竜じゃないけど、ユウスケも語る ほりでぃ
何か、自分がうわぁぁーってなってると筆が進むのです…。
要望もあった(?)、ユウスケ・コンスケ回です。
「そこまで」
「はい。お疲れ様でした」
冷ややかな審査員の観察する目を背中に受けて、会場となっていた部屋を出る。廊下で並んで待っている他の参加者を見るともなく見ながら、ユウスケは冷徹な空気から、太陽の暑さの中へと出て行った。
新作ゲームのモーション(動き)も、実写のドラマやアニメのオーディションさながらに、オーディションをされる時代となった。単純に動作を人間らしく見せるだけであれば、フリーの素材を使用する等もあるが、歩き方や、ちょっとした台詞を発した時に仕草に付随する動きからでもキャラクターに更なる命を吹き込む。そんな訳で、事前に台本を渡され、その台詞を言いながら動いたり、室内に設置されたカメラを横目に、飛んだり跳ねたり槍を振り回したり、銃で飛び撃ちしてみたりと散々動いてきたのであった。
「しかし、慣れないな。あの空気」
いつの間にか凝っていた首やら肩やらを回しながらユウスケは、帰路についた。
身体の疲れよりも、精神の疲れの方が厄介で、治りが悪い。夏休みで掻き入れ時のショッピングセンターやデパートでのヒーローショー行脚等を多数こなし、慰安で温泉等にも行き身体を休めたつもりだったが、相当無理がたたっていたらしい。現実から、こっちの世界へ。大熊亭のランチタイムのウェイトレス業を終え、賄いを食べている時だった。
「ユウスケさん、今日ちょっと動きがおかしかったですね」
「…うん? あー、あぁ」
生返事で頭の上の耳もしおれているユウスケを訝しげに見ていたコンスケの前で、ゆっくりとユウスケの身体が斜めになり、そのままガターンと倒れてしまったのだった。
「え、ちょっとユウスケさん! 親父さーん! ユウスケさんが」
ふわふわした温もりに包まれて、ユウスケは意識を取り戻した。あっちで忙しくても体調管理は出来てるはずだったのに、不覚…と、自分のふがいなさに溜め息を吐いてしまう。ふわふわした物は、きちゅねだった。思わずギュッと抱き締める。家にいても安らぐ事はなく、常に何かに急き立てられている様な、何かと戦ってる様な緊張感だったとふと気付いてしまう。
「目が覚めました?」
ノックの音と共にコンスケが水差しを持って入ってきた。乾いた喉にそこから注がれる水はとても美味しく感じられる。
「都会の水と違って、やっぱり美味いな。何かすまない」
「謝らないで下さい!」
急に怒られて驚くユウスケ。
「ユウスケさんはもう少し自分の身体を大事にしてください!」
「え、ほら大事にしてるよ? こっちに来るって事は身体は酸素カプセルでお休み中だし…」
「そういう問題じゃないんです! ちゃんと『お休み』してないでしょ」
耳も尻尾も緊張で力が入って立ち上がり、怒り続けるコンスケの勢いに押されていくユウスケ。確かに、あっちではオーディション・各種の仕事。こっちでは大熊亭での手伝いに、時々王都に相談で呼ばれたりと動き回っていた事を思い出す。
「あー…。うん、ごめん」
「だから謝らないでくださいって…」
「いや、心配かけてごめん」
それを聞いて、やっとコンスケの勢いが落ち着く。ピンと張り詰めていた耳も尻尾も緩む。
「ユウスケさん。あなたは私の分身だけど、それ以前に私にとって家族です。家族が無茶をしてたら止めたいし、心配もしますよ?」
「うん…。何か、ずっと気を張り続けてたみたいでそれが当たり前になってて…」
心配そうな笑顔になったコンスケが水をコップに注ぎながら言う。
「身体は休まっていても、ずっと心は悲鳴を上げていたのかもしれないですね。明日はお休みでいいよって親父さんも言ってたので、こっちにいる間はゆっくりして下さいね」
そういって、ふんわりとユウスケを抱き締めると、コンスケは出て行った。
常に忙しく動いている、この世界を作った一人の社長。彼は確かにしっかりとマイペースに無理しない範囲で動いている。自分は最近、自らのペース『マイペース』でいたのかと、ユウスケは考え…、その無茶な動きに自分でも考えるのをやめてしまった。
「そりゃぁ…倒れもするよなぁ」
「…コーン?」
きゅっと抱き締めたきちゅねが、目を覚ますとユウスケの顔を心配そうに舐める。きちゅねも、心配してくれている様だ。もう一眠りしようかと、起こしていた身体をベッドの上でもぞもぞさせていると、コンスケがまたノックの音と共に入ってきた。
「どうも、湯上りのコンスケさんです」
「どうしたコンスケさんや」
「折角なので一緒に寝ようかと思いまして」
「いや、脈絡がよく分からないのですが…」
「はい、つめてつめてー」
「コンコン」
大きめのベッドは二人と一匹が寝ても、ぎりぎり収まる位の幅はある。身体が小さい二人だから出来る事ではあるけれども。
「ほら、一人寝は寂しいですよ?」
「お前が寂しいだけなんじゃないのか」
「まぁまぁ」
風呂上りに寝巻きになったコンスケが、ずずいっと布団に入ってくる。壁側から、きちゅね・ユウスケ・コンスケの順だ。
「ふぅ。温かいですね」
「うん、って風呂上りだから熱いんじゃないのか」
「そーじゃなくって」
そう言って膨れッ面のコンスケが、続ける。
「人って温かいですよ。居なくなったらこれも感じられなくなるんですよ」
そういって抱き締めてきたコンスケを抱き返しながら、この温かさを感じたのはいつだったか考えると、遥か記憶の彼方にしか無い事に気付き、目頭が熱くなって来るのを感じる。
「あぁ、俺にはこういうのが足りなかったんだな」
隣にはコンスケ、足元には伸ばしてきたきちゅねの尻尾。自身の尻尾に触れてくるそれらを感じながら、そのままゆっくりとユウスケは眠りについた。
「んーよく寝た」
久しぶりに、心置き無く眠る事が出来てとても安らいだ気持ちで目を覚ます。何年振りだろうか、これほど安らいだのは。
「はーいルームサービスですよー」
コンスケが部屋まで食事を運んでくれた。
「随分サービスいいなぁ」
「ええ、素敵な宿屋ですから」
冗談めかして、枕元に置いてある机にお盆を置く。
「食べさせた方がいいですか?」
「そこまではいいよ。ありがとう」
もそもそと食事をとるユウスケを見ながら、コンスケが柔らかく微笑む。
「今、とっても優しい顔してますよ。最近ずっと張り詰めた顔してたから」
「ん、そうだったか。無理しない様にしないとなぁ」
「コンコン」
椅子の近くに来たきちゅねを撫でつつ、ユウスケはこういった日々を本当に大事にしたいと、思ったのだった。
ちょっと成長したコンスケさんは、お姉さんぶったりもしたかったのじゃないかと推測。
前半のは、大体オーディション風景はあんな感じと伺いました。