C.D
なんだかんだと遅くなりました。続きです。
2013/04/23 修正
水晶の鏡の前で目を覚ました私は、ユウスケさんの手を握って地面に転がっていた。あの鐘の様な澄んだ音を聞いて、そのまま倒れて…寝ていた…のかな。どの位時間が経っているか分からないけれど、今日中に帰りたいし早く出発しないと。
「ユウスケさん起きて下さい。帰りますよ」
返事がない。なんかぐったりしてる。息はしてるけどまだ意識が戻って来てないみたい。こういう時は無理に起こさない方がいい気がする。仕方ないから背負ってきちゅねさんの所まで戻ろう。そんなに距離はなかったはず…。荷物も持って頑張ってユウスケさんを背負った。重いとは言わない。だって私と同じ体重のはずだし。…うん…軽い…軽いはず…だよ? ちょっと、よろよろしながら歩きだした時に後ろから声がした。
「…逃がさない…」
「え?」
振り返ると、水晶の鏡の陰から白い服を着た女の人が出てきた。前にF.Dさんの所で着てたユカタとかいうのに形が似てる服だ。腰まである長い髪が俯いているせいで顔を完全に隠してる。え…なんか怖いんですけど…。
「…」
「…へ?」
「…よ…」
「…えっと…何ですか?」
「…で…なの…」
「…えっと…、もう帰っていいですか?」
ごめんなさい、何言ってるか全然分かんない。というよりも聞こえないんですけど…。もういいや、ほっといて帰ろう。無視して入口に向かおうとしたら
「待ちなさい!」
「ひゃい!」
いきなり叫んだよーこの人。思わず変な声が出た。そしてす~っと音も無く近づいてくる…。いやぁぁ…。何か悪いモノを見てる気がする。肩をガシッと掴まれる。顔がずずっと近付く…ひぃぃ。目だけ赤いし…うわぁ夢に出そう…。
「…キノコの代金…貴方達払ってないでしょ…!」
「へっ?」
無言でそのまま外に連れて行かれ、崖の中ほどを指で示される。キノコの事考えて、下ばかり見てて気付かなかったけど、目線よりだいぶ高い所に何か書いてある。えーっと
【キノコのふるさと 水晶の谷へようこそ☆】
ようこその文字の隣には、ザルに山盛りのキノコのイラストが書いてある。あ、可愛い。
「え…っと…」
「…ここ…有料になったのよ…。地元の受けもよくって…。…これ、ここの案内ね…」
パンフレットを渡された。へえ~色んなキノコがあるんだ。松茸・トリュフ・舞茸・しめじ・サルノコシカケ? そんなキノコもあるんだ…。あ、本当だ有料ってしっかり書いてある。料金表によるとポルチーニさんは…あ~結構高い。そんなにお金持ってきてないよ。
「なんか…すいません…知らなくて。あのですね…今日は…その、持ちあわせがそんなにないのですが…」
「…ツケでもいいわよ…」
「あ、じゃあそれでお願いします…」
「…この紙に住所と名前書いてね…」
宿屋の住所でいいかな、リーフタウン大熊亭方、コンスケ&ユウスケと。
「…あら…あなた達…リーフタウンの人だったのね…。…じゃあ今度お店に食べに行く時にお代を頂くわ…」
「あ、はい。お待ちしております。お休みでなければ私達で給仕してますので」
「…じゃあこれ証文代わりね…。…返さなくていいから…」
透明な板みたいなのをもらった。なんかマスターにもらった黒いお守りと形が一緒だ。これは光を反射してるけど。
「…お店に行ったら声かけるわね…。…私、C.Dというの…」
「わかりました。私がコンスケです。ではあの、失礼します」
あれ? どこかで名前聞いた気がするけど…どこだっけ? まぁいいや早くしないと今日中に帰れなくなるし。
まだぐっすりと寝ていたきちゅねさんの所に辿り着いたら、ようやくユウスケさんが目を覚ました。
「おはようユウスケさん。体調大丈夫ですか?」
「うぅん…なんか長い夢を見ていた気がする…。あれここ、きちゅねの所? 運んでもらっちゃったのか…悪いなコンスケ」
「大丈夫ですよ。色々ありましたけど…」
「色々?」
「長くなるのできちゅねさんの上で話しますよ。とりあえず早く出発しましょうよ」
「あいあい。あ~頭痛いわ」
二人して荷物を急いでまとめ、きちゅねさんに括りつけながらユウスケさんに聞いてみる。
「どんな夢でした?」
「なんか暗い所から誰かが出してくれる夢かな? 詳しくは覚えてないや」
「奇遇ですね。私も誰かを連れ出す夢は見た気がしますよ」
「二人して同じ夢見てたりしてな」
「ですね~」
「よし用意完了! 食料はほとんど無くしたし、帰りは速度出していいぞ、きちゅね~」
「コ~ン!」
きちゅねさん、しっかり眠って元気一杯みたい。これは早く帰れるかな。
その後はどうにか真夜中になる前には帰れて、親父さんにキノコを渡しそのまま二人して直ぐ様ベッドにダイブしたのでした。疲れた~。
フィィィィン
水晶で出来た鐘が鳴る。
「…浄玻璃の鏡からあっさり抜け出すなんて、あの方の言う通り面白い二人だわ…。…王にも報告しないと…。…とりあえず…ポルチーニ茸はクリームソースパスタで出してもらおうかしら…」
音が鳴り終えると、その背後で水晶の鏡が、ゆっくりと門の形へと変わっていった。
ちょっとホラーを書こうと思ったのに、登場人物がみんなしてギャグに走りたがるのは私の頭がお気楽なのでしょうか…。
ちなみに「キノコのふるさと」でトリュフを採る場合は豚も貸してくれます。料金は保険金込みです。採り放題ツアーは残念ながら実施されておりません。