星を見た狐達
大変遅くなりました。久しぶりの更新です。
「あぁ~生き返る~」
広々とした浴槽に身体を伸ばす。竜の形した置き物からドボドボとお湯が出て来ている。やっぱりあれだね。身体を曲げないで入れるお風呂はいいね。伸びたそのままで尻尾で浴槽の床に突っ張って身体を水面の上の方にプカ~っとさせてたらコンスケに怒られた。
「文字通り死にかけてたんですから気をつけて下さいね! あれからほぼ丸一日寝てたんですし…。他に人が入ってきたら止めて下さいよ」
普段の俺みたいな事言ってる。いいじゃないか、たまにはこうやって童心に帰るというのは大事な事だよ。昨日はシャワー浴びる程度でしかお風呂入ってないんだし。ようやくヌルヌルが全部取れた。
「コンスケもやってみなよー。気持ちいいぞー」
「もう~、悪いことを人にすすめて~、…あ…いいかも」
「だしょー?」
二人して湯船にぷかぷか浮かぶ。
「ここのお風呂の天井は、竜じゃなくて星が描いてあるんですねぇー」
「ホントだなー」
星か…。あの時…俺はワームの目を攻撃して、口の中に取り込まれ…気が付いたら馬車に寝かされていた。なんだか体中がベトベトして気持ち悪かったけど、何の粘液かはあえて考えないようにした。横を見るとコンスケが俺の手をずっと握りながら、きちゅねと寄り添うようにして寝ていた。なんだかとても安心して、馬車の窓から外を見たら綺麗な星空だったのを覚えている。それと同じ星空の絵が天井に広がっている。この辺りに見える夜空の絵なんだろうか。
「あれって何座ですかー?」
「ギザギ座」
「そんな名前の星があるんですね! すごい!」
「いや…冗談です。すまぬコンスケ」
「あれはオリオン座だね、少し離れた所で大きく光ってるのが北極星だよ。あっちと同じだね」
そう言いつ湯煙の間からS.Dの声がする。え、入るの?ここ一応女湯なんですが。コンスケと二人でワキャワキャ言いながらお湯に身体を浸す。湯煙で隠せるかな。
「って! 女湯になんでS.Dさんいるんですか!?」
「だって僕女の子だもん」
「うぇぇぇぇ!?」
僕っ娘だったのか。胸も薄いし、髪の毛も小ざっぱりしてたし服装も短パンとかだったから全然気がつかなかったぞ。
「なんか今失礼な事考えてなかった?」
「イイエワタシハナンニモ」
俺の視線で気付いたのか胸元を隠しながら睨むS.D。
「君達だって似たようなものでしょ?」
「むー。成長途中ですよー」
「大きさじゃないんだよ。形だよ大事なのは。なぁコンスケ」
「そんな事言って、二人だって形もへったくれもないじゃん。そもそも僕と比べても…」
「うわぁぁぁぁ、ここでもイジメがぁぁぁ」
湯船に沈んでいくコンスケ。落ち着けコンスケ。でもなんか人に言われると腹立つな。
「うっ、うるさいぞーこのまな板~」
「うっ! 自分達だって…」
「最近は洗濯板だ!」
「え…?同じじゃない?」
「段差がある」
胸を張った俺だったが、空気が凄く寂しくなってきた。
「ユウスケさん…もうなんか言えば言うほど哀しいから止めましょう…」
「うん…」
なんかこう切なさが増してきた。浴槽の端では、きちゅねが我関せずとお湯に浸かりながらクァァとあくびをした。
王宮の城の別棟にあるお風呂から上がった俺達は、用意してあった正装であるドレスに着替えさせられて1階の大広間へ。王宮は祝賀会状態だ。あんだけ攻撃したし、もうトドメも刺しただろうし大丈夫だろうということで、攻撃部隊は全員帰還し、王宮に残っていた部隊が代わりに街道や周辺の整備・事後処理に向かったそうだ。元々、街以外は何も無いような所だったから被害はほぼ無いらしいが、市街地だったら大変な事態になっていただろう。メイドさんに着せ替え人形にされながらコンスケにようやく俺が意識を失っていた間の話を聞く事が出来たが、正直ぞっとした。ジークさんと二人して奇襲をかけるだなんてあまりにも無謀な作戦…成功してなかったら本当に大変な事になっていただろう。俺の為に頑張ったコンスケ、そして尻尾が欠けて九尾じゃなくて八尾になってしまったきちゅね。二人(一人と一匹)があまりに愛おしくて思わず抱きしめてしまった。コンスケが目を白黒させていた。
☆☆☆
「おぅー、今日の主役たちが到着したぞ~!」
腕を包帯で吊ったり、足を包帯で固定した見た目が白い感じの人が多い守備隊の面々の前に、赤や青のドレスの俺達が部屋の入口に立っただけで彩りが鮮やかになり、歓声がわっと上がる。この男祭りの中でドレスとか無茶苦茶恥ずかしいんですが…。ちなみに俺が赤主体で、コンスケが青主体のドレスだ。照れで少し赤くなった顏を隠そうと、大広間の入口で思わず下を向いて立ち止まってしまった俺にコンスケが声をかけてきた。
「ユウスケさん。私達はなんだかんだで頑張ったんだから胸を張りましょうよ。」
「そうだぞ吊り目の嬢ちゃん。いやユウスケよぉ。お前さんが身体張って目ん玉片方攻撃してくれてなかったら、馬車ごとここにいるやつら何人かやられてたんだぜ。胸張ってくれや。主役は堂々とするもんだぜ。」
そうだそうだと同意して騒ぐ守備隊の皆さん。何か随分持ち上げられてるなぁ。確かに主役が小さくなっていても仕方ない。でも…。
「今日の主役はお前だろ、コンスケ」
「いいえ、二人と一匹です」
そう言って肩に置いた俺の手を引っ張って繋ぎながら、きちゅねを促し歩き出す。二人ときちゅねでいざテーブルへ。
「二人は俺の両側な!」
ずるいとか横暴だ!という声が上がる中で、隊長特権で無理矢理席を決めるジークさん。ふふ…両手に花だな。オトリになってくれたりと色々コンスケ共々お世話になったからいいとするか。
乾杯の音頭をジークさんが取り、宴が始まった。料理が運ばれて来るのを食べるだけでも何かご馳走って感じだなぁ。最近働いてばっかりだったし。結局怪我をした部下の所に杯を持って移動したりするジークさん。なんだかんだで相当部下想いだこの人。誰の所に移動しても、みんな嫌そうな顔しないし。
「いい人だよね、ジークって」
気が付くと横にS.Dがいた。そういえば俺達がドレスに着替えさせられている時に、即行でどこかに逃げたと思ったらいつもの恰好じゃないか。
「普段カッコつけた事いいながら、ああやってみんなを大事にしてるから、みんなにも大事にされる…。死人が出なくてよかったよ。この世界でも」
「そうだな、でも本当にカッコつけ酷いぞ?」
「知ってる。でもそうやって照れ隠ししてるのかもよ?でもたまには一人をじっと見詰めてもいいんじゃないかな…」
そういってジークさんを見詰めるS.D。あれ?これはもしかして…。と、さっきからきちゅねと二人で貪り食いながら飲みまくっていたコンスケが声を掛けてきた。慎みという文字を墨で書いて貼り付けたいなこいつら…。
「あれーS.Dさんはドレス着ないんですかー?」
「ぼ…僕は…ああいうヒラヒラしたの似合わないし…」
「そうかな?S.Dはボーイッシュな感じだから色とかも軽めのでサマードレスみたいのなら似合うんじゃないのか?」
そうやって話している俺らの声が聞こえたのか、離れた所からジークさんの声が聞こえてくる。
「ユウスケいいんだって、こいつは言っても聞かねぇんだし。ホラ乾杯すっぞ~」
「隊長~~もう何回目の乾杯ですか~~」
「いいじゃねぇか、今度はこの俺様と、美女の為に乾杯で!」
「それもさっきやりましたよー!」
「そうだっけか?はっはっはっ!」
そう言ったジークさんの言葉で一瞬悲しそうなったS.D。仕方ない一肌脱ぎますか。
「S.Dちょっとお手洗いの場所を案内してくれないか?」
「あ、うん。いいよー」
「それと化粧直しというか、したいからメイドさんをお借りしたい」
「??いいけど」
「よし行くぞ!漏れそうだ、急いでくれ」
「ちょっと女の子がそんな事を言わないでよ」
「お前も女の子だろS.D」
「そうだけど~」
メイドさんを借りて、お手洗いではなく、ドレスルームにS.Dを拉致。暴れるS.Dを抑えつけて、メイドさんと二人で無理矢理ドレスを着せる。
「えーーー恥ずかしいから絶対広間戻んない!」
「煩い!だったらあんな乙女な顔して見詰めてるんじゃない!」
「何さー」
「何さじゃない。嫌なら洗濯板話をジークさんにするぞ!」
「酷い!!」
ぶーたれるS.Dを無理矢理大広間へ連れて行き、ジークさんの前に引っ立てる。守備隊の面々もジークさんも誰だか分からない様だ。
「おい…ユウスケ…この可愛い娘誰だ?俺の美女センサーにビビッと来たぞ」
「さぁー誰でしょうね~~」
「何だよ。新しく入ったメイドの娘か?こんな上物知ってるとはお前さんも見る目があるなぁ」
「じゃあジークさんは見る目がないのかな?S.Dだよ」
「なんだS.Dか。っておおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ~~~!?!?!」
恥ずかしがってモジモジして、顔を赤らめてるS.Dは完璧に女の子にしか見えないし、元々顔は結構整ってる方だったから相当破壊力がある。そしてその攻撃は無事にクリティカルヒットしたようだ。S.Dを指差して未だに口をパクパクさせてるジークさん。さらにもじもじが加速するS.D。面白いけど何も動かないから、もう少し手を出すか。
「はい、二人共こっちに座りなさい」
「……うん」
無言でコクコクと首を振るジークさん。俯き加減でついてくるS.D。二人を端のテーブルに座らせて話を振る。
「はい、S.D何か言いたい事あるでしょ?」
「……ジーク……、僕…似合ってない?」
「………………超可愛い」
「……本当に?」
「……俺お前に嘘言った事ないだろ……?」
「………よく女の子口説いてるの隠してるじゃん………」
「………本気で口説いた事ないぜ」
「………ホント?」
「……ああ」
それを聞いてふんわりと笑うS.D。あぁ、花が咲いたような笑顔ってこういうのを言うんだね。ジークさんがもう溶けきってるわ。邪魔者は退散しましょ。
「お腹空いたから俺行くわー。んじゃね」
それに二人してコクコクと頷く。S.Dが目でありがとうと言ってる。凄い嬉しそうだなぁ、初々しいなぁ。俺はさっさと戻ってもりもり食べよう。結構気を使ってあんまり胃に入れてないんだよね。
遅くまで続いていた宴を途中で抜け、割り当てられた5階の来客用の部屋へ。コンスケも眠そうだったので引き摺ってきた。きちゅねはまだ食べそうな感じだったけど、きりがないのでおあずけにした。尻尾が減った分の回復に使うのかな。その横で未だに飲み続けている守備隊の皆様。さすが体力がある。昨日の今日なのに元気な方々だわ。
そのままドレスだけ脱いで、その辺のハンガーに掛け、いつもの和セーラーがないから、用意してあった肌着とローブを着込む。寒くないからいいけど、結構スースーするね。コンスケは眠る前に無理矢理着がえさせた。ドレスを皺にしてはいけない。食べ物のシミはついてなかったからOKだ。
ベッドが二つ用意されていて、片方のベッドにコンスケがきちゅねを抱えて寝て、もうひとつを俺が使った。
「といれ…」
横になってすぐに寝付いたけれど、何となく眼が覚め、もそもそと起きだして同じ階のトイレへ。中世をリアルに再現かと思ったら、何か普通の陶器の便座だった。そういえばリーフタウンのトイレも普通に使ってたけど、現代のに近いなぁ。用を足して戻ろうとすると、廊下にS.Dが立っていた。まだドレスを着てる。
「夜更かしだなー。もう流石に宴会も終わったんじゃないか?」
「うん、さっきお開きになって大体みんな寝たよ。その場で動かない人は放置。ちょっと見てもらいたいものがあってさ。来て」
「コンスケも起こす?」
「いいよ。ぐっすり寝てるみたいだし。」
「うい」
階段で一つ下の階へ降りて礼拝堂へ。蝋燭の明かりで見るそこは確かに神聖な気配だ。入口の反対側の壁には大きな竜の見事なレリーフになっていて、ほぼ壁全部を覆っている。
「こっちの世界はさー、あっちの世界と違って宗教は一つなんだよね」
「そうなんだ」
「まぁあっちも元々は一つかもしれないし、色々政治の道具になってるものもあるみたいだけど、こっちはもっと単純だよ」
そういってかざされた蝋燭の光に照らし出されるのは、竜のレリーフ。
「竜、ドラゴン信仰か」
「そう、まぁ別に祈りを捧げる必要もないけど、なんだかんだでこの世界に移動した民の皆さんも来た時にお世話になってるという意識があるからか、ちゃんと祀ってくれてて僕達も嬉しいよ」
「で、夜更かしして宗教談義したかったん?」
「ううん、これを渡そうと思ってさ」
そう言うとS.Dは、胸元から一枚の薄いキラキラと光る板状の物を出した。鱗か。胸と同じで薄い。どこにしまってたんだ…。
「いいのか?その…見極めとやらは」
「うん、街ごと救ってもらっちゃったし。僕らは本来の力は封じられてるからさ。助かったよ」
「分かった。ありがたく頂くよ」
「それを、そこの奥にかざしてみて」
「ん…こうか?」
奥に安置されていた大きな竜のレリーフが音も無く消えて、奥には門が現れた。こんなとこに隠してあるのか地獄の門。触れてみると反応はなし。上部にはキラキラと輝く竜の彫刻がくっついている。これがS.Dの本当の姿なのかな。
「いつか…見せて欲しいな、本当の姿」
「惚れちゃうよ?」
そういってふふっと静かに微笑んだS.Dの顔は本当に綺麗で、ちょっとクラっと来た。
「ジークさんに怒られちゃうな」
「何でそこでジークが出てくるの!?」
「え?違うの?じゃあ誘惑しちゃおうかな~」
「え!ちょっとやめて!本当にやめてよね!」
「大丈夫。男に惚れる趣味はない。一応中身は男だからな。からかって遊ぶかもしれないけど」
「もー」
そういってふくれっ面するS.Dの頭をわしゃわしゃと撫で、部屋に戻る様に促す。
「さっ寝ようぜ。明日には馬車でまた寝るかもだけど、まだ疲れてるし」
「あ、うんごめんね。ありがと付き合ってくれて」
「こちらこそ。ありがとう」
礼拝堂を出る時に振り返って見てみたらもう門は消えて、レリーフが静かに佇んでいた。
☆☆☆☆☆
「あーあったあった」
月と星明かりの中、蝙蝠の様な羽の生えた女の子がパタパタと飛びながら決戦のあった地へと降り立つ。
「うわスゴイ状態だねー。まだ生きてるかな?」
死体となったワームの頭に近付く。
「うん!やっぱり生きてるね。さすが我が眷族。生命力半端ないねー。はろはろ?」
ピクリとも動かない巨体に話しかける女の子。
「とりあえず私がこの世界の主の一人だよー。気軽にさっちゃんて呼んでね。何?小娘消えろ?全く~。本性見ないと理解出来ないみたいね」
そういって女の子の背後に一瞬ワーム並みの巨体が浮かび上がる。既に動かないはずだったワームの身体が一瞬ピクリと反応する。
「理解した?というわけで忠誠を誓ってくれるなら、人間形態で復活させてあげるよー。始めの7人じゃないから地域はあげられないけど、普通の生活も楽しいもんだよ、うん!」
開かないワームの眼を覗き込んでいた女の子はポンっと手を打つ。
「あーあっちだと宝物の守り神たったのね?指輪は置いてきた?よかったー。また一個神話が始まる所だったよ。じゃあこっちでも城で会計とかどう?ちょうど収支の決算が大変なんだよー。私は面倒だからやんない」
暫くして、何か了承を得たのか大きく頷いた女の子。
「OK、OK。商談成立だね。うちにもお馬鹿キャラのF.Dっていうのもいるけど、あれも結構辛い過去があるのよねー。みんな何かしら抱えて生きてるからさー、ゆっくりでいいからここの生活を楽しんで貰えたらウレシイなー。だから恨まないでね、みんなを。憎しみで返さないでね。それさえ守ってくれたら私が全力で守るからー」
そういって何やら念じ始めた女の子。
「ささやいてーいのってーえいしょー。ほいっ!」
ワームの身体が光り輝き、暫し後に消えた光の後に、お腹のでっぷりと突き出た少し眼付きの悪い男が一人座りこんでいた。左目は潰れている。
「あーそれも反映しちゃったか。まぁ個性個性。眼帯でも巻くといいね。しかし太り過ぎだね…。食べ物悪かったんじゃない?暫くベジタリアンになりなよー。人間は食べても美味しくないからねー。というーか駄目だかんね」
目付きの悪い男は、変化した自分の身体に戸惑っていた様だったが、素直に頷いた。
「よし!最初の仕事!そこの狐ちゃんの剣とバスタードソードを拾ってくんない?うん!ありがと。バスタードソードはそのまま持ってねー。狐ちゃんの剣は私が持ってくね。重いけど頑張って速度出すからちゃんと腰抱きで捕まってね?」
そういって腰に張りついた男共々、夜空に上がった女の子は城へと向かってヨロヨロと、しかしそこそこの速度で飛び始める。
「まったくー王様も楽じゃないよねーーー。あんたホントに、ダイエットしなさいよー。王様からの仕事その二ねーー」
これでこの章は完結です。キノコ取りから帰ってきてすぐのはずが、現実では随分と時が流れてしまいました。今、三人称視点での改訂版を書き進めております。こちらの一人称視点も好きではありますが、情報量が少ない為、やはり三人称の視点の方がいい感じはします。色々と整合性を合わせつつ、完結までまとめて書く予定ではありますので、投稿は年明け…2月になるかもしれません。その時に忘れられていなかったらまたお会いしたいと存じます。玉藻