サイダーの気泡の様な世界
暑いと炭酸飲料が飲みたくなります。
目を開けると、目の前には苦しそうに頭を抱えて小さく小さくなっている男の人がいた。横にいた二人はこの男の人を追い詰めるのが目的の様に、ひたすら黒い言葉を放っている。言葉だけじゃなくて、二人の後ろには黒いモヤの様なものが見えていて、何だかとてもよくない感じがする。私に何か出来ないかと手元を見ると小さな棒状の物。ファータさんに送ってもらった魔法のステッキがあった。いつの間にか持っていたのかは分からないけど、二人を目掛けて振ると、小さな光が出て、二人の後ろの黒い影を追い払えた。まるでその影が支えていたみたいに、スルッと二人共倒れる。
「もう大丈夫ですよ。多分ですけど…」
うずくまっている男の人に声をかける。ゆっくりと顔を上げたそれは、初めて見たはずなのに知っている顔。夢の様な世界で出会ったあの男の子が成長したらこうなるだろうなって感じだった。
「え、あ、コンスケ? あのコンスケか?」
「はい、コンスケですよ。ってユウスケさんですか? あれ? 私、気付いたら尻尾も耳もないや」
近くの鏡で自分を見たら、髪の毛が金色じゃなくて黒、尻尾も頭の上の耳もない姿だった。顔は同じだけど、何か新鮮。
「全くひどい目にあったわ…。ここは元の俺の世界じゃないな…。これもあっちの世界の中での事なのか…。とにかく助かったありがとうコンスケ」
改めて立った姿を見ると、私よりも背が高くて、がっしりしてる。これが本当のユウスケさんの姿なのかな?そしてこの襲ってた人達は…。
「あぁ、俺の親父と姉ちゃんだ。何か操られてたみたいだけど、考え方や動きも本物そのものだった」
「え?! じゃあ倒したらまずかったんじゃ…」
多分大丈夫と首を振るユウスケさん。話してくれた事によると、かなり色々攻撃されたし、恐らく本物じゃないから構わないとの事。いいのかな?
「あーしかし、記憶までいじられてたのか、何なんだ一体。まだ混乱してるわ…。とりあえず俺の部屋へ行こう。こっちだ」
「あ、はい」
★★★
とても美味しい「タンサンインリョウ」という物を飲みながら、二人で状況を整理する。私は自分が生まれた時の事を見た、ユウスケさんは自分の元の世界にしか見えないこの世界に記憶が無い状態で放り込まれていたんだって。ここは多分あの氷の中の世界みたい。確かに服から何から全然違う。
「でだ、この世界に来たからには帰り道もあるはずなんだよな。それがまだ分からないけど。後、コンスケその杖はまだ使えそうか?」
ファータさんに貰った杖は特に問題なく使えそう。何でこれを持った状態でここにいられるのかは分からないけど、攻撃手段があるのは非常にありがたい。
「ユウスケさん心当たりあります? ユウスケさんの世界なら地理も分かりそうだけど…」
「多分なんだが…あそこだと思う…」
家から少し離れた森の中を進む。途中で見えた景色は私がいた世界とは余りにも違っていた。とても高い建物が沢山生えていて、暴れ馬の様な速さで走る箱がいっぱいいて、空気も何だか濁っている。私はなんだか怖くて、ユウスケさんの手を思わず握る。ユウスケさんも何も言わず握り返してくれた。こういう時、知ってる誰かがいるって本当に心強い。森の中も妙に開けている感じがして何だか寂しかった。早くこの世界を抜け出したい。ちょっと涙ぐみそうになった所で、ユウスケさんが足を止める。
「恐らく…ここだ」
そういって建物の前で止まる。そこはあのコーラルタウンで見た教会とそっくりな建物。ただし日差しの中のはずなのに、凄く寒い感じがする。ここだけ夜になったみたい。見ていたら鳥肌が立ってきて、思わず自分で肩を抱き締める。
「俺の本来の世界でもここは教会があったんだけど、こんな形じゃなかった」
「つまり…当りですね…」
ユウスケさんが護身用にと持ってきていた木刀を抜き、警戒しながら重い金属で出来た扉を開いて中へ。正直何が出てくるか分からないから、かなり怖い。私達が入った後ろで重々しい音を立てて扉が閉じる。高い所に窓があるみたいで光は入ってるんだけど見通しは悪い。
「きちゅねがいればな…。あいつもここに来てるんだろうか」
「ですよね…。きちゅねさん…」
ずっと二人と一匹でいたから、欠けてると心もとない。私よりもきちゅねさんの方が絶対戦えるし…。今はこの魔法の杖があるけど、あんまり自信ない。でも頑張らないと!そう決意して少し先を歩いてたユウスケさんに追いつこうと慌てて小走りになった時、どこからか声が聞こえてきた。
--汝の罪を告白せよ--
思わず足を止めるユウスケさんに慌てて私はくっつく。周りを見渡しても誰もいない。
「どこだ…?」
少し離れた所で、バタンとドアが開く音がした。注意しながらそこへ進むと、まるで入れという様に扉が開けてあった。部屋の中はついさっきまで何かがいた気配だけで、今はカラだった。そしてまたどこか離れた所で、ドアが開く音。
「明らかに誘われているな。でも、他に手がかりがない以上…行くぞ。しかしこの声…何なんだ?」
罪って悪い事をしたかって事かな?何かそういう事をした覚えはないけど。
--盗みを行った事はないか--
--決して自分の心臓を食べた事はないか--
また声、そして誰もいない部屋。けど、同じような事が何度も続いて、少しずつ奥へ奥へと誘導されている。
--理由なく怒りをぶつけた事はないか--
--王を神を罵った事はないか--
進むにつれて、どんどん光は無くなっていって、微かな明るさを二人して手探りの様に進んで行く。そしてまた声はどんどん続いていく……。
声に導かれる様に多分一番奥だと思う部屋の前へ来た。ここも扉が開いてる。でも、違うのはここには気配がある事だった。
「間違いなくいるな…。コンスケ、戦いになるかもしれない、用意を」
「あわわわわ…はい…」
杖を体の前で構えた私の姿を確認して、ユウスケさんがゆっくりと扉を開けた。
「…罪の否定告白は済んだか…? ヒトよ」
「ひていこくはく?」
「あれだけあったら覚えてられないね。恐らく大丈夫だろうけど」
聞こえてくる声に向かって皮肉で返すユウスケさん。
「かっこつけてないで姿を見せろよ」
その言葉にスッと現れる影は、着物に帽子、そして8本の尻尾。頭の上には尖った耳。
「きつね…」
そう人型の狐の姿だった。
ファンタジー世界の人物がこの世界を見たら、もっと仰天するのだろうなと思いながら書いておりました。