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騎兵隊だ

ようやく最終章です。短篇も一個書いてはいたのですが、お蔵入りさせました。この章は今までと違い三人称視点で書かせて頂いております。今までの流れからすると読みづらいかもしれませんが、ご勘弁頂けたら幸いです。

雪の街コーラルタウンでの事件の翌朝。前日の事があり、あまり眠れなかったのか、I.Dが手配してくれる馬車を待ちながら欠伸をかみころす狐姉妹。横では、きちゅねがぱたりと尻尾を振っている。程無くして、豪勢な馬車が街の奥から姿を現した。


「ささ…姫様方、お足元お気をつけてお乗り下さいませ」


中から現れたI.Dが、自分と入れ替わる様に二人の為に手を差し出す。姫扱いに慣れていないコンスケが慌てているうちに、ユウスケの方は軽やかにステップに足をかけ馬車に乗り込み、奥の席に座るとすぐに目を閉じた。それを見て弾みがついたのかコンスケは、手を借りて馬車へと乗り込む。ただその動きは眠気だけでなく緩慢だった。座席に腰掛けようとしたその背中にI.Dが声を掛ける。


「姫よ。どんな悩みも必ず解決へと至るものです。万物皆、固まっていたものも氷の様にいつかは解けるものです」


顔も含め、全て甲冑に包んだ身でありながらも、その面頬の隙間から見える目、雰囲気はとても柔らかいものだった。コンスケがはにかんだ様な笑顔を見せてのを確認すると、小さな板状の物を渡した。コンスケがそれを受け取ったのを確認すると、納得した様に胸に手を当て馬車から離れ御者に出発の合図を出した。



馬車が雪原を静かに走っていく。天気にも恵まれた為、耳を済ませても馬が雪を踏みしめていく音のみが遠くまで響いていく。今はぐっすりと寝付いているユウスケを見ながらコンスケは溜め息を一つ。昨夜は沢山考えてしまい、今も考えがまとまらず眠気はあるが寝つけない。自分と同じ顔をした姉妹…いや兄妹。その出会い。きちゅねとの出会い。あの時、あの巨大な竜に身体を裂かれ、さっちゃんに助けて貰わなかったら今現在の自分はいない。不思議な縁…いや運命なのか。そして、もうすぐ終りを迎える旅の果てに目の前で寝ている彼は本来いるべき自分の世界、この前見てしまったあの世界の自分の家族の元へ戻っていくのだろう。自分にとっての家族はそれでもこの同じ顔をしたユウスケ、そしてきちゅね。勿論大熊亭の親父さんと女将さんもそうだろう。そんな事を考えながら、きちゅねをゆるりと撫でる。


「ねぇ…。きちゅねさんはどうしたい…?ユウスケさんと一緒に私を置いて行っちゃうの?」


瞬き一つすると、きちゅねは二人を順番に見た後、安心させるかの様にコンスケの手に鼻面を摺り寄せた。




馬車はかなりの速度で移動していた様だった。気付けば外は雪道を抜け、緑が眩しい。空気も心なしか暖かくなった様に感じ、ユウスケは目を覚ました。


「ん…もう着いたのか…」

「…まだみたいです。雪の部分は抜けたみたいですよ」


そうか、と返事をしつつぼんやりと景色を眺めるユウスケ。彼もまた腹積もりが決まった訳ではない。天国の門を開く為のアクセスキーを入手して戻る。ただのバグ取りから始まったはずの旅は気付けば彼の分身まで生み出していた。そこかしこを飛び回り、試練と称して料理したり芝居したり、大きな蛇と戦ったりと随分と大冒険だった気がする。門は既に最後の一つ…恐らくB.Dに聞けばいい加減教えてくれるだろう。そうしたらどうするんだ俺は。自分でも分からない。ここは…ゲームの中だ、ただの電子の世界のはずだ。俺は揃ったアクセスキーを持って日常に帰る、ただそれだけじゃないか。そう思っているはずなのに、何故こんなにも胸が落ち着かないんだろうか。この世界…ゲームから出て、ここの事もいい思い出として、リセットして日常に戻るのだろうか…。


ぼんやりと、まとまらない考えにかき混ぜられながら外を眺めていたユウスケは何かに気付く。雪が消え始め、白から緑へ。そして黒い点が段々と大きくなって土煙を上げてこちらに向かってくる。


「御者さん!何かがこっちに向かってきている!」


突然立ち上がって叫んだユウスケに、コンスケときちゅねも驚いて座席から落ちかけたが、構わず窓から体を乗り出さんばかりにして外を覗き込むユウスケ。先ほどよりも、距離が縮まり、その黒い点の形がはっきりと見える。それは明らかに巨大な甲虫。馬車並みのサイズがあり、ぶつかればただでは済みそうにない。


「あれがコーラルタウンを襲ったやつか…。あんなもんが集団で来たら、確かにどうしようもないな」

「あわわわ。ぶつかります~」

「皆さん!何かに捕まって下さい!」


御者の叫びと共に、強力な振動。咄嗟に一人と一匹を抱え込んだユウスケは車内の床を激しく転がる。御者も暴れる馬を押さえ込んだのは流石にI.Dが任せただけある。ふらつく視界に注意して、窓から外を見ればぶつかって少し勢いの落ちた甲虫は、身体をまるめて今度は高速回転を始めた。


「御者さんやばい!回避を!」

「分かってますよ!」


悲鳴にすら聞こえそうな声をあげて、御者が可能な限り急角度で馬車を動かす。どうにか掠める程度で済んだが車軸が軋む嫌な音が車体に響く。さらに何かが沢山やってくる音。


「新手!?これまでか…」


ユウスケのその声に応えるかの様に、見知った顔が馬車と並走しながら窓から顔を覗かせる。


「うんにゃ、嬢ちゃん。騎兵隊のお出ましだぜ」


そういて気障ったらしくウインクまでしていったのは、王宮守備隊隊長ジークだった。

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