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かく語りき

「見た限りは、問題なさそうだな」

「そうですね」

「コン?」


随分と久方ぶりのリーフタウンへの帰還。緊張していた二人だったが、村はいつも通り平穏な気配であった。二人と一匹は大熊亭へ向かう。


「ただいまですー!」

「戻りました」

「コン」


もうお昼の営業もとっくに終わり、夕方になる手前といった時間。そののんびりした時間を楽しむ様に入り口入ってすぐの食堂でお茶を飲んでいた女将さんと親父さんが二人共テーブルから立ち上がって出迎えてくれる。


「二人共大丈夫だったかい? 何か王宮の方が危ないとか噂になってるんだよ」

「その様子だと大丈夫そうだけど、怪我もないみたいでよかった」


そういって二人を交互に抱き締める女将さん。驚きながらも、抱き返すコンスケ。照れて動けないユウスケ。


「そうだ、何か羽の生えた女の子が探してたぞ。二人が戻ってきたら烏龍亭へ来て欲しいと言っていたぞ」

「はい…」

「行くか…コンスケ…」


落ち着いてしまうのもあれなのでと、二人は荷物を置くこともなくそのまま烏龍亭へと移動した。



「…こんばんわ」

「来たぞ…さっちゃん…」


これから起こるであろう事に、重い心と足をひきずり扉を開く。


「待っていたよオキツネさん達」


黙ってお茶の用意をし始めるB.D。邪魔にならない様に、静かに楽器の演奏が始まり店の外の僅かな音も聞こえなくなる。コンスケがいつも座っていたカウンター席に座り、ユウスケがその隣、さっちゃんはテーブル席、B.Dはカウンター内で黙ってグラスを磨いている。きちゅねはコンスケの足元に落ち着く。


「どこから…話したらいいかな…。二人には全部を知って貰わないといけない…」


各人の前に、コーヒーやお茶が用意されると、いつもの華やかな雰囲気とは違い大人びた…いや老成した様な声でさっちゃんが語り始めた。






あーどこから話せばいいのやら。とりあえずユウスケちゃんが最初に会ったあのでっかいのが、私の半身いや半神。あぁ、私も一応神とか言われているものの一人ね。君達みたいな分かれ方はしてないけど、私が後から分離する様な感じで生まれた形になるかな。


君達がM.Dの舞台で歴史をやってたけど、大まかにはあんな感じ。君達が【神】とも呼ぶあの方に勝負を挑んで負けて、1000年封印され、それでもまた挑んで今度は民ごと1000年封印されて…。その間に憎しみを育んで固まっちゃったんだろうね。人もそうだけど、私達も夢を見るんだ…。彼は、彼だって元は【神】側にいた一人だもん。良い夢だって見るよ。そこから…気付いたら私が生まれたんだよね。私は力は勿論半分もないから、口で少し言い負かそうとするだけ…。そんな彼の夢の一つにさ、自分の「世界」が欲しいってのが、何時の頃からあったんだよね。そういう夢の流れから、もしかしたら私が生まれて、この世界への道を開いたのかもね。


この世界がゲームの中だとってると思うけど、半分は当たりで半分は、違うの。もうね、くっついてるの。あの神無月社長が作ってる時の構想という夢と、彼の夢が途中から混ざってしまって。NPCにしてはみんなリアル過ぎるでしょ?元々の民が結構移民してるんだよ。民もそんな意識はないけどね。


彼が寝てる間に、君が住まっているこの国を見ていたけど凄いね。神を迫害しない。寧ろ、八百万全てを受け入れて信仰して、親交しちゃうんだもん。そりゃ彼との接点もあるよ。だってうちらは迫害されてたもん。ま~一応、堕落したものの象徴だとかにされる事もあるし、私だって背中のこれ悪魔ぽいしねー。でも違うんだよ。他から都合が悪いから消されただけで。だからこそ、その憤りで彼も1000年ごとに攻撃を仕掛けちゃうんだよね…。


B.Dを初めとして、「D」の名前を関した7人は私がこの世界に呼んだんだ。世界が壊れないように本来の力は封じているけど、それでも彼ら彼女らはそれぞれの理由でここに来てくれた。でも、この世界は今壊れかけてきてる。手を打たないと壊れる。あの君達も見た【虫】。文字通りの電子上のバグなんだよ。あれは世界を食べて壊す。本来なら社長達、人間が手を入れれば時間はかかるけど修正は出来る。でもね、彼が…今それを許可してない。人間自体に怒りを感じてしまっているんだ。ここも人間が作り出した世界なんだけどね。感情が先に来過ぎてる。もう私の言葉も届かない。でもほおって置けば世界が壊れる。だから私が君を君達を呼んだんだ…。勝手なのは分かってる。でも私は、あのまま意識が離れて冷たくなっていくあの身体を放置も出来なかった。


管理者を、この世界の神を本人の了承なしに変更するには、7人の私が呼んだ彼ら彼女らの認証が必要。だからずっと見守ってたんだ。


私はこれから【彼】に話をつけにいく。ユウスケちゃんに管理権の譲渡を。それが無理なら…最悪は強硬手段をとってでも。彼は暴走してるけど、本当はこの世界が好きなはず。私だって大好きだし。だから…お願い…。一緒に来て欲しい。力を貸して欲しい。





そういって常とは違う真面目な雰囲気に押されつつも、ユウスケは返す。


「俺が…戦力になるのか…? あんなのに対抗出来るのか…」

「こっちも無策じゃないし、君達は十分戦力だよ」

「私も!?」


コンスケは自身も戦力に数えられている事に驚いている。


「コンスケ、肉体だけなら、俺とお前は基本同じだし、最近ちゃんと稽古してるし、動けるはずだぞ。自信はないと思うが」

「でもー」

「やってくれるの…? 二人共…」


じっとテーブルを見つめていたさっちゃんが、おずおずと顔を上げる。


「だって、私達の世界でしょ? 私が役に立てるか不安だけど」

「俺もここまで来たら、ひけないしな」


さっちゃんを二人は笑顔で返す。


「本当にありがとう…」


さっちゃんは深々と頭を下げた。





「いただきます」

「いただきますー」

「コン」


場所は変わって大熊亭。【彼】の元へ行くための用意があるので、今のうちに腹ごしらえしておきなと、さっちゃんの言葉に二人と一匹は、迷わず大熊亭の食事を選んだ。賄いの時間から考えても遅いだろうに、親父さんは何も言わずに二人に食事を用意してくれた。


「…最後の晩餐か…」

「何ですかそれ?」

「気にするな。しっかりと食べておこうぜ」

「コン」


しっかりと、味わう様に終えた食事の後、ユウスケは二階の部屋へ行った。大した荷物もないけれど、改めて刀、マント等を着直し、部屋を片付ける。一階の食堂に戻ると、コンスケは用意が終わった様で親父さんと女将さんと食後のお茶を飲んでいた。


「行くか、コンスケ」

「はい」

「また…出かけるのか?」

「戻ってきたら今度はゆっくりしなさいね。疲れも抜けないわよ」

「そうですね。ゆっくりしたいものです」


そう言いながら、親父さん・女将さんの順にユウスケはハグし小さな声でありがとうと言うと、玄関から出て行った。


「何だか、もう会えないみたいだね。二人共すぐに帰ってくるんだろ?」

「お店の方はどうにかなってるけど、二人がいないと華がないって客がごねるんだよなぁ」

「私だって華じゃないか」

「ちげぇねぇ」


そういって笑い合う二人を見て、コンスケは静かに微笑むといってきますと玄関からきちゅねを連れて外へと出ていった。

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