守備隊出撃
ハロウィン♪
今回戦闘描写で若干えぐい表現があるのでご注意ください。
大広間で食事を手早くすませ、馬車二台に分かれ荷物と総勢50名程の部隊は動き出した。王宮の守りも残しているがそれでも結構な人数が動く事となる。数名は馬で移動。さらにジークさんだけ、上下の完全なフルプレートメイル装備で馬まで鎧をで武装をしている。周りの隊員が話してくれたけど結構なお値段するから、隊長クラスの給料じゃないとあそこまでは普通無理らしい。他の隊員は役割ごとに違う鎧を装備しているそうだ。既に偵察隊は現場に向かっていて、それを追い掛ける形となる。そろそろ酒場も開き始めるような時間で昼間とは違う活気が溢れる街中を、馬と兵士満載の馬車の一団が通る。住人達が何事かと目を向く中、黄土色に装飾が細かく入った鎧を着たジークさんを筆頭に、守備隊が移動していく様は中々の迫力だ。沈んで行く太陽に照らされて橙色に光る鎧はちょっとカッコイイ。
正門を出て、街道に入った俺達の進行方向の先に煙が上がっているのが見えた。どうやら狼煙らしく、周りの隊員が騒然としている。
「やられたのか…」
「まさか…。一体何が」
どうやら危険を告げる意味の狼煙の様だ。偵察部隊に何かあったらしい。
「落ち着け。どのみちここからじゃ何も出来ん。各員即時行動出来る様にはしておけ」
「ハッ!!」
ジークさんの一喝のもと、揺れる馬車の中で各々鎧を着たり、クロスボウの組み立てを始めた。
「嬢ちゃん達は用意しないのかい?」
「俺らはこの服に魔法かかってますから」
社長が用意してくれた服は、着心地は普通の服なのに、軽鎧クラスの丈夫さがあるという謎の服だ。軽いから本当にありがたい。
「便利だなぁ。俺も給料入ったら妖精に魔法かけてもらうかな」
「お前さんは酒場のツケを払うのが先だろうよ」
「あー忘れてたわ」
「この中の何人が払ってないのやら」
「俺たちの憩いが!」
「まぁ今日のこれで特別にボーナスでも期待出来るんじゃねぇか」
そうだそうだと、ワイワイガヤガヤと手を休めずに用意をしつつ話す兵達。士気は高い。他に出来そうなものがないので今回衛生兵に任命されたコンスケは薬箱の点検をしている。はずが…いつの間にかミイラ娘がそこにいるのは何故なんだ…。
「ユウスケさんへるぷーですー」
「コンスケ…お前ホント不思議な器用さだよな」
包帯をほどきつつ巻き直している俺らを見て、馬車の空気が少し和んだ。
★★★
「これはひでぇな…」
現場に到着してみると、テントがなぎ倒され、先遣隊の人達もあちこちで倒れて呻いている。手が空いている人間で馬車に運び込み鎧を脱がす。打ち身が主で、命に別条はない様だ。コンスケが青い顏しながらも、治療にあたっていく。
「隊長! 一名意識が戻りました!」
「うぅぅぅ…すみません隊長…」
「無理するな。一体何があった」
「…テントを張りつつ、後発部隊を待っていたら、いきなり凄まじい音と共に巨大な物が突っ込んで来ました。あれは…まるで巨大な蛇の様でした…。辛うじて動ける人間で狼煙を上げた次第です…」
「分かった。頑張ったな。もう休め」
巨大な蛇…甲龍か。イレギュラーとS.Dも言っていたけど、そもそもモンスターはまだ実装されていないはず。ここまでの強い存在は一番初めに出会ってしまったあの10の頭を持つ竜以来だ。一体どうなってるんだ…。
「弓部隊は全員装填状態で中心で待機、槍部隊は周囲を警戒。いつでも動ける様にしておけ。重装歩兵も大盾用意で槍部隊と一緒に周囲を見張れ! 歩兵隊は俺と共に各所フォロー。以上」
「了解!」
クロスボウの弦を巻き上げるキリキリという音や、鎧のガシャガシャ鳴る音で一気に騒がしくなる。ただ、やはり手慣れている様で、直ぐにかがり火やランプの火が時折はぜる以外はほとんど無音になった。俺は中心で弓隊と共に周囲を見張っている。少し離れて置いてある馬車から、治療が終わったのかコンスケが顏を出しているのが見える。きちゅねはコンスケと一緒だ。念のための護衛だ。きちゅねの方が戦闘力あるだろうし。
月明かりが雲で隠れ、辺りが一瞬暗くなった時、遠くから音が聞こえた。多分他の人にはまだ聞こえない微かなものだけど、近付いてくるのが分かる。頭の上の耳に手を当てて方向を探る。王宮とツリータウンを南北に繋ぐ街道、その両側の森。その森のどこかから木を潰すバキバキという音が確かに聞こえてくる。
「ジークさん3時の方向! 俺の向いてる方向から向かって来てる!」
「弓隊構え。目視で確認次第各人で発射! 大盾隊前方に終結! 槍部隊左右に展開! 歩兵隊抜剣待機」
音がどんどん大きくなってくる…。来た! 前方の木々が突然はじけ飛び、そこから巨大な物がそのまま突っ込んでくる。弓隊のクロスボウが発射され、弾かれつつも何本かが突き刺さる。巨体がひるんで動きが遅くなる。雲が切れ、月明かりに照らされたそれの全体像を見て思わず皆一瞬動きを止めた。あちらの自動車の道路二車線分にも渡りそうな太さに、もたげた頭は小さな家程もあるだろうか。身体の長さは全部は見えないがジェット機位はあるんじゃないのか…。顔は蛇と言うよりもドラゴンに近い。かなり醜悪な顏してるけど。やはり巨大で太い蛇、ワーム…ドラゴンの一種に見える。とても話しが通じるタイプには見えない。
「槍部隊突撃! 行くぞ! 歩兵隊は俺に続け!」
呆気にとられていたのも束の間、ジークさんの声で皆我に返り、応という掛け声と共に攻撃に入る。勢いよく突き出された槍は鱗に当たって折れるかそのまま刺さっても肉が厚くもっていかれてしまう。直ぐに槍から手を放し、歩兵隊に場所を譲りつつ、剣を抜く槍部隊。ジークさんを中心に歩兵隊が斬り込んで行く。が、相手も黙ってやられはしない。もたげた頭を反らせると口から何か液を吐きかけてきた。大盾部隊が急いで自分の身体を覆える程の盾を掲げてガードするが、外れた部分の地面からは煙が上がり、何人かが避けられずまともに食らって悲鳴を上げる。皆それぞれ鎧の形は違うけれど、兜は顏をしっかりと覆っている物だったから顔は平気な様だ。それでも肉の焦げる様な嫌な臭いが辺りに漂う。
「酸か…気をつけろ。負傷したやつは下がれ! 下がれ!」
ジークさんは誰かが取り落とした使えそうな槍を拾うと馬に拍車をかけて突撃した。数名と共に俺も続く。ワームの方は液を吐いた直後で動きが鈍っている。また液を吐こうと身体を反らせた所に、ジークさんが馬の勢いそのままに槍を思い切り突き上げる。ズブリとしっかりと喉らしき部分に槍が刺さる。
「身体の下側は鱗がないようだ! 集中させろ!」
俺達がジークさんの合図で下がった隙に、装填が完了したクロスボウが顎の辺りに一斉射。矢が落ち着くと、歩兵隊の面々も斬撃から突きに変え腹を狙う。俺も走りこんだ勢いのまま長脇差しで一気に突く。肉に刀が刺さる感触がひどく生々しい。肉が堅いから抜くのがきつい。と、攻撃した箇所から煙を上げながら血が流れ始めた。これも毒か?
ワームにはこの集中攻撃はかなり効いている様でのたうち回り始めた。だがそれだけでもこの巨体の動きは十分こちらからすると攻撃レベルに感じる。血と液が辺りに広がり、こげた煙に臭いも凄く、とてもじゃないが近付けやしない。その中で不意打ちに尻尾が振り払われた。勿論あのサイズの尻尾なぎ払いはトラックの衝突レベル。堪らず吹っ飛ぶ面々。俺も馬車の方まで勢いよく飛ばされる。うわ、この高さから落ちたらヤバイ!
「コーン!!」
馬車から飛び出したきちゅねがそのまま一気に高くジャンプ。俺はどうにか手を伸ばしてきちゅねの毛を掴んで一緒にふわりと地面に降りる。
「助かったよ…きちゅね」
「コン!」
「ユウスケさん大丈夫ですか!?」
「馬鹿! まだ出てくるな!」
「え!?」
のたうち回っていたはずのワームがこちらに向かってくる。マズイ。負傷者も乗ってるこの馬車に突っ込まれたらさらなる被害が。さっきの衝撃でどこか骨でもいったのかズキズキと呼吸する度に痛むが、踏ん張らねば。
「コンスケ…守り刀は持ってるな…」
「はい…、ベルトに差してます」
「多分一回位は何か魔法が守ってはくれるとは思うけど、いざという時はお前だけでも逃げろ…」
「死にに行くみたいな事言わないで下さい! 一緒にポルチーニ食べるんでしょう!?」
「ああ、そうさな死なないさ、死んでたまるか」
「ユウスケさんっ!」
袖を引こうとするコンスケを振り切り、きちゅねに跨る。迫ってくるワームに突っ込むときちゅねの上から一気に飛ぶ。ワームはきちゅねを集中的に狙いを定めていたから俺の動きにはついて来れない。飛び上がった勢いそのままに俺と同じ位のサイズもある目玉に思いっきり刀を振り下ろす。
「グギャァァァァァ!!」
流石にこれは大ダメージ。けたたましい叫び声を上げてワームが仰け反り天を向く。宙に飛ばされる俺。これで馬車からはこいつは離れるはずだ。と、仰け反り天を向いたワームはそのまま口を大きく開いた。まさか…。
そのまま重力に引かれ俺は口の中へと取り込まれた。
書いてて自分でも予想外の方向になってきました。