オイディプスコンプレックス
かなりアクションシーンが多めです。読みづらくない様には頑張りましたが…読みづらかったらすみません。
右手と右足を後ろに、左手を前に突き出し、その握った拳をゆっくりと開いて手の平を上に。そして指四本で招く。カンフー等の動きで「かかってこい」の形だ。
「動きもトレースしてんのかよ」
「中々ヒトにしては身体が軽いぞ。来るがよいユウスケ」
「その顔で、俺の名前を、喋るな!」
素早く距離を詰めて刀を上段から抜き放ったユウスケの動きを、どこからか出したのか、黒い両刃の剣で受け止める【彼】。空中で一瞬止まった後に、斬り付けた勢いで後ろに飛びすさり、距離を取るユウスケ。
「ユウスケさん…」
「コンスケ…ある意味最強だぞ…あれは。俺は今まで一度もだって勝てた事なんかない…」
剣を払った状態から自分の身体を確かめる様に拳を握ると、【彼】はゆっくりと近付いてくる。
「二人でかかってきてもよいのだぞ」
「コンスケ、行けるか」
「頑張ります…」
刀を構えるも、腰が逃げ震えているコンスケに、ユウスケが叱咤する。
「コンスケ、本番は稽古の様に、稽古は本番の様に。リラックスだ」
「は、はい…」
少しずつ迫る【彼】のプレッシャーに負けない様に、ユウスケが先に飛び出し剣と刀を合わせる。上、下と打ち合い突きをかわし、逆に突きを入れ、それを弾かれた所で勢いのまま身体も流しつつ、相手の死角から切り上げる。それを受け止め、体勢を崩した【彼】に逆の側からコンスケが腹を狙って突き込む。たまらず力任せに剣を振るい、二人を吹き飛ばす【彼】。
「まだまだ!」
バックステップで剣の間合いだけ距離を取っていたユウスケが、直ぐに【彼】に迫り袈裟懸けに切り込む。これも弾かれるが、弾かれた瞬間に腕を返し無拍子(通常の刀等のリズムを外した攻撃)で突きを入れる。
「ぐ」
初めて相手の胸板に少し傷を付け、やったと顔がほころんだユウスケだったが、次の瞬間に寒気が走り慌てて顔を逸らす。ついさっき自分の顔があった地点に【彼】の剣が通過していた。
「あぶね。でも一撃入れたぜ」
「ようやく馴染み始めた所だ」
軽口を叩いているが、徐々に速度を増す剣戟に、そして見慣れた顔が模造刀ではなく、実戦の刃でもって悪意を持って斬りつけてくるのに段々と気圧されてしまう。防御効果が高いと言っても服。袖や襟元が避け切れなかった分、自分の身体の代わりに刻まれていく。ついに、速度の上がった【彼】の剣に、思い切りユウスケの刀が弾かれ、がら空きの腹に蹴りが入り、吹き飛ばされる。きちゅねが慌てて追いかけ、空中で受け止める。
「さんきゅ…、きちゅね」
「コン」
「やっぱり一人では無理だ。コンスケ、手を貸してくれ。他のみんなは手を出さないでくれ。それでいいだろ?」
「あぁ。貴様等二人以外が手を出すならば、我もヒト以上の力を使わせてもらう」
自分側に有利に導いているはずの戦況に、しかし不安は尽きない。そもそもただの一度も勝てた試しの無い自らの父親と同じ動きをする【彼】。二体一とはいえ、勝てるのか。
「いや…勝たなきゃいけない。だろコンスケ」
「そうですよ。勝って帰るんです」
「コン」
寄り添うきちゅねとコンスケに、囁くと、正眼の構えで相対する。コンスケも大きく息を吐き出すと、ゆっくりと同じ構えを取る。竜達に囲まれ、さっちゃんも固唾を呑んで見守る中、ゆっくりと場の空気が緊張していく。鋭く息を吐く音と共に、ユウスケが仕掛ける。上段からの振り下ろしはかわされ、逆に頭を狙って繰り出された鋭い打ち込みを身体が地面につく程下げて回避。がら空きになった【彼】の背中をコンスケが短めの護身刀で、逆手で斬り付ける。それを背中で感じ、足の裏で当てる様な背面の蹴りをカウンター気味に入れる。伏せた姿勢から、足払いをかけつつ一回転してその遠心力での薙ぎ払いを剣を立てて受ける【彼】。そこにさらにパンチで追撃。よろめいた所をさらに一撃入れようとして、腰を落としながらその勢いで出された【彼】の蹴り上げに思い切り鼻を打たれるユウスケ。姿勢の下がった【彼】にダッシュジャンプで飛び蹴りを入れるコンスケ。腹にしっかりと刺さる。そのまま、ユウスケの方へ転がるコンスケ。
「やるな…コンスケ。ラ○ダーキックか」
「ユウスケさん鼻血が」
手で無理矢理血を拭き取り、よろめきながら立ち上がるユウスケ。
「明らかに速度が上がってきているぞ…気をつけろよ」
「はい。踏み込み過ぎず、攻撃を受けた瞬間に身を引く感じ…ですよね」
その通りと、鼻を押さえながらユウスケが頷く。二人が立ち上がったのを見て今度は【彼】が隙の少ない擦り足で近付いてくる。こちらも左右から打ち掛かるが、素早く打ち分けられ、逆に剣の平で叩かれ腕が腫れる。それでもユウスケはともかくコンスケまで手を離さないのは、最早気合・気持ちのレベルの戦いだった。なぶる様に、何度も打ち掛かかってくる二人を叩き、気まぐれに斬り、尻尾の端・服・頭の上の耳、傷はどんどん増すが、【彼】への有効打は中々入れられない。しかし、ユウスケは傷が増えながらも徐々に笑みがこぼれてくる。それを見た【彼】が訝しげに問いかける。
「どうした?あまりの劣勢でおかしくなったか」
「いや…分かった。お前は俺には勝てない。俺達には勝てない」
ついに笑い出したユウスケを、竜達やさっちゃん、きちゅねコンスケ、そして【彼】も黙って見詰める。ひとしきり笑うと刀を一度納刀し、いつでも抜ける様…鍔に指をかけ、身体を脱力させ自然に構える。
「終演にしよう神よ…。コンスケ構え! 抜刀正眼!」
「え、あ、はい!」
気合を込めたユウスケの声に、ボロボロのコンスケも稽古の時の様に、しゃんとして構える。
「行くぞ…」
一気に二人一緒に【彼】に駆け寄ったかと思うと、【彼】の直前で左右に分かれる。
「シャッター!」
左右に分かれた勢いのまま、場所を入れ替える。そのまま【彼】の右側に移動したコンスケが上段から打ち込み、それを止められて腹に一撃蹴りを見舞われる。しかし、コンスケはそれを分かっていたかの様に、すっと避ける。驚く【彼】の左から同じ様に上段、腹への攻撃をすぐに避けるユウスケ。
「どうゆうことだ」
それには応えず、次々とコンスケに指示を出しながら自身も攻撃を加えていくユウスケ。これまでの防御が嘘だった様に、次々に自らに決まっていく攻撃に動揺を隠せない【彼】。
「何故だ! 何故なんだ!」
「やまかけからの、ニイボリ! そして千鳥!」
徐々にコンスケも何かに気付いたのか笑顔になりつつ、身体は軽く次第に【彼】を追い詰めていく。
「一体何が起きているというのだ!」
「身体に…聞いてみな! 行くぞコンスケ、一閃!」
「はいな!」
距離を取った後に、左右から一気に斬り抜ける二人に為す術なく胴を斬られて、ゆっくりと後ろに倒れる【彼】。その顔は自身が斬られた事による衝撃と追いつかない思考で、呆けた様であった。
アクション(ヒーローショー用語です)。
やまかけ:相手の頭の上を左右に斬り分ける技。相手が避けるの前提の動き。
ニイボリ:某有名なアクション俳優が殺陣でよく使う技。人によってニュアンスが若干変わります。
千鳥:千鳥足にも見える様な左右の足を前にフラフラと踏み出しながら交わす様な動き。