祭り
翌朝。
いつも使ってる部屋はSDが使ってるから、コンスケの部屋の床で寝袋から目覚める俺。尻尾が潰れるから寝苦しかった…。お陰で結構早く起きてしまったので、ジャージに着替えて村の中をジョギング。
まだ陽が昇る前の時間。朝の清冽な空気が身を引き締める。
リーフタウンの中心にある広場では、舞台と客席となる場所にゴザが用意されていて、その周りに屋台が用意されている。夜露で少し湿ってるけど、昼までには乾くだろう。雑貨屋さんなんかが、露店でもするのかな?その場駆け足状態で見てたら家から出て来た村長さんに話し掛けられた。
「おはようユウスケ君、今日は楽しみにしておるよ」
「村長さんおはようございます。お早いですね」
「久方ぶりの村の行事だからの、楽しみで早く目が覚めてしまったのじゃ」
「ふふ、ピクニックにでも行くみたいですね」
「行くのでなく、連れてってくれるのじゃろ?お芝居という世界に」
「村長さんお上手ですね。そう出来るように頑張りますよ」
「うむ。引き留めてしまって悪かったの。ささっ、身体を冷やさぬ内に戻りなされ」
「大丈夫ですよ。でもお言葉に甘えて失礼しますね。ではでは~」
村長さんに別れを告げて、ジョギングを再開。少しずつ明るくなっていく村の中。走るのに邪魔だからポニーテールに縛ってる髪の毛が左右に揺れる度に村が起きていく。発声練習は川でやるかな。
結局普段のストレッチに追加で発声練習とをこなして戻ってきたらいつもの時間だった。本番の日でも極力普段通りの事をするのが緊張しない秘訣だ。毎日やってることをやれば、身体が通常通り動いてくれる。いきなり無理をすると動かないものだし。身体がほぐれれば声も出るから発声練習自体はそこまで普段しないことではない…はず。
今日はもう、村中でお祭り確定らしく、みんな仕事は休みらしい。C.Dさんが持ってきてくれたキノコを使ったクリームスープと焼き立てのパンの朝ご飯を用意してくれながら親父さんが教えてくれた。当然大熊亭もお休みだ。村にもう一件ある食事処もお休みの為、親父さんが我が宿屋に泊ってる宿泊客達の為のご飯を用意している。結局親父さん朝から働いてるけど(スープは温めるだけ、パンは窯で焼く)、ランチピークをしなくていいだけでも充分にお休みだと言っていた。
その後、順番に起きて来たのか宿泊客のDの面々も食事をしに下りて来た。H.DとF.Dは普段と変わらないけど、C.Dは髪の毛ボサボサで猫を被り切れていない様だ。S.Dも目をこすりながらご飯食べてたし。F.Dはむしろ朝だからもうちょっと抑えめでもいいんじゃないかな。食べ終わった人から村の広場へ向かって行った。何かまだ用意があるらしい。逆にM.Dさんは外から戻ってきた。
「ボンジョルノ!ヴォルペ!」
「おはようございますM.Dさん。なんで外から…」
「B.Dにエスプレッソをご馳走になっていたのだよ。やはり寝起きのカッフェはいいものだ。おや、セニョリーナ一人足りない様だね」
「コンスケは昨日初めて舞台の稽古なんてやったので疲れてるのでしょう。まだ起こしてないですよ。そろそろ起きると思いますが」
そう言ったそばからきちゅねをハグしながらコンスケが下りて来た。
「おはよ~~ぅございますぅぅぅ」
「おはよコンスケ。大丈夫か?ちゃんと寝れてないのか?」
「ちょっと緊張してあまり眠れなかったです…」
「H.Dが眠気覚ましのレモンのアロマを用意してくれてるから後で嗅ぐといいよ」
「あぁい~」
「ボンジョルノ、ヴォルピ。マンジャーレはきちんと食べてから用意を始めよう。よき所で声を掛けてくれたまえ。私は楽器の用意等をしているから」
「俺もう食べ終わるから手伝いましょうか?」
「ノ、バベーネ。大丈夫だ。それに他の人に触られるとうちのファータが怒るのでね」
「ファータ?」
「シィ、妖精だ。名乗っていなかったかスクージィ。では後程」
M.Dさんは意外と朝は穏やかだった。何かと役者を眼の仇にする演出家もいるからなぁ。いい人でよかった。それ以前に人じゃないか。
また眠りそうになるコンスケに、ご飯を用意しつつH.Dから貰ったアロマを嗅がせるとシャッキリした。効果絶大だ。俺も嗅いでみたけど爽やかなレモンの香りでスッキリする。香水とかは苦手だけど、アロマとかいいかもな。この身体だと効果が強過ぎるから弱めてもらおう。鼻が効きすぎる…。
食事も終わり、身支度も整えて(跳ねたコンスケの髪の毛を梳かしてやった)広場へ。
村人も動き始めていて、広場に向かう途中で「がんばれー」や「楽しみにしてるからねー」と声を掛けられ、手を振り返す。俺は声援を貰うと燃えるタイプだけど(ヒーローショーなんて声援ないと寂し過ぎる)、コンスケは声援がプレッシャーになってるのか、顔が堅い…。マズイな…。
ともかく広場に着き舞台の裏側を覗くと、舞台袖へM.Dさんが荷馬車から降ろした楽器を配置していた。横で妖精…ファータさんが、かなり細かく場所等の指示を出している。どうやって演奏するんだろ?そもそもファータさんが怒るってどういう事だ?
邪魔しない方がいいようだ。そう思って広場を見渡すと、既に場所取りに座っている人が結構いる横で、屋台が営業していた。
「は~い川魚の塩焼きだよー。饅頭もあるよー。美味しかったらツリータウンにも来て下さいねぇー」
「そうそう、このハーブはね、どんな食材にも合っていいのよ。そっちはね…」
「そうですねー、この星の巡りだと来月辺りがいいと思いますよー。僕も先日いい事ありましたしー」
F.Dがツリータウン名物を販売しながら街の観光案内のチラシ(俺達のイラスト付き)を配り、H.Dがハーブの販売をしている。S.Dは占いかな?横でC.Dがまだ本調子でないらしく子猫位の被り様でキノコを売っている。村のパン屋さんが出してる屋台の横でB.Dさんがコーヒーを売っていた。
「おはようございます、B.Dさん」
「マスターおはようです~」
「おはようコンスケちゃん、ユウスケ君」
「宿からみんな早々に出てったと思ったら屋台ですか」
「あぁ、村長と相談しててね。お芝居だけじゃなくて色々あった方がいいだろうという事になったんだよ」
「はぁ、何か知らない所で随分用意されてましたね…」
「実はそうなのさ。コンスケちゃんどうしたんだい?さっきからあまり喋ってないけど」
「…緊張して、何か身体も固まってるんです~」
「よし、じゃあ俺がスペシャルブレンドを作ってあげよう。待ってなさい」
そういってB.Dさんは屋台の後ろでコーヒーを淹れ始めてた。この香りは…カフェモカ?
「はい、お待たせ。コンスケちゃん飲んでごらん」
「…ありがとうございます、頂きます…。うみゅ!美味しい!」
耳がピンとなった。あれ?コーヒーって前にも何かあった気が…。
「う~ふふー。ふっふふー♪へいへい」
「B.Dさんまさかコンスケって…」
「うん、コーヒーで酔っぱらうんだよ。面白いよね。でも大丈夫。本番前に酔っぱらわせる訳にはいかないから、2~3滴しか入れてない。ほとんどミルクココアに近い」
「はぁ、ウィスキー入れた紅茶とかそんな感じですかね?」
「あぁ、そんな感じのはず。よく飲みに来て潰れてたのを見てるから加減は出来てるはずだ」
ある意味、行き付けの飲み屋さんみたいだな…。なんでコーヒーで酔っぱらうんだ?俺は全然平気だけど。まぁ、すぐ抜けてくれれば景気付けにいいかもだ。身体がほぐれれば緊張もほぐれるはず。
「うし!どんとこいですよー。私余裕ですよ~」
…多分。
少しして、楽器の用意が終わった様で舞台が静かになったので、再び舞台裏へ。荷馬車がくっつけてあって控室みたいになってる。幌もあるし、テントみたいだ。
ファータさんが最終チェックが終わったらしく満足気な顔だ。
「ちょうどいいテンピスーモだ、ヴォルペ。よければ着替えてもらおう」
「メイクはしますか?」
「ノ…それは大丈夫だ。時間前に着替えてあればいい。身体が冷えない様にしておいれくれたまえ。衣装だが…」
コンスケと二人してお互いの腕を持って交互に背中に乗せて、背中の筋肉を伸ばしたりしつつ開演を待つ。舞台袖からチラッと見てみたら、満席だ。多分村人全員がお客さんだ。あ、あっちに常連さんが固まってる。終わったら挨拶に行かなきゃな。屋台からDの人達だけいないみたいだけど休憩かな?
「ユウスケさ~ん、そろそろ手伝って下さい~」
「おーごめんごめん。しっかし、これ衣装っていうか本物だよな…。動けるか?」
「あい…どうにか…。スゴク…重いです…」
「リアリティ重視にしても、これは誤魔化して欲しいな。俺もこの衣装だし」
「私そっちの方がよかったですよ~」
「じゃあ今から台詞全部覚えるか?見た目としては、ばれないかもよ?ふふふ」
「分かっててやってますね~?私には無理です~」
「後で着てみるといいさ。もう緊張はしてないな?何かあったらアドリブで助けるから、楽しむことを考えてくれな。俺らが楽しめばお客さんも楽しめる」
「はいです~」
袖に待機していたM.Dさんが声を掛けてくる。
「ラペルトゥラ!さぁ開幕だヴォルピ!」
この次の話が非常に難航しています。年内に書けるか・・・。色々世界観の事等も絡めてお芝居を書いていますので。