揺らぎ
王宮守備隊の連携攻撃は目覚しい物があった。巨大な甲虫相手に馬で素早くかく乱し、わざと動きを遅らせた部隊の所に虫を誘い込むと、横合いから槍を構えた一陣が甲殻の隙間から的確に攻撃を入れる。かなりの硬度がある様で、少しでも外れると槍が簡単に弾かれていくのが見て取れる。多少甲虫が暴れて傷ついた者もいた様だが、ほぼ無傷で虫を撃退する事が出来た。
その後、警戒の為に残った部隊以外と共に、王宮ナイルシックスへと無事に一行は辿り着くことが出来た。久しぶりに来た王宮は物々しい厳戒態勢で、門は跳ね上げられ城壁の上では弓部隊が隙無く周囲を見張っている。守備隊の旗を見た見張りの兵が門を下ろし、素早く通過した後に、また急いで門は跳ね上げられた。
王宮に通された一行をS.Dが出迎えてくれる。ここでは落ち着かなかろうと、一階奥の食堂へと通された。
「お疲れ様二人共。あ、きちゅねさんも勿論お疲れ様」
メイドさんが淹れてくれた紅茶の香りが馬車の旅で疲れた一行を癒してくれる。
「まさか、俺らも虫に襲われる何て思わなかったよ。守備隊も随分いいタイミングでいてくれて助かったよ」
「うん…。コーラルタウンから、今度はこっちに流れてきたみたいで、僕達もずっと厳戒態勢だよ」
「あれが沢山来たら…」
そんな事を言いながらも、横に置いてあったジャムを紅茶に入れて甘くしようとしているコンスケ。緊張感は言葉だけらしい。余りドバドバ入れない様に釘を刺しつつ、今後の事を話し合うユウスケ。
「群れは幾つか潰したんだけど、まだバラバラと単体で来るし、それに新たに発生もしているみたいなんだよね」
「発生?」
まさにどこからともなく、染み出てくるかの様に、虫が現れるのだという。街中に出現はしていないのだが、その可能性も含め、日夜対応していると溜め息交じりにS.Dが紅茶と共に吐息を漏らす。どうりで随分と自分達の時も助けが早かった訳だと納得するユウスケ。
「しかも…うちだけじゃなく、この大陸各地に発生し始めてるらしいんだ。根本を叩かないとまずいと思う。今さっちゃんがリーフタウンでB.Dと相談してるから急いで行ってあげて」
「俺達で解決出来る事なのか?」
余りの規模の事態に自分達も関わっているのかと驚いたユウスケとコンスケ。紅茶のカップを置いて視線を真っ直ぐ合わせてS.Dが呟く。
「この世界の揺らぎだよ。根本の問題はそれ。詳しくは僕も説明出来ないけど、君が、君達がこの世界に来た意味にも繋がっているはず」
この世界に来てから、誰からもずっと核心を避けられていた言葉を吐かれ、表情を無くすユウスケとコンスケ。
「ただ、急いで送ってあげたいんだけど、僕も守備隊も手一杯なんだ…」
「なればこそ、私の出番ではないのかなセニョリーナ」
力なく出したS.Dの声を支えるかの様に、食堂の入り口に現れた姿は、相変わらずの派手な吟遊詩人の服装のM.Dだった。