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温泉町ツリータウン

久々の更新です。

2013/03/21 大幅加筆修正

「あ~ぁ…ベトベトするわ…」


昨日から宿屋の風呂が故障してしまった。仕方がないので昨夜は厨房でお湯を沸かしてもらい、濡らしたタオルで身体を拭くだけで済ませたのだが結構きつい。狐成分が含まれた身体だからか、汗をかく量は普通の身体に比べると少ないんだけど、やはり昼間あれだけ食事処で動いているからシャワー位は浴びたい。むしろ疲れを取る為にはやはり湯舟に浸かりたい。普段は仕事明けに、大熊亭の広めの風呂でのんびりと汗を流していたから、汚れも落ちていない気がしてしまう。


「コンスケ~生きてるかぁー」

「無理ですぅ…」


今日の分の仕事が終わり、部屋でぐったりしているのもアレなので、屋根裏部屋にいるコンスケに声をかけてみたら、案の定こちもダラダラとベッドの上で溶けていた。


「今日も厨房でお湯沸かしてもらうか…?」

「身体拭くだけですからねぇ…。なんかわざわざ沸かしてもらうのも悪いですし、尻尾も拭けないし」


うぅむ…気持ちは分かるが、中途半端に現代人的な思考を…。ファンタジーな世界なのに、しっかりした風呂付きの宿屋に拾われた時点で優遇されてるんだぞ。社長も設定とかをどれだけ考えて作ってるんだろうか。俺もこっちに改めてやってくる時は、ドラム缶風呂や、部屋に風呂桶置いて沸かしたお湯を入れる中世タイプな物を想像していたのに、いざ来てみたら普通に旅館の立派なお風呂レベルが完備だもんな。


村共通の公衆浴場もあるけど、混浴なんだよね。一応身体は女の子だから、男性と入るのは微妙だし、村の女性陣がまとめて入る時間に一緒に入ろうにも、大熊亭の片付けとかの時間の関係で難しい。ヒーローショーのテントの中では男女が入り混じって着替えたりはしていたけど、肌さらすのは流石に抵抗が。そんな事を考えていると、目の前でコンスケがさらにだらけてる。スカートなんだから少しは気を使いなさい…。


「コンちゃん、ユウちゃーん!」


屋根裏の部屋にも聞こえる様に、一階の女将さんが声を張る。


「修理の人を呼んだんだけど、お風呂直るの一週間はかかるそうよー」

「えぇ~!」


流石に二人の声がハモった。




「コンスケよ…由々しき事態だ…」

「そうですね」

「コン~?」


寝ていたきちゅねも起こして作戦会議である。非常自体宣言発令中である。


「まず、公衆浴場。こちらはもうすぐ時間的に男祭でございます…」

「はい…、無理をしてでも入るのは有り得ません」

「コン」


正直二日目でどうかとは思うが、お風呂に入りたい欲求で頭が若干流されている。いや、あれだよ女の子の身体は気を使わないと。欲望の為じゃない、身体の為だ、うん。


「昨日の方法では、我々の尻尾までは満足に洗えない。ここで朗報だ。隣町に素敵な温泉があるとの情報を入手したのである」

「なんと!」


多分今、俺の後ろには効果音でババーン!とか表示されている気がする。


「しかもきちんと男女別々だ!」

「素敵!」

「コーン」


キラキラと目を輝かせ、拍手するコンスケ。そうだ、一つ気になっている事を聞いておこう。とても重要な事だ。


「ただ…コンスケさんや、俺と一緒に入るの平気か…?」

「あぁ…そこは大丈夫ですよ。どうせ私の身体と同じじゃないですか」


あぁ、まぁそうだね。悩んだだけ、無駄だった。意外とそこは淡白だった。それとも温泉に目が眩んでどうでもよくなっているのか…。


「ともかく、早速支度して乗り込むぞ」

「はいです」

「コーン?」


着替えやらなんやらをまとめ、二人してそそくさときちゅねに乗り込む。目指すは隣町の【ツリータウン】だ。馬でものんびり散歩程度の距離なので、きちゅねの足ならすぐに着くだろう。




温泉で有名なツリータウン。町を名乗ってはいるが、正直ふたを開ければ村規模のリーフタウンと同じ位のものだと思っていたのだが、湯治客がそこそこいて賑わっている。温泉饅頭や温泉卵等が売られているのが目に入るけど、やはりこれはどこでも定番らしい。後で親父さん達にお土産を買っておこう。メインの通りには、お土産屋等のお店達と一緒に幾つかの温泉宿が並び、湯気とのぼりで目で見ても中々賑やかだ。二人と一匹で、ぷらぷらと歩きながら見て回る。


「さてコンスケさんや、どこのお風呂にしようかね?」

「選べる程あるっていうのは素敵ですね」


硫黄の独特の香りが、温泉街らしい雰囲気をさらに盛りたてる。そういえばあっちでも温泉は暫く行ってなかた。温泉リゾートでヒーローショーのお仕事もあったけど、自分はお風呂には入れなかったし。


「お! ここなんていいんじゃないかな?」

「どれですか? むむ、いいんじゃないですかー」


丁度通りの中心、ちょっと洒落たホテルの様な外観に、のれんには「湯」の文字。看板にも効能等が色々と書いてある。竜の彫刻まで置いてあって豪華だ。しげしげと見ていると、建物の中から頭に鉢巻き作務衣ぽい格好に法被はっぴを羽織ったお兄さんが出てきた。随分と和のテイストだ。


「可愛いお嬢さん方どうぞ寄ってって~。うちはお肌スベスベになって疲れもしっかり取れる炭酸風呂と、この町一番の露天風呂が売りだよ」

「おお、素敵」

「ユウスケさん炭酸風呂が気になります、行きましょ!」


というわけで即決してしまった。疲れも取れるし、温かさも持続するから湯冷めしにくくていいんだよな、炭酸風呂。


「はーい、二名様ご案~内!」


ニコニコしながら俺らを先導する。随分と背が高い、親父さんよりもでかそう。そしてお食事処とか飲み屋さんの客引きみたいだ。




「おぉ! なんか内装も落ち着いてるし、いい感じだなぁ」

「うみゅー。これは素敵ですねー」


もう気分はすっかり小旅行。お洒落な館内に案内された俺達は、履き物を脱ぎ、非常にお手頃な料金を払い、共用のロビー部分を通って大浴場へ。勿論女性用だ。きちゅねも当たり前についてくる。受付で何も言われなかったけど、お店側からするとどういった扱いなんだろう。ペットかな。すぱぱーっと服を脱いで浴槽フロアへ。お客さんは俺達だけだ。


「コンスケお先! お~豪華!」


山あいが見える様に、窓が大きく作られている。奥の露店風呂部分からは、絶景が見れそうだ。これから沈んで行こうとしている太陽が随分と幻想的で、本来の目的を忘れて見入ってしまう。


「綺麗ですね~」


用意の出来たコンスケときちゅねも一緒に見惚れていた。


「日が沈んで、今日という世界が終わり、また明日の朝に世界が始まるんだな」

「毎日生まれ変わってるみたいですね」


そうかもしれない。そう考えると世界は毎日新鮮な物だ。と、きちゅねがくしゃみを一つ。


「身体洗ってお湯に入りましょうよ、風邪ひいちゃいます」


見ていたいけど、確かに身体が冷えてくる。あ…コンスケはしっかりとタオルで身体を隠しているんだな。


「だって恥ずかしいじゃないですか~。ユウスケさんこそ腰回りだけじゃなくて全部隠しましょうよ」

「ん? 何か隠す意味があるものなんてあるのか」


コンスケがこの世の終わりみたいな顔して、持っていた物を落とす。しまった…同じ身体だから、そのままコンスケへのダイレクトアタックになってしまった。


「…う…あぁ~…。それでも…それでもぉぉ…。私だって強く生きているんです!」

「あ…ごめん…。いや、あの本当にすまん。コンスケ、ほら背中を洗ってやるから許してくれよ…」


俺は大きさの大小はどうでもいいし、個人的に自分の身体になってみると、揺れないから動き易くてありがたい。大きいと肩が凝るから大変と姉ちゃんからよく聞かされているけど、そんな事を言っても慰めにもならないよな。あうあ、コンスケが床に『の』の字書いてる…。


「髪の毛も洗って下さいよ…。うぅ…ペタンコだって需要あるもん…。あるんだもん…!」


床に散らばった物を集めて、石鹸と身体を洗う様のタオルを取り出してコンスケに渡す。


「前だけ洗ったら声かけてくれな」

「はーい…」


こいつ、ショックが大きいからって、尻尾で受け取りやがった…。器用だけど、これは無作法…なのかな。とりあえず俺も身体を流そう。




「ほらほら、ちゃんと目をつむってないと目に入って痛いぞ」

「そんなの分かってますよーだ」


シャンプーを泡立てて、わしゃわしゃとコンスケの髪を洗う。肩甲骨位までの結構な長さがあるので、毎日洗うのも一苦労なんだよな。乾かすのも大変だし。コンスケは普段はどうやって洗ってるんだろ。


「普段は私は尻尾で桶を掴んで、下向いたままシャンプーを一気に流してます。水で濡れた髪の毛で顔が埋まると息が苦しいのです」

「俺は桶にお湯張って、そのまま頭突っ込んで、ガシガシと洗ってた。ちょっと無茶し過ぎてたな…」


結構尻尾を有効活用してるんだなぁ。俺も使える様に鍛えようかな。洗い残しがない様に、丹念にわしゃって行く。


「あ~そこそこ、気持ちいいです。なんだか手慣れてますね。もしかしてユウスケさんは女の子とお風呂入る機会が多かったんですか? そうですかモテモテですか」

「んなわけあるか。姉ちゃんの髪の毛洗わされてたんだよ。面倒臭いからやれーって言われてな。姉ちゃんも基本的に髪は長いし」

「ふふー仲良しさんですね」


一応姉弟とはいえ、年頃の男に洗わせるのはどうかと思うが、確かに大変そうなのと、逆らうと鉄拳制裁が来るから頑張って洗ってたんだよな。親父も大体家にはいないし、お袋は単身赴任。大体家には姉ちゃんと俺の二人だけだったから、家事や料理も随分慣れたし、大抵の事は出来る様になった。自衛官の子供だから、男女関係なく自分の生活に関わる事は出来る様にする。その考えが当たり前として小さい頃から刷り込まれていたのもあったけど。でも、姉ちゃんは面倒臭いと言って大体は俺にやらせてたな。


「よし、流すぞー」

「あいあいー」


妹がいたら、きっとこんな感じで日々流してやっていたんだろうな。




「ふ~」

「ほへへー」


俺も身体を洗った後に、二人で奥の露天風呂へ。月明かりと、星明かり、そして風呂場にかけてあるランタンの光が、目に優しい景色を見せてくれる。自然が豊かなのは本当に素晴らしい事だ。空気も料理も美味しいし、こっちの世界いいよなぁ。二人で並んで湯船に浸かっていると、横でだらけてるコンスケ。きちゅねは二人がかりで身体を洗ってやった後は、勝手気ままに炭酸風呂や足湯を楽しみに行った。しっかり堪能してるなぁ。


「しかし、髪の毛も凄くサッパリ、尻尾も綺麗。言う事なしですね~」

「確かにな」


結局さっきは俺もコンスケに髪の毛を洗ってもらい、尻尾もしっかりと綺麗にした。特に尻尾は盛大に泡立てるから他にお客さんがいたら中々出来ない。貸し切り状態なのが非常に助かる。


「なんかー、こーやって見上げてると星空に吸い込まれそうですねー」


お風呂の外周の岩に頭をつけて空を見上げると、すっかり暗くなったそこは満天の星空。街頭やビルの明かりがないそれは、本当に素直に星の瞬きだけが見えて、見入ってしまう。


「そういえば、今見えてる星の光ってずっと昔のものらしいぞ」

「どーゆーことですかー?」

「あんまりにも遠くに星があるから、光が届くまでに時間がかかるんだってさ」

「へー。あの星が実際光った時には、ここには誰がいたんでしょうね」


ゲームの中のはずだけど、ここには確かな感触、確かな歴史を感じる。きっと、ここもどういう原理か分からないけれど、時間は流れていたのかもしれない。案外俺とコンスケみたいな狐が昔も同じ様な事を話していたのかもな。そうじゃなかったらそれこそ神話の人々が星でも見て語り合っていたとか。


「そしたらきっとそこには、きちゅねさんもいたと思いますよ」


なんだかそれはとても自然な光景で、それを想像して思わず笑いがこぼれた。遠くで気持ちよさそうなきちゅねの声も聞こえてきた。




「茹だったー」


のんびりと浸かっていたら、コンスケがしっかりと湯辺りを起こしてしまった。時々身体を冷ましたり、炭酸風呂に行ってみたりとかしていた俺と違って、のんびりとずっと露店風呂に浸かっていた様だ。大丈夫かな。


「だいじょーぶれすー」

「駄目だ…」

「コン?」


文字通り溶けてる。仕方ないので用意されていた浴衣を着せてやり、ロビーのベンチに座らせると、うちわで扇いでやる。


「しゅぽー」


何か冷たい飲み物でもあればいいんだけど、と辺りを見回すと、温泉の定番のアレがある。何でこれまであるんだ…突っ込むのはもうやめておこう。とりあえず一本購入。


「コンスケほら、これを飲んでみろ」

「なんれすか?」


蓋を専用の器具ですぽっと外して、渡してやるともっきゅもっきゅと飲み始めた。一気飲みは頭痛くなるぞー。


「コレは…美味しい! 何ていう飲み物ですか!」


あ、シャキッとした。元気になってよかったけど、目が爛々としてちょっと怖い。そう、これは何であるのかが分からないけど、何とフルーツ牛乳だ。

作者が温泉に入りたいという願望もあります…。


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