表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/56

魔性なる者は

巨体同士が激しく戦う音が遠ざかっていき、目指すべき山は、その灰色の姿を隠すことなく少しずつ視線の中で大きくなる。あちこちに開いている穴や、倒木を超えつつ一行は出来る限り歩みを速め進んで行った。時たま現れる甲虫をM.Dの霧やファータの杖であしらいながら、時間はかかったがようやく山のふもとまでやってくる事が出来た。


「身体が拒否してるのかな…。怖いです…凄く」


そう言って震えているコンスケをユウスケが優しく頭を撫でる。


「お前も俺も、ここはトラウマだからな…。仕方ない。でも、乗り越えるさ。一人じゃないしな今度は」

「ユウスケさん…」

「ココン」


きちゅねも元気づける様に鼻を押し当てる。きちゅねを優しく抱き返しながら、かぶりを振るとコンスケは前を向いて歩き始めた。



B.Dを先頭にし、険しい山道を登る。B.DもM.Dもその変わらぬ歩みから疲れた様子は見えないが、緊張からか口数は少ない。さっちゃんもこれからの事を考えてか、意思を込めた強い眼差しで目前を睨む様に見ながら登っていく。たまに蹴飛ばして落ちていく小石の音にも敏感になりながらも、前回きちゅねに乗ってユウスケがかかった時間の二倍程もかかって、山頂の洞窟まで辿り着く事が出来た。息が上がっているコンスケに、鞄から水筒を取り出してユウスケが飲ませる。


「コーヒーじゃないが、勘弁な」

「ここに来て酔っ払う様な事しませんよー」


軽口に少しだけ場が和む。F.Dがまだ追いついて来ない事に気がかりを覚えつつ、さっちゃんを先頭にして一行は闇の中へと入っていった。




警戒の明かりは点けず、出来るだけ皆固まって進む。重い足取りと暗闇の為に長時間歩いているかの様に錯覚してしまう。


「…これは、オーディションより緊張するな…」

「まぁ…ある意味査定という訳だな、命をベットしているが」

「パッシィオーネで通じる相手でないのが、あるからな…。我が主と違ってな」

「コン」

「簡単に話しが通じてくれたらいいんだけどね…。私だって…気が重いなんてもんじゃないよ…」


と、さっちゃんが足を止める。


「噂をすれば着いたよ…。私が先に行くから…後からついてきて」


どうにか返事を音にする面々。コンスケが伸ばしてきた震える手をしっかりと握るとユウスケも少し震えている。通路の先のかなりの広い空間の中心に闇が固まっている。さっちゃんが近付く気配にそれが動く。


「何用だ、我が半身」

「何様かな、我が半神さん。この世界の状況を見ても私が来た理由すら分からないなんて」


巨大なうずくまる影に向かって、最初からかなり喧嘩腰のさっちゃんの言葉に、一行は冷や冷やしている。


「バグはこの中心であるこの場所にも迫ってる。大陸あちこちが大変な事になってる。あれの大元を処理するには【人】の手も借りなきゃいけないのが分かるでしょ?」

「だからどうした。神は君臨するのみ」

「それで民が滅び様としても黙ってみているだけ?しかも手段があるのに、見殺しにするならそれは【魔】だよ」

「我を魔神と呼ばわった事もあったな。あの【神】も」

「魔神は討伐されるか、封印されるもの。何で分からないの!何でまた繰り返すの悲劇を!」


まるで通じていない【彼】に焦りから、言葉も感情も激するさっちゃん。止めた方がいいのかどうすべきか、一行も動きが取れない。


「何もする気がないなら、管理者を代わりなさい。その資格がある者もここに連れてきてるんだよ」

「ヒトを呼び込んだのか貴様!」


初めて感情が動いた【彼】は、その勢いのまま足を踏み出すと、尻尾で思い切りさっちゃんを吹き飛ばす。悲鳴を上げて飛んできたさっちゃんを、思わず飛び出したユウスケときちゅねが受け止める。


「軽くて助かったぜ」

「コン」


吹き飛ばされた事よりも、やはり通じなかった事に悄然とするさっちゃん。うなだれたままだったが、静かに決意した声を出す。


「どうあっても、あなたはこの世界をこのまま滅ぼすのね」

「私が神だ。私の世界にヒトの介入は許さぬ」

「最早、ただの荒神だよ、あなたは…。だったら…」

「だから我は…」

「あなたを…」

「貴様等を…」


全身伸びた【彼】は、10本の頭をもたげ炎の塊を吐き出した。慌ててM.Dも霧を放つが、すぐにかき消される。通路から広くなった空間に皆飛び出し散開する。


「解除するよ二人共!M.D、B.D、ささやいて、いのって、ねんじなさい!M.Dことミストドラゴン。B.Dことブラックドラゴン!」


その瞬間霧が凝固し、薄もやの様なおぼろげな姿ながらも意思持つ瞳の、霧で出来たドラゴンが現れる。ファータも近くに飛んでいる。B.Dの方は、先のF.Dの1.5倍位のサイズの光を吸収する漆黒のドラゴンになる。その強靭な爪、足はあまりにも凶悪に見える。B.Dが飛んでくる炎を食らいながらも肉薄し首の一本に噛み付き、爪を振るう。


「全ては夏の夜の幻のごとしか」


M.Dが呟くと、M.DとB.Dの姿が10体程に増えて、それぞれが独自の動きをしつつ牽制する。


「実体はないが、痛くない分けではないぞ ミオディッオ、我が神」


その言葉の通り、炎の流れを捻じ曲げて壁に進路を変更させ、さらに合間を見て突き刺さっていく爪の斬撃は薄いながらも【彼】に傷をつけていく。さらに追撃とばかりにB.Dが爪を振るう度、辺りに血が噴出す。


「これはいけるか…」

「ですです!」

「いや…足りない…」


ユウスケとコンスケには優勢にしか見えないのだが、横にいるさっちゃんの声は暗い。B.Dがついに首の一本を吹き飛ばす事に成功するが、そこからすぐに新しい首が生えてB.Dの顔に炎を吹きかける。


「ぐ…流石我が神」

「神に逆らう反逆者に死を」

「エビターレ 避けろ B.D!」


あちこちに向いていた首が一斉にB.Dに向かって炎を連続で放つ。M.Dが必死に逸らそうとするが、数が多過ぎてあっという間に、B.Dの身体が焼ける。声もなく、B.Dは地に倒れこむ。辺りに肉の焼ける嫌な匂いが広がる。


「マスター!」


コンスケの声にもピクリともしないB.Dの身体を【彼】は壁際に蹴りつけて吹き飛ばす。M.Dが慌てて霧の分身を増やすも、嵐の様に振り回された首と斬撃でその数を減らす。


「まずい…M.D一旦下がって!」


M.Dもそのつもりなのだろうが、攻撃の激しさに動きが取れない。その時、通路から巨大な影の気配が。


「F.D!間に合ったか!」


ユウスケが嬉しそうに声を上げたが、その声に応えたのは酷薄な笑いだった。


「炎は消えるのですよ、ヒトよ…」


残り2尾の状態にまで弱っていたが、後ろからやってきたのは九尾の狐であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ