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狐の尻尾は円環に

倒れた【彼】に、刀を向け動きを封じるユウスケ。さっちゃんが近付いてくる。


「どうしていきなりあんなに優勢に?」

「身体が覚えている動きだからだよ」


【彼】も含め疑問を浮かべる顔に、ゆっくりと語るユウスケ。


「あれは確かに俺の親父の動きだった。俺がよく知っているな。だから、俺が親父とやった殺陣の中で、メインの動き…シンである親父が負ける流れをやったのさ。丁度コンスケと稽古に使ってたやつだよ」


横でコンスケも疲れを見せながらも笑顔で立っている。それを聞いて、納得したのか完全に力を抜く【彼】。


「結局はヒトの形に入った時点で我の負けか…」

「俺達の勝ちを認めるか」


【彼】は目を閉じ、諦めた様に頷いた。




ようやく刀を仕舞ったユウスケ。【彼】からは殺気も怒気も感じない。気が抜けた様な気配が漂うだけだ。


「こうして我はまた世界を失うか」

「それはまだ分からないよ!むしろ失くさない為に頑張ったんだよ」


さっちゃんがそっと【彼】に寄り添う。


「あなたが【あの人】に向かっていったように、私達も、この子達もこの世界の為を思って戦ったんだよ」

「親父を超えるのは…子供の一つの試練だしな」


疲れた声でユウスケも伝える。


「俺も親父を超えたかった。だから反発もした、でも認めてもらいたかった。規模は違うけど、そういう部分もあったのかもじゃないのかな」

「どうかな…我には凝り固まった心がある故、簡単には思案出来ぬ」

「じゃあ、ゆっくりでいいからさ、見ていこうよ世界を。二人でさ」


笑顔のさっちゃんに、軽く頷くと【彼】は身体を起こすと、姿を変える。さっちゃんの少し年上のお兄さん、でもかなり大人びた雰囲気の少年がそこに立つ。


「やっと姿変えてくれたか…。流石に自分の親父に刀を、向け続けるのも疲れたんだよな」

「ふふふ」

「コン」


後ろからやってきたきちゅねを撫でながら、コンスケも柔らかく笑う。


「さてと…じゃあその譲渡とやらを…」


ユウスケがそうやって喋り始めた途端、揺れる洞窟。そしてF.D達が来た時に開けた真上の穴から、あの甲虫がポトリと降って来る。


「うげ!」

「穴開いたままだった。みんな迎撃を! 狐ちゃん達こっちへ」


見守っていた竜達が戦闘態勢になり、慌てて迎撃を始める。流石に守備隊の遥か上を行く存在達。易々と撃退するが、どんどんと現れる虫達。さっちゃん、【彼】、ユウスケ、コンスケ、きちゅねは奥の大きな建造物の所に急いで進む。


「これが、正真正銘『天国の門』。二人共ここへ」

「私もですか!?」

「だってよ、ほら」


手を引くユウスケに連れられて門の直ぐ目の前へ。他の門がブロンズの渋い色だったのに対し、大理石ででも出来ているのか、乳白色にほのかに光る門。以前ユウスケが見た時と色まで違っている。その門の真ん中にある鍵にユウスケとコンスケを触らせると、おごそかに二人が告げる。


「たとい様々な言の葉用いようとも、愛なくば抗ず(あがらえず)」

「全ての技全ての知識を得ようとも愛無くば意味無く」

「故に、愛なければ益もなし」

「故に我、汝らに捧げよう彼のかのかぎを」


眩い光と共に、扉は開き、その先にはただ光が見える。二人は進めという視線と共に中へと進む。



いつか見た、本来のユウスケの姿とコンスケが歩く。ここを進めばいいのだと何故だか分かる。


「コンスケ…行って来るよ」

「ユウスケさん…戻ってきますよね…」

「ああ…約束する。お前は俺の家族・妹・そして分身だ」

「待ってますから、どれだけかかっても」


徐々に二人の輪郭も眩しい光の中で見えなくなりそうになる中で、ゆっくりとユウスケがコンスケを抱き締める。


「生まれてきてくれてありがとう。俺に出会ってくれてありがとう」

「私の所に来てくれてありがとう。私を生みだしてくれてありがとう」


光はどんどんと強くなり、意識は溶けていった。






















「雨降りは嫌だなぁ…」


ランチタイムが終わった後の雨。湿気で尻尾は蒸れるし、片付け物も何だか捗らない。ピーク時に降ってくれれば、お店が混まないから楽なのに。でもそうすると、売り上げが。そんな事を考えながら、賄いまでの時間の後片付け。


あの後、竜の皆さんと、本領を発揮したさっちゃんと【彼】の二人とが、どんどん虫を倒していく中、虫の動きが悪くなり、ついには消えていった。ユウスケさんがあっちで問題を片付ける事が出来たみたい。ただ、その場でどれだけ待ってもユウスケさんは戻ってこなかった。仕方なく大熊亭に帰った私は、親父さんと女将さんにユウスケさんはまた旅に出たと伝えた。また必ずやってくるはずとも一緒に。きちゅねさんは私と一緒にこっちにいる。最近は九本目の尻尾がちょびっと生えてきた。あれって時間で回復するみたい、便利だね…。でも、私のこの開いた心の隙間は時間をかけても戻らない。お客さんも、親父さん達も寂しそうだったけど、段々と慣れたみたい。旅人はいつか去るものだからって…。ちょっと涙出てきた…、いけないいけない。まだ仕事中。


「親父さん、ちょっとお手洗い行ってきます」

「あいよー」


厨房に声をかけて、お手洗いでちょっと涙を拭いていると、入り口のドアが開く音。


「いらっしゃいませ!」


親父さんのその声に慌てて、私もお客さんを迎えに行く。びしょぬれのマントを羽織ったその姿は、フードを取りながらゆっくりと笑った。


「雨降りは、ヤだな」

「遅いですよ!」


思わず濡れるのも構わず飛び込んだ私を優しく抱き締めてくれたその姿は、金髪・釣り目の私の分身。


「いやー。管理者の譲渡ってあれゲームマスターの権限じゃんな。おかげでこっちも相当ドタバタしたよ。社長とも色々調整しなきゃいけないし。バグはそれこそ目で見てきて教えられるから、最強のデバッガーだけどな~」

「専門用語はわかりません! いつまでこっちに?」

「また当分いるかな。何せ、ゲームマスターだし、この世界じゃ神様みたいなもんだしな」


二階で昼寝してたきちゅねさんもとことこと降りてきて、私達の所へ。


「ただいまコンスケ、きちゅね」

「お帰りなさいユウスケさん」


私達の尻尾の物語は、まだまだ終わりそうにもないみたい。

譲渡の言葉は、結婚式の誓いの言葉をもじってあります。

シン:音でしか存在しないので真なのか、芯なのかは不明ですが、その殺陣で一番中心の動きをする人。ボスキャラの殺陣だと、ボスがシンです。


実に約一年半かけて、ふぉっくすている完結しました。各竜の生い立ちの話とか、まだ書いててお蔵入りしたこぼれ話とか、結構あるので、徐々に載せていけたらなと思います。とにかくここまで書けたのは読んで下さる方がいたからです。感想や、少しずつ増えていくお気に入りの件数に相当励まされました。


最後までお読み頂き本当にありがとうございます。読んで下さった全ての方に感謝を!

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