原初の愛は我を作る・・・
2013/03/19 大幅加筆修正
「ここみたいだな」
「何か光ってますよー」
「コンコン」
鱗が反応したのか、滝壺の所に飛び石の様な物が、仄かに光りながら浮かび上がり滝の中へと続いている。暗くなりかけているのもあって、結構目立つ。その部分をどこかの配管工よろしくジャンプで渡っていくと、何故か水に濡れずに滝の裏に通過出来た。後ろからきちゅねが颯爽と飛び、コンスケはあわあわ言いながらついてくる。身体能力は同じのはずなのに、妙に危なっかしい。滝の裏は洞窟になっていて、一人ずつしか歩けない程の狭い道を進むと大きな空間が広がっている。そして、奥に黒い建造物…門だ。
「ふおぉ、おっきいですねー」
「コーン」
背伸びしてるが、あんまり見上げると反っくり返ってこけるぞコンスケ。俺ときちゅねは前回の事もあるから、警戒したままゆっくりと近付いていく。今のところ変化はない。脇差しはいつでも抜けるように右手は柄に。
「これだな。もしかしたら何かが急に現れるかもしれないから警戒しておいてくれ」
「わ、わかりました…」
気を張っておこう。またこの前のドラゴンが出て来て、二人ともスッパリ切られてさらに分裂して四人になりましたとか笑えないしな。そもそもそうなる前に今度こそ死ぬ可能性も高い。見た所、この前の門と形は同じ様だ。特に材質等も違いは見られない。
「コンスケ下がってろ。これに触れてみる。きちゅねのそばを離れるなよ」
「ひゃい」
俺が真剣な声を出したからか、コンスケも緊張してきた。ぺたりと触れると、洞窟の温度よりもヒンヤリとしてる。それ以上は何も感じないし、辺りに特に変化も感じられない。
「これは、はずれか」
「コン?」
思わず詰めていた息を吐き出し柄から手を放す。俺が気を抜いたのを見て、一人と一匹もほっとした空気になる。
「しかし立派な門ですね~。これは開かないんですか?それに色々と沢山くっついてますね」
本物のロダン氏が一番始めに設計をした時点では、美術館の入口に設置する構想だったらしい。結局は納期に間に合わなかった等で、そのまま普通の美術品として作る事になったとか。元々こういった形での構想だから、門が開いたりもしない。
「ダンテの【神曲】という作品にインスピレーションを得たそうだ。この建造物自体が地獄の門と名付けられてるしな」
「地獄…?」
概念としても説明が難しいな…。悪い事をした人が死んだ後に行くところという事になっているが、実際は分からない。死んだ経験はないからな。似た様な事はあったけど、あれはちょっとまた違う何かだと思う。
「まぁあれだ、行かない方がいい場所だな。さて確認も済んだし帰ろう。外からの太陽の光も入らなくなって来てるし。きちゅね、狐火を」
「コーン!」
「あら明るい~」
紫色の火が、辺りを仄暗く照らす。上の方に真珠色のドラゴンのレリーフが付いているが確認出来た。オリジナルにそんなものは付いていない。今回ここに来る前に嫌になるほど写真を見せられて覚えさせられていたから間違いない。何か意味があるのかもしれないから、リーフタウンに帰ったら社長に報告をしておこう。
「足元も見易くなったし、行きましょ?夕飯に間に合いたいです」
「そうだな」
「コンコン」
洞窟を出ると、もう辺りは星が瞬き始めていた。H.Dの家の明かりも点いている。休憩なしで一気に帰れば、そう遅くならずに帰れるだろう。夕飯には間に合うかは微妙そうだけども。
「久しぶりにお客さんが来たと思ったら、あっという間に静かになったわ。たまには賑やかなのもいいでしょ。ここまで尋ねて来てくれる人も少ないしね。B.Dもお店があるからって中々会いに来てもくれないのよ。M.Dは騒がし過ぎるからファータだけ来てくれたいいんだけどね。そうね、あの子達の事もあるから今度は私から会いに行ってくるわ」
狐達が去った後、墓標へH.Dが語りかけている。
「いつものラベンダー水、置いておくわね。父さん」
星が瞬き、返事をするかの様にラベンダー畑を風が駆け抜けていった。
【L.D】に捧ぐ。