陰、影、カゲ
口元を扇子で隠し、対極の勾玉が組み合わさった意匠の着物に、8本の尻尾をぱたりと振っている目の前の人物。陰陽師でも気取っているのか、そんな格好をした目の前のヤツは、狐が擬人化したような姿…つまり、通常のコンスケの様な見た目だった。とてもじゃないが友好的とは言い難い空気をかもしている。
「我が折角この世界を…審理の場を用意してやったというのに…」
「あんなにユウスケさんの事、攻撃してたじゃにゃいですか!」
コンスケ…援護射撃はあり難いけど噛んでる…。それを聞いて、クツクツと笑う狐。
「あの程度で…全く脆弱なものだヒトは…」
「誰だって古傷やら何やらえぐられたらキツイけどな。で、何用だよ狐さんよ?お前が用意したとか言ってたなこの世界」
扇子をバサリと広げ、俺を指し示しつつ応える狐。
「左様…。我が神の邪魔となるものは、預言者であり獣の私が排除する…」
預言者…?獣?この前ツリータウンでやった芝居にもそんな話が出て来たけど、それ絡みか。
「I.Dはどうした。本来コーラルタウンにいたはずじゃないのか?」
「さてね…。あの程度のレベルで守護者を名乗る様なモノは…排除してしかるべき…。そう君達の様にね」
そう言いながら高まっていく殺気。ゆっくりと動いていた尻尾がピタリと止まったかと思うと一気に伸びて襲い掛かってくる。俺はコンスケを抱えて、横っ飛びに距離を取る。こいつ…軽いなぁ。そんな事を考えながらも、抱えた状態でどんどん迫ってくる尻尾から逃げ続ける。
「コンスケ!」
「ひゃい!」
「もう噛むのはいいから、杖であの尻尾を狙ってみてくれ」
影にあれだけ効果があったという魔法の杖なら多分効く筈。コンスケが俺に抱えられた状態で、無理矢理杖を振る。うねうねと何かの触手の様にうごめきながら襲い掛かっていた尻尾のうち一つに、アニメみたいな効果音が出ながら光が当る。すると、その一本だけいきなり動きが止まり、元のサイズになると、狐の体へと戻っていった。明らかに効果がある様だ。
「また厄介な物を持ち込む…。妖精の杖か…。しかし…」
扇を閉じ、何かの舞いでもするかの様に狐がゆるりと動く。と、扇が示した先から人型の黒い影が現れて、ゆっくりとこちらに迫ってきた。尻尾の攻撃と二段重ね。
影自体の動きは遅いが数が多く、逃げ場所がなくなってくる。コンスケが杖を振るっても影が間に入って尻尾に当る前にかき消されてしまう。減った影は狐が舞う度に補充されていく。やばいな…。俺の腕も足もちょっと限界近い。あっちは舞ってるだけだけど、こっちは文字通り躍らされてる状態だ。
「コンスケちょいヤバイわ…」
「明日からダイエット頑張ります…」
かなりマズイ。援軍も来る当てなんてないし。
と、そう会話しながらも振り続けていたコンスケの杖の星が、壁際に飾ってあった古めかしい甲冑に当った。すると、それがゆっくりと動き出した。
「え?コンスケお前何したの?」
「私もよく分かりません~」
動き出した甲冑は俺らの前に来ると、目の前の影をなぎ払い始めた。守ってくれるみたいだ。何かしらんが、とりあえず味方の様だ。コンスケを降ろし、俺も木刀で近付く影をなぎ払う。
「コンスケ!隙を見て、尻尾に攻撃だ!」
「はいなー」
甲冑を盾にしてコンスケが杖を振り、尻尾を狙う。間に入ろうとした影は俺が木刀で薙ぎ払ってどかす。段々と動いている尻尾減って行き、明らかに狐が焦りを見せる。
「封印が解けるなど…。これだから…」
何やらブツブツと言っているが、尻尾が減り、影が減り始めて舞いも雑になりかけている。完全に意識がコンスケ側に向かったのを確認し、狐の視界に入らぬ様、影の間を一気に駆け寄る。
「しまっ…た!」
「遅いっ!」
気付いた狐が俺に扇を向けるが、走った勢いのまま、狐の尻尾の根元を木刀で居合い斬りの如く一閃。残り一本!そこをコンスケの杖からの光が当り、全ての尻尾の動きが止まり、それと同時に影が全て消える。
「くっ…。ヒト風情が…やりおる…。潮時か…」
大きく後ろに距離を取った後、顔を大きく歪めて狐がたたき付ける様に扇子をあおぎ、強い風が発生し近くにいた俺を吹き飛ばす。壁に叩きつけられる直前で甲冑が俺を捕まえてくれた。
慌てて狐の方を見ると姿はもう無かった。
「私達の勝ちですかね」
「そう…思いたいが…」
消える間際の意味深な言葉が気になる。と…視界が大きく揺れる。
「地震か!?」
「わわわ〜世界が揺れてます!」
揺れる俺を小脇に抱え、もう片方で猫の様にコンスケを摘まみ、甲冑が揺れの中無理矢理部屋の奥へと進む。その先にあるのは祭壇。
祭壇の上には狐のお面が置いてあった。縁日で売っている様な物でなく、能などに使う様な本格的な感じだ。触りやすい様に近付いてくれる。これを取れということらしい。お面を取ろうとして手を伸ばし体勢を崩しかけた俺を支えようとコンスケが体を伸ばし、弾みで杖から光が出てお面に当る。お面がゆっくりと、形を変えていく。
「お、え?…きちゅね!?」
「え…?きちゅねさん?」
そのまま空中で伸びをしたきちゅねは、一回転すると、俺達の方へ飛び込んで来た。そしてさらに激しくなる揺れと共に世界が白く染まっていく…。
実際に甲冑を着て、大剣を振り回す様は、凄いの一言です。目の前で模擬戦を見せてもらった事ありましたが、意外と動けるにしても、総重量15キロの金属の塊の鎧が動くのは感動です。