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キノコをもとめて

お待たせしました。今回は難産でした…。

2013/04/22 加筆修正

「明々後日までにポルチーニ茸を取って来て欲しい」

「またレアな食材を…」

「なんですか、『ぽるちーに』って?」

「香りが良し、シャキシャキと歯ごたえも良し、味も良いと、素敵茸なんだよ。煮込んだりするとこれがまた美味いんだよなぁ。贅沢なんだぞー」

「おぉユウちゃんよく知ってるね」

「えぇ、よくパスタとか作ってましたから」


今日も忙しかったランチタイムの後、一仕事終えたと和んでいる私達に親父さんがそんな頼みごとをしてきた。なんでも昔お世話になった人が、明々後日の夜に茸を食べに来るらしいんだけど、仕込みもあって手が離せないそうだ。


結構珍しい茸で、この辺りだと水晶の谷という所でしか採れないんだって。水晶の谷にはポコポコ生えてるらしいけど、虫食いが多くて選別したりするのに時間がかかるみたい。ここから馬で一日かかるかどうか…位の距離だって。きちゅねさんの速さなら、明日の朝早くに出発すれば期限までには帰ってこれるかな?




今回の旅は野宿の必要もあるからと、ユウスケさんがテント等をしゃちょーさんに発注すると言って出ていった。私は食糧の調達に村の雑貨屋さんへ。お会計が済んで買い物袋に物を詰めていると声をかけられた。


「おぉコンスケちゃん奇遇だね」

「あれマスター? どうしたんですか?」


烏龍亭のマスターだ。最近忙しくてお店に行けてないから久しぶりな気がする。


「俺も買い物位するよ。シナモンをきらしてしまってね。コンスケちゃんこそ、こんな時間にそんなに買い込んで明日はキャンプでもするのかい?」

「そんな感じです。ちょっと水晶の谷まで茸採りに行くことになって」

「水晶の谷か…」


マスターが渋い顔になった。なんだろう?


「あそこはC.Dの管轄だからな…。何もなければいいけど。よしこれを渡しておこう」

「なんですかコレ?」

「お守りだよ。必要ない事を祈ってるよ。気を付けてね」


マスターから何か薄い板みたいなものをもらった。手の平より小さい位のサイズで、光が透けない位に真っ黒だ。私がお守りに見惚れている内に、シナモンが入った瓶を持ってマスターは行ってしまった。お礼は今度言っておこう。




買った物を二階のユウスケさんの部屋に運び入れる。


「おかえり~。おい…コンスケ買い過ぎじゃないのか。リュックに入る量を越えてると思うぞ…」

「あれ? だってユウスケさんいっぱい食べるから」

「確かに俺は結構食べるけど、荷物になるし、現地調達出来るものもあるからそんなには必要ないよ。まぁ入らない分は置いていくか」

「はーい」


確かに鞄はある程度大きいけど、今回は寝袋やテントも持ってくから結構な量になっていた。失敗した…。


「よし、これを詰めて…後は明日でいいかな。明日は朝早くに出発して、暗くなる前には水晶の谷へ到着、一泊して明るくなったら茸採って帰る。期限の日の前日には帰ってこれる予定。何か質問意見文句その他ある人?」

「はーい。おやつにバナナは入りますか?」

「つぶれたら嫌だからなしですー。つーかベタなネタを…。ほらさっさと寝るぞ。きちゅね連れてベッドにGOー」

「はーい、お休みなさい」




翌朝早く宿屋の前で親父さんの見送りの中、ユウスケさんはきちゅねさんの脇に紐で荷物を括り始めた。


「帰りは食料品が茸だけになって軽くなる予定だ。我慢してくれよな? きちゅね」

「コーン」

「わかったわかった。ちゃんとブラッシングもしてあげるから」

「温泉にも連れて行きましょう~」

「それお前が入りたいんだろ? まぁ戻ったらのんびり温泉もいいな。F.Dのとこ行こうぜ」


それもいいなぁ。この間は湯当りしちゃったし、改めてのんびり入りたい。と、きちゅねさんへの荷物の取り付けが出来たみたい。


「二人とも頼んじゃって悪いが、気を付けて行ってきてくれな」

「大丈夫ですよ親父さん~」

「旅慣れてますから。では行ってきます」

「行ってきます~」




軽快に走るきちゅねさんの真横にいた太陽は、すぐに私達を見降ろし始めた。雲もなくて日差しがちょっとチリチリする。きちゅねさんはこの間ツリータウンに行った時よりも速度を落として、揺れないようにと意識してくれているみたい。


「いい天気でよかったですね」

「そうだな。雨だと視界も悪くなるし、きちゅねもこんなに速く走れないだろう」

「湿気で髪の毛や尻尾がはねるのも嫌ですよね~」

「爆発すると直らないんだよなー」


そんな事を話してる私達を乗せながらきちゅねさんは軽やかに駆けていく。




ちょこちょこと休憩を挟みつつ、空が赤く染まる前に水晶の谷へ到着した。景色が森の緑から岩の灰色に変わり、切り立った崖に挟まれた谷底は涼しそう。崖の途中途中にキラッと反射する物があるけど、水晶かな。


「よし、まず野宿出来る場所を探そう。出来れば大きな木の根元とか。洞窟なんかがあると楽かな。テントが風に飛ばされたりもしないし」

「あそこの洞窟なんてどうですか?」

「お! いい感じ。ちょっと見てみよう」


谷に入ってすぐの所に、よさそうな洞窟があった。奥行きもそんなに広過ぎるわけでなく、程良い感じだ。


「入り口付近他、獣の気配もなし。寝ぐらにされてもないみたいだし…良さそうだな。ここにしようか」


きちゅねさんから下ろしたテントを洞窟の中に二人で広げて、細かい器具をユウスケさんがテキパキと設置してあっという間に寝床へと早変わり。


「この中で空気も流れてるし、火も焚けそうだから飯にするか。腹の減り具合はどうだ?」

「途中で軽くパンをつまんだりしただけだから結構空いてますよ~」

「ん、キャンプ定番のカレーでも作るよ。テントの中に荷物運んじゃっといてー」

「はーい」


私が荷物をきちゅねさんから下ろしている間に、辺りから集めていた小枝で火を起こして、食事の用意を始めるユウスケさん。


「ユウスケさんも疲れてるだろうし、なんか何も出来なくてごめんなさい…」

「どうした急に?」

「いえ…なんかいつもやってもらっちゃってるし、私何にも出来なくて…」

「野宿なんてやったことないんだから、いきなり出来る訳ないだろ。出来ない事は悪い事じゃない。少しずつ覚えようとしてくれればいいんだし。お店の仕事だってすぐに覚えたんだろ? 俺も少し教えた感じ、コンスケは覚えがいいから大丈夫だよ」


そういいながら優しく頭を撫でてくれた。ちょっと涙出そう…。


「はい…」

「ん…今日は朝も早かったし、さっさと食べて寝てしまおう。食器の用意をよろしく」


ご飯を食べて後始末している間に辺りは一気に暗くなった。私はテントの中、ユウスケさんは火の番をしながら寝袋にくるまってみの虫状態だ。きちゅねさんは流石に疲れたのみたいで、私の横でぐっすりと眠っている。周りは静かなんだけど、虫の声や鳥の羽音が聞こえる度にちょっとビクッとしてしまう…。ごそごそと寝がえり打ってるとユウスケさんが声をかけてきた。


「ん…コンスケ…何だ眠れないのか?」

「はい…何だか寝付けなくて…」

「お泊りは初めてだもんな。しかも野外だし。眠くなるまで少し話すか?」

「いいですよ。ユウスケさんの昔の事とか聞いてみたいです」


そう答えると、ユウスケさんは少し考えた後、ゆっくりと話し始めた。


「昔の事ねぇ。さっき食事の前に話した事だけどさ。俺、昔は何にも出来なかったんだよ」

「そうなんですか? 完全無欠みたいに見えますけど」

「そんなに何でも出来るわけじゃないよ。前にも話したけど、姉ちゃんと家に二人の事が多くてさ。色んな事を失敗しながらちょっとずつ慣れていったんだよ」

「そうだったんですか…。ちょっと意外です」


ユウスケさんが苦笑する気配がする。


「武術と一緒でさ、まずは基礎をずっとやるんだよ。で、身体が覚えて来たら少しずつ他の事もやっていって。とにかくずっと勉強だけどな。そうやって積み重ねたものが自信になるんだよ。怖がらずにやったらいい。俺もフォローするからさ」

「…はい…」


何でこの人はこんなに優しくて強いんだろう。私はまだまだだなぁ…。ちょっとずつやれたらいいな。

話していたら気持ちが落ち着いてきたのか眠くなってきた。その後は物音も気にならず、すぐに睡魔がやってきた…。




翌朝、外の明るさで目を覚ました私達は、手早く支度をして谷底を進んでいく。きちゅねさんは荷物番&休憩。帰りもまた走ってもらうしね。まだ太陽が高くないから、入り口付近の洞窟と違って谷底は薄暗い。一人だったら絶対歩きたくないな。なんか出て来そうで怖いし。ちっちゃいリュックを背負ったユウスケさんが目を閉じて深呼吸する。


「こっちかな…」

「匂いでわかるんですか?」

「かなり独特だからね」

「へぇ~」


こっちだとユウスケさんが指さした先に、木の根元に茸が固まって生えていた。


「なんか…随分存在感ありますね」

「THEキノコって感じの形だよな。実際に生えてるのは俺も初めて見たわ…」


親父さんが描いてくれた絵と見比べても間違いなさそうだ。


「ここにある分で足りますかね」

「いいんじゃないかな。かなりの量があるし。お客さんに出す分と俺達も食べられる分だけ採ったら残しておこう。あんまり荷物になってもきちゅねにも負担だしな。あ、あんまり穴が開いてるものは採らない様に」


二人してもぎゅもぎゅと茸を収穫する。持ってきたカゴがあっという間に一杯だ。


「この中で虫食いがあったら捨てなきゃだからな…。切ってみるか…」


ユウスケさんがまな板と包丁をリュックから出してきた。用意がいいな。


「私が切りますよ。虫の確認とかよく分からないですし」

「あいあい。真ん中から二つに分ける位でいいから。まかせたぞ」

スパッ!と半分に切ってユウスケさんへ渡す、またカゴから新しいのを出して…を繰り返す。いつも仕込みでやる要領だね。虫出てきませんように…。


「う~~ん」

「え! 虫出ました?」

「いや、逆…。全くいない。普通ウニョロウニョロしたあれがいるんだけど、すごい綺麗。持った感触もスカスカじゃないしね。すごいなーここの茸」

「よかったです…」


切っててそんなものが出て来たら悲鳴上げちゃう…。




結局採った分を全て切っても虫は出て来なかった。よかったよかった。籠にまた詰めて、落ちない様に布でくるんで口をしっかりと結ぶ。


「よし、まだ昼にもなってないし帰りは楽勝かな」

「ささっと帰りましょう~」


来た道を辿って谷の出口へ向かって歩き始めると、洞窟があった。


「昨日泊ったのはこれでしたっけ?」

「いや違うよ。もっと谷の入口の辺りだったはず。そもそも朝通った時にここに洞窟なんて見た覚えが無い様な…」

「中で何か光ってますよ。水晶かな? 近くでまだちゃんと水晶を見てないから行ってみてもいいですか?」

「俺も行くよ。結構光ってるけど、相当でかい塊かな?」


少し入ると洞窟は結構中が広くなってた。光ってるのは平らな面が大きく綺麗に磨かれた様な塊だ。


「鏡…ですかね?」

「鏡みたいだよな…。水晶で出来てるのかな? 随分透明度高いなぁ」


二人で鏡に身体を映しても充分余裕がある。高さも横幅も私達の二倍位だ。


「えへへ。こうして見ると本当に双子ですね」

「そうだな」


並んで鏡に映るなんてないからなんか新鮮。金の尻尾でちょっと吊り目のきりっとしたユウスケさん。銀の尻尾で垂れ目でほわーんとしてる私。あぁ妹って言われて納得するなぁ。


フィィィィン


突然どこからか響いてくる音に耳が痛くなる。


「ユウスケさんこの音って一体…」

「鐘の音…? 何だこれ頭に響く…」


私の横でドサッとユウスケさんが倒れる。私も意識が…飛ぶ。茸を入れた包みが落ちるのがゆっくりと視界に入る。地面しか見えなくなって、意識が飛ぶ前に誰かの声が聞こえた気がした…。

実際の生のポルチーニは結構虫がいるようです。描写すると気持ち悪くなりそうです…。

以前、乾燥や缶詰めのを使った事がありましたが独特の歯ごたえと香りは結構いいものです。気になった方がいたらお店で食べるのをおススメします。

一応日本でも採取は可能らしいですが、ほとんど輸入物ですね。お値段は高めです。

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