歩踏み出そうとして、膝がベッドにつかえてベタリと先輩のベッドに倒れこんでしまう。

 ……なんだか、すごくいい匂いがした。

 なんとなく、倒れこんだまま深呼吸してしまう。

「……あの、すごく恥ずかしいので、やめていただけないでしょうか?」

 先輩に制服の裾を引っ張られて我に返った。さすがに我ながら変態過ぎた。

「すみません」

 謝ると、先輩は真っ赤な顔で、ダメです、と言った。

「……夜になるまで、もうキミはわたしの部屋に入れてあげません」

 先輩は口でぷんぷん、と擬音を言いながら僕の背を押して部屋から追い出した。

 そのまま部屋に残るのかと思っていたら、晩御飯の準備を手伝うとかで一緒に一階に下りてきた。

「客間で待っていて下さい、ね?」

「……はい」

 本当はビデオとかセルフタイマー付きのデジカメとか用意してきていたのだけれど、とてもこの状況であなたの部屋にビデオとカメラを仕掛けさせてくださいなんていうわけにも行かず、僕は大人しくその言葉に従う他無かった。



 細野家の夕食は夜の七時頃のようで、客間に先輩の両親とお兄さんと先輩と僕と、五人そろってご飯を食べた。今時珍しく家族そろって夕食を食べる家のようだった。

 昨日会ったばかりの女性の家でご馳走になるというのもなんだか居心地が悪いものを感じていたけれど、無口なお兄さんは置いといて、先輩のご両親は気さくな人たちで何かと他愛無いことで会話が弾んだ。

 それほど親しいわけでもないのに、年頃の娘の家にいきなり押しかけて来た男子高校生なんてものが、こんなに歓迎されるというのも妙な気がしたが、やはりあのおっとりというか天然というかあの先輩のご両親なんだなぁというか、よくわからないぽわぽわとしたアットホームな雰囲気に包まれて、とても居心地は良かった。

 そうこうしているうちに思っていたよりも早く時間が過ぎ、気がつくともう十時を回る所だった。

「あの、先輩。時間はまだなんですか?」

「そろそろ、うっすらと形が見えてくるころです。はっきり見えてくるのが零時過ぎで、写真のように光るのは午前二時過ぎ頃になります」

「え?」

 まさかそこまで遅いとは思わなかった。

「あれ、中神くん、きみ今日はうちに泊まっていくんだろう?」

 先輩のお父さんが、ビールのジョッキを片手に言った。

「娘からはそう聞いているが?」

「先輩……?」

 先輩を見つめると、きょとん、とした顔でこちらを見つめ返してきた。

「あれ、キミ、遅くなっても大丈夫という話でしたよね?」

「遅くなるのと泊まっていくのじゃ違いますよ!」

 なんだかんだと文句を言ってみたものの、実際に見たければ二時過ぎまで待たなければならないとあって、しょうがなく家に電話を入れる。先輩のお父さんやお母さんからも、うちの親にひとことふたこと、言ってもらえてとりあえず無事に外泊オッケーということになったのだが……。

『……あんた、いつのまに相手のご両親に挨拶するような彼女とか出来たのよ? 今度はうちにもちゃんとその娘つれて来なさいよ?』

 うちの母がボソリと電話切る間際にそう言ってきたのが心臓に悪かった。

 まて、これってそういう話なのか?? 違うよな? 違うよね? 僕まだ十六歳だし。




 食事のあとも風呂を勧められたりしたが、そもそも着替えとか持ってきていないので断った。

 居間に移って、一緒にテレビを見たりして過ごすうちに、良い時間になり、僕と先輩は二階の先輩の部屋に戻った。電気をつけずに部屋の中を見ると、ベッドの脇、先ほど空にしか見えなかった鳥かごがうっすらと赤い光を灯していた。

「どういう動物だかわかりますか?」

 期待の眼差しで、先輩が僕を見上げて囁くように言った。

 いや、しかし、これって……どうみても……アレにしかみえないんだけど。

 それを見るのは初めてだったけれど、実際目の当たりにしてみるとそれはなんというか確かにアレだとしか思えなかった。

 僕は目の前の鳥かごの中で、静かに煌々と赤い炎をあげて燃える火の玉を見つめた。

「これって人魂なんじゃ……?」

「ヒトダマ?」

「ほら、あの、死んだ人の魂だったりとか、幽霊のオプションみたいにしてふわふわ周りを漂ってるやつのことなんですけど」

「……ああ」

 先輩が、ぽんと胸の前で手をひとつうった。

「この間、近くに住んでいるおばあちゃんが亡くなったんです。小さい頃はとてもよくしてもらったんですよ。そういえばタマちゃんにあったのはお葬式の帰りだったような……」

「まさか……これそのおばあちゃんだったりするんじゃ……?」

「まぁ! 死んだ後も一緒にいられるなんてとてもステキですね!」

「いやいやいや。放してあげましょうよ!」

「ところでヒトダマって、何をあげたらいいんでしょう? お線香とかお水とか、お供え物をすればいいのかしら……」

「いや先輩っ、人魂飼う気ですかっ!!」



 ……その後も何度か先輩が困った「動物」を拾ってきて相談を受けることになるのだけれど、その話はまた別の機会に。

「奇妙な動物拾ったんです。どうやって飼ったらいいですか?」

「どんな動物?」

「手も足も無くて、ふわふわ宙に浮かぶんです。色はステキに赤いです」

「……まさか、それって赤い風船だったりするんじゃ?」

「……動く物って書いて動物ですよね??」

「いや、風船は動物じゃないでしょう?!」

「さすがに動物と風船の区別くらいつきますよぅ。こんなのです(写メ見せる)」

「ってこれ人魂じゃん! 動物違うじゃん! ってか人魂とか実在してたんだすっげー!!」


 もとはたったこれだけのネタだったんですが。ここまで引っ張るのはすごく疲れました……。


 某所で公開したときに「あなたの書いたものはどこかいびつだ」と言われてひどくへこんだお話なのです。どういうことかと聞いたんですけれど、何がどう歪なのかと言う明確な回答いただけなかったので未だにうじゃうじゃと胸の奥でもやもやしています。

 「面白い」「ツマラナイ」ならわからなくもないのですが、「歪」って。あうー。

 もし「確かにどこかゆがんでるなー」と思われた方いらっしゃいましたら、どうか教えてくださいませ。

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