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神が終わらせし、デウスエクスマキナは許さない

古代の演劇で使われていた手法の一つで、こんがらがった芝居も最後は神等が出てきて全部都合よく解決してしまうという演出の一つ。機械仕掛けの神等とも言います。

ドサリと、九尾の狐が咥えていたF.Dの身体を投げ捨てる。


「すまねぇ…もうちょいだったんだが…」


いつもの元気な眼はなく、瀕死の状態なF.Dに思わず駆け寄るユウスケ。


「おい、大丈夫か!大丈夫なんだろうF.D!」

「ヒトにくみする者はこうなるのですよ…」


F.Dは少しだけ笑顔を見せると意識を失った。折しも、炎を捌き切れなくなったMDが倒れた時だった。ファータがM.Dの肩を揺するが反応がない。嘲る様に呟いた九尾の狐も余裕なさそうに倒れる。


「あれを…俺らでどうにか…出来るのか…」

「さっちゃん、魔法何かないんですか」

「私のは攻撃には使えないんだ…。出来るのは…せいぜい…」


竜の開放に体力を使うのか、消耗しているさっちゃん。


「無様だな。頑張ったから何かあるのか。頑張ったから何か報われるのか。足りなければ同じだ。そやつらは我に負けた。ただそれだけだ」

「そんな…。そんなっ…!」


ただ淡々と感情すら篭らない声で返す【彼】。絶句するコンスケを奮い立たす様に、声を上げるユウスケ。F.Dの頭を軽く抱きしめた後、ゆっくりと立ち上がる。


「俺は認めない…。こんな理不尽なだけの結末なんて三文芝居以下だ。物語は見終わった客が幸せでないといけないんだよ。だから!」


そう言って【彼】に向かって駆ける。


「きちゅね!リベンジだ、来い!」

「コン」

「コンスケ!援護を」

「は、はい!」


自分に向かって来るユウスケに炎を吹き掛ける。それを避けながら横合いから来たきちゅねに走る勢いのまま飛び乗り、左右前後と走り回る。コンスケが動き続ける10本の首に出来るだけ狙いをつけて妖精の杖を振って援護する。


「ちょこまかと…」

「きちゅね、壁も使え!」

「コン!」


走る勢いそのままで壁も三角飛びの様にし、炎を避けつつ急接近した所で、すれ違い様に一撃を入れる、…が浅い。逆に勢いよく振り抜かれた首が巻き起こす風できちゅねが体勢を崩す。まだだとばかりに、きちゅねからユウスケは飛び上がると、目の前にあった顔の一つに上段から一気に刀を振り下ろし、その軌跡が相手の上顎をしっかりと切り裂く。追撃してくる他の首を回避し、飛んで来たきちゅねに掴まって後退する。逃げるユウスケを追撃しようとした所にコンスケの杖からの弾が当り、閃光でも当てられた様にクラクラと戸惑う首の一本。


「効いてはいるみたいだな」

「少しは…効果ありそうですね」


ユウスケの攻撃で少し動きが鈍るも、まだ残りの首は健在。近付かせない様に、間断無く炎の弾が飛び、まるで炎の壁である。と、その乱射された炎の一つがコンスケの方向へむかう。消耗してまともに動けないさっちゃんを連れて、壁際に逃げてはいたが、運悪く着弾コースだ。


「う、ささやいて、祈って、念じて…」

「駄目!間に合わないです!」

「うぉぉぉぉ!」


きちゅねの限界以上の速度を出させ、さらにそこから身体を張ってユウスケが盾になる。勿論直撃だ。


「ユウスケさん!」

「ユウスケちゃん!」


声すら上げず、地面にドウと倒れるユウスケ。相当防御効果があるらしく、服は少し焦げただけだったが、衝撃はさすがに殺し切れずダメージとして通ってしまってた様だ。


「もう、幕切れか」


ゆっくりと、【彼】が身体を向ける。ユウスケを庇う様に、きちゅねとコンスケが前に出る。それにさっちゃんが後ろから、小さい声で伝える。


「少しだけ時間を稼いで…お願い」


前を向いたまま頷くと、コンスケはきちゅねに跨り、無謀にも前進する。それを見た【彼】も攻撃すらせずに傍観している。


「何をしようというのだ?」

「私には…、私にはこの世界を守りたいという気持ちがあります。そして…、そしてユウスケさんをちゃんと元の世界に還さないといけないです。だから…だからここで倒れて諦める訳にはいかないんです!」

「…コン…スケ…やめ…むちゃ…だ…」


近付いてきたコンスケを馬鹿にした様に、ゆったりとした動作で構えていた【彼】だったが、突然尻尾を思い切り伸ばすと、きちゅねごと捕まえると一気に締め上げる。


「無駄だ…。祈りも、希望も、気持ちも、全て意味等ない」

「無駄な事なんてっ!うぅ、ありません!」

「ココン…」


それを何の感慨も無く見つめた【彼】だったが、


「では、その身で直にそれを感じるがよい」

「あぁぁぁあぁ」

「やめ…ろ」


その時、洞窟が、山自体が激しい音と共に大きく揺れる。


「その通りであります姫よ。無駄な事など、この世にありはしませぬ」


天井に何かが何度もぶつかる激しい音と共に、何かが山を貫いた。視線を上げた【彼】の上に巨大な氷の塊が降ってくる。さらに天井の穴から水晶の矢が飛んでくると、コンスケを尻尾から開放する。


「お待たせ!さぁ反撃するわよ!みんな」


氷の塊に見えた物、それは氷で出来たソリ。そこから、H.Dが叫び、I.D、C.D、S.Dが降り立つ。さっちゃんが安堵の息を吐く。


「よかった、間に合ってくれた…」

「転移ありがとうさっちゃん。僕達もヒヤヒヤしたよ」

「我が姫を、我が主を傷つけ、あまつさえ世界の破壊を見逃すとは、是は如何に。あなたとは言え許せぬ所業」

「…あっちは、私の水晶とI.Dの氷でそこいら中、防御張りまくって来たわよ…疲れた…」


衝撃で目覚めた九尾の狐が頭をもたげて威嚇する。


「貴様ら…」

「さっちゃん、全員の解除をお願い。私だけだから回復させられるの」

「了解だよ、H.D。ささやいていのって念じなさい!H.Dことハーブドラゴン、C.Dことクリスタルドラゴン、S.Dことスタードラゴン、I.Dことアイスドラゴン!」


一斉に巨大な竜が、そして龍が降り立つ。真珠の様な輝きの竜、光を乱反射するクリスタルで覆われた龍、氷の精緻な彫像の様で足がなくそのまま下半身は尻尾となっている竜。そして星の煌きを宿した如く内から光を放つ、シャープで蒼い一番小さな竜が、S.Dの声で宣言した。


「僕達のターンだね」

漢字の成り立ち的にはどちらも諸説ありますが、「竜」を西洋のドラゴン、「龍」を東洋のドラゴンをイメージして漢字を分けて使っています。

『足がなくそのまま下半身は尻尾となっている竜』はリンドブルムという、よく紋章にも使われる後ろ足がない竜です。


2/20 12:00 少しだけ修正

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