再びのF.D
2015/10/04 文字が重複していた部分を修正&加筆
翌日ジークさんは夕方近くまで寝ていた。親父さん曰く、用事がないと飲み食いして翌日はいつも遅いらしい。有り難い。ランチが全滅する所だった…。コンスケは結構飲んだ様に見えたけど、ケロリとして普通に起きて、普段通りに仕事をしている。かなり酒強いな。
「おはようさん」
俺らがランチタイム後の片付けを終えて賄いを食べていると、2階からジークさんが下りて来た。思わずビクッと二人してご飯を隠す。
「取らねーって。朝はほとんど食えねぇんだよ」
そういって水だけ飲んでいる。本当に怪しげな胃袋だ。そして今は、朝違う。
「で、嬢ちゃん達行くんだろ?」
「え、どこに?」
不思議そうな俺たちにジークさんは当たり前の様に言葉を続ける。だから王宮にと。まぁ行くつもりではあったけれども。
「そんな訳で支度しな」
「今から!?」
「これからですか!?」
二人して驚愕の声を上げる。それを見て楽しそうに笑いながらジークさんは続ける。
「おぅ。飯食って用意したらよ、ツリータウン行きの乗り合い馬車経由で行くぜ。一日ちょいで着くからな。今から行ってツリータウンで一泊、朝の便で出発すれば明日の夕方までには着くだろうよ。俺と一緒に行きゃ王宮は顔パスだしよ」
「ちょっとちょっと! 用意が! 明日の仕事が!」
「私、まだこの前のお出かけから片付けてないですよ~」
「フェリングには許可取ってある。用意したら向かうぞ。まぁ飯食って用意整える時間はあるかんな」
慌てる俺らを尻目に一人楽しそうなジークさんだった。
改めてコンスケ以外との旅か。旅装となると悩むな。またいつもの和風セーラーと、後はマントも必須だ。防御効果は高い一式だけど色々な意味で身の危険を感じる。護身用に長脇差しも持っていく事にしよう。コンスケにも一応持っていく様に言っとこ。食い物はいいから着替えと、あ…きちゅねを連れてって大丈夫かな。折角だから王宮見せてやりたいし。そんなこんなで用意を進め一階に集合した。
「お待たせしました」
「お待たせですー」
「コン」
「なんだその狐は。まぁ連れてってもいいけど、ちゃんと面倒みろよな」
そんなこんなで、馬車で揺られて一路ツリータウンへ。
「さて、どこに泊まっかな」
「当てがあるのでちょっと待ってて下さい」
「当てなんてありましたっけ?」
「おぅ、待たしてもらうわ」
F.Dの経営している旅館へと向かう。ちょうどいいタイミングで玄関から出て来たFDに助走をつけてライ○ーキック!
「…白…」
仰向けに倒れたFDが何か呟いたが、無視してマウント取る。
「こんばんわー、えふでぃ~さぁ~ん。何許可取らずに明らかに俺達と分かるイラスト使ってるんですか~? しょーぞうけん!」
「HAHAHA! 大丈夫だよ。ちゃんと胸は当社比5割増しで描いたからボヨヨンだよ」
「5割増しであれか…何か人に言われるとムカツク。とりあえずサァビスで、宿泊費他を無料にしてくれないかしら~!」
「あい…もちのろんでございやす。これが無料パスね。おかげ様でお客も増えたよ。ありがたやありがたや」
ごそごそと胸元を探って赤い板…いや鱗を渡してくる。生温かいのが何だか嫌だ…。これあの例の【証】だよね。こんな簡単に渡していいのか。
「今売店でレプリカをお土産として販売してるからよかったら帰りに買ってってね。10個買ったら1個サービスするよー」
商魂逞しいというか何というか…駄目だこりゃ。
「終わったか、釣り目の嬢ちゃん」
「お姉ちゃん激しい…」
「コン」
二人と一匹が寄ってくる。
「うい、今日は無料となりました」
「そりゃ随分気前いいな」
「身体張りましたからね…」
「ユウ姉ちゃんいつの間に…キャッ!」
「エロイコトチガウカラナ」
「なんだつまらん」
「ですよねー」
こいつらノリが似てきたな…。俺の下にいるF.Dがもぞもぞ動いて顔を赤らめながらいい顔してるから思わず殴って黙らせた。なんかアクションチームの男ども相手のノリで絡んじゃったけど大丈夫かな…。
「俺もいいもん見せてもらったからいいんだよ」
殴られても何だか嬉しそうなF.Dの一言に思い切り叫び声を上げてしまったのだった。スカートだった…忘れてたぁぁぁ。
何かホクホクした顔のジークさんとF.Dと一緒に2階にある部屋に案内される。俺・コンスケ・きちゅねの相部屋と、ジークさんの一人部屋。まぁそうなるよね。当たり前に畳みに布団が敷かれていて、仲居さんがいる。ファンタジーな世界なのに色々と相変わらず突っ込みどころが満載だ。
「まぁ…ゴホン。何はともあれ温泉入るか。コンスケ髪の毛洗ってやるぞ~」
「わーい」
「コーン」
風呂上がりに浴衣に着替えて部屋に戻ってくると、仲居さんに宴会の用意が出来ていると伝えられ、1階の宴会場へ。
『本日の御宴会 麗しのお狐様御一行』
すんません恥ずかしいのでこんな張り紙外して下さい。明らかに4人分ではなく団体様向けの量の料理と、既に出来上がって馬鹿笑いしているジークさんとF.Dがいた。
「そうなんですよー。若い顧客の獲得がねぇ…難しいというか何というか…」
「んなの簡単だよ。俺が王宮でちょっと噂を流せばイチコロよ」
「ほほぅー。具体的にはどんな感じのものを?」
さりげなく杯にお代わりを注ぐF.D、やるなぁ。
「あれだな~。このジーク様もお気に入りの温泉宿で、若いオナゴも肌をつるっつるの綺麗にしてモテモテっつーのはどうよ?」
「おぉーいいですなぁ。バカウケな感じですよー!」
「だろぉ? このジーク様にかかればチョロイもんよ~!」
絵に描いた餅を二人でにこやかにつついてる。しかしジーク様って、自分で様付けですか…。
「コンスケよ…ああいう大人になってはいかんぞ…」
「はい、なんか私もしみじみと思いました」
「ほっといてさっさと飯食って寝よう」
「ですね~」
「コン」
う~ん岩魚の塩焼きとか、茶碗蒸しとか、何故かメロンとか…特産品ぽい感じなものが適当に置かれてる。統一感が無い。売りを絞ればいいのに。でも不思議とどれも美味しいので悔しい。
「あ、コンスケそれレモン絞っといて」
「はいはい。あ、これも美味しいですね。この黒い液体はなんですか?」
「あ…多分醤油だわ。作ってるのかなぁ。その白い四角い物体に少しかけて食べてみ」
「はーい。へぇ~しょっぱいけど美味しいですね」
「しかし、フォークとナイフで食べるのは納得いかんな…。豆腐をすんなり食べるとはコンスケ器用だな」
「スプーンで食べました!」
「そりゃ食べ易くていいな。あ、きちゅねそれまだ煮えてないからちょっと待ってな」
「コン」
小さな鍋で茹でてた葉物を取ってやる。結構雑食だよなきちゅねも。好き嫌いしないのはいい事だ。しかし、明日もそこそこの時間に起きなきゃなのにこんなにのんびりしてて大丈夫なんだろうか。保護者になった気分である。
今回の章は登場人物が多くなりそうで少し長くなる予定です。