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隠者H.D

2013/03/18 大幅加筆修正 料理部分特に増し増し

中から出て来たH.Dさんはとても綺麗なお姉さんで、淑女ここに有りって感じ。髪の毛は銀色でサラサラだし、何か光ってツヤツヤしてる。服も薄紫色主体で、全体として色気がある。見惚れている私を放ってユウスケさんはさらに質問を続ける。


「門はどこにあるんですか」

「いきなり聞きたい事を聞くなんて、慌てるこじきは貰いが少ないわよ。とりあえずお上がりなさいな。お茶でも飲みながら話しましょう」


単刀直入に切り出したユウスケさんの態度に怒る事もなく、やんわりとした笑顔で返すH.Dさん。大人だ。


「あぁ…すいません慌ててしまって。お邪魔します」

「お邪魔しまーす」

「ココーン」


きちゅねさんもそのまま中へ入ったけど、H.Dさんは何も言わず笑顔のまま客間に案内してくれた。




通された部屋の窓際にはハーブが幾つかまとめて吊るしてあって、とても落ち着く香りが漂っている。部屋の真ん中には大きな木製の机と椅子がセットになっていて、そこに座る様に案内される。使いこんであるみたいで表面はとっても滑らか。棚には大量の本が綺麗に整頓されて入ってる。背表紙に書いてある文字はどこか別の言葉なのか読めない。改めて見ると、本棚や他の室内の家具も、どれも年月を経た物だけど、よく手入れがされていて味わいがある感じ。部屋の中を色々見ている内に、H.Dさんがお茶を入れてきてくれた。立ち昇る湯気から、上品な香りがする。


「うちの庭から摘んだ香草で作ったハーブティーよ。とっても身体にいいんだから」

「頂きます」

「いただきまーす」

「…コン…」


きちゅねさんは熱いのが駄目なのか、ちょっと涙目だ。ふーふーして冷ましてあげよう。きちゅねさんが飲み易い様にカップじゃなくてボウルみたいなのに入れてくれる。相手の事を考えてくれてるなぁ。


「いいお茶ですね…」

「でしょ?土がいい上に日当たりもとてもいいから、立派に育ったうちの自慢のハーブ達なのよ。手入れしないとすぐに好き勝手生えるから大変なのよね」

「ハーブ類は繁殖力旺盛ですからね。畑を埋め尽くしたりもしますしね」


私がきちゅねさんの分を冷ましている間に、村の主婦の人達みたいな会話が続いていく。


「さて…本題ですが…」

「私もね…」


ユウスケさんの話を遮ってカップを持ったまま、H.Dさんが話し始める。


「話してあげてもいいんだけど、我らが王もうるさいのよね。見極めろ…とか言われてるんだけど、荒事あらごとは嫌いだから。あなたも痛いのは趣味じゃないでしょ?あちらからいらしたニンゲンさん」


穏やかな語り合いから、いきなり殺気立った気配でユウスケさんが立ち上がり、腰の剣に手をかける。


「例のあれの仲間か」

「…だから、荒事あらごとは嫌いって言ってるでしょ。こぼしたお茶を拭いて、最後まで話を聞きなさいな」

「ユウスケさんとりあえず落ち着きましょうよ。きちゅねさんもお茶飲んでますし」


冷ましてあげたら、ちゃんとお茶を飲み始めたきちゅねさん。器用にボウルを傾けて飲んでる。流石に持ち上げないでテーブルの上だけど。


「その娘の言う通りよ。言ったでしょ、慌てるこじきは貰いが少ないって。話はまだ終わってないわ」

「すまない…」


素直に謝って、椅子にかけるユウスケさん。


「王からは見極めろなんて言われてはいるけど、別にやり方は決められてないわ。だから…」


まだ少しピリピリしてるのか、ユウスケさんが低い声で先を促す。恐いよぉ。


「料理対決なんてどうかしら?」


それを聞いて、今度こそお茶を盛大にぼしながらユウスケさんは椅子ごと思い切りひっくり返った。




「よくわからんが、戦闘にならなくて助かった…。肉類禁止で基本この辺りにあるものだけだと、サラダか…炒め物。いやパスタもいけるか」


料理対決か、二人共何を作るんだろう。毒気を抜かれ、さらには料理のレシピを考えてくると言って、ユウスケさんは家を出て辺りに材料を探しに行った。しかし、H.Dさんもマイペースというか、揺らがないなぁ。


「なんかすいません。姉が迷惑かけて…」

「大丈夫よ、カップも割れてないし。お皿は木製のものにしておこうかしらね」


その方がよさそう。でもなんで料理対決なのか尋ねたら、夕飯のおかずが増えるしお客様がいるのに楽しまなくちゃね、とマイペースだ。でもさっきの会話幾つか気になる。


「さっき王…って言ってましたが、王様がどこかにいらっしゃるのですか?」

「あら?ユウスケ君から聞いてないの? あなた達が分離したきっかけ作った人よ。まぁ正確には人じゃないけどね。勿論私も」


確かユウスケさんがこっちに来る前に最後に何かあった辺りの話かな。


「ある程度力を付けると変身出来るのよ、人間の姿に。これ以上は内緒。王は封印されて長かったからね。また色々別格なんだけど。ともかく、あの子を支えてあげてね。二つに分かれてしまったのは私達も想定外だったけど、中々うまくやってるみたいじゃない?」

「はぁ…私が支えられてますよいつも」


良く分からないけど、私の事もよく知ってるみたい。


「他の人には見せない姿を見せるだけでも、甘えてくれているのかもね。とりあえず私も料理作りにかかろうかしら」


話しは終わりとばかりに、私を残してH.Dさんはエプロンを付けてキッチンに向かった。




「お肉は駄目、魚も釣れるかは微妙。キノコやハーブのパスタか…うーん」


俺はぶつぶつ口には出していたが、頭の中ではさっきの事をずっと考えていた。あの物言いは明らかに全部知っているな。知った上で楽しんでる。私達と言ったが、門はみんな守りに入られてる可能性が高いな。一人ずつでも、あの時のあのレベルがまともに襲って来たらまず勝てる気はしない。コンスケを残してきてしまったけど、戦闘する気には見えなかったから恐らく平気だろう。いざとなればきちゅねもいるしな。


ハーブ等を見て、反射的に料理の事を考えながも、いつの間にかハーブの花畑を越えて、ラベンダーが固まって育っている辺りに来ていた。この身体で嗅覚が上がっているから、あまり長居すると鼻が麻痺しそうな濃い香りだ。そういえばあのH.Dもラベンダーの香りが一番強かった。ふと気付くと畑の端に墓標が立っていた。【L.D】とだけ書いてある。H.Dの家族のものかな、お邪魔しております。と、そのちょっと先に落ちていた物。これは…。


「勝ったな」


俺は勝利を確信した。




「さて、そろそろいいかしら?」

「いつでもいいぜ」


あれから少しして戻ってきたユウスケさんは、H.Dさんと一緒にキッチンに入っていった。H.Dさんは猛然と小麦粉を捏ねた後に、えぐる様にうつべし!とか言いながら、凄い勢いでボウルに小麦粉を練った物を叩きつけてた。パンでも作ってたのかな。そしてその完成品が目の前に。


「私はこれよ!」


自信満々のH.Dさんが作っていたのはピザだった。ルッコラやバジル等の香草に、チーズがたっぷりと乗っている。採れ立て新鮮のシャキっとしたハーブに、自家製のチーズの香りが一緒に漂ってきて思わず香りだけでもヨダレが垂れてくる。


「俺はこれだ!」


ユウスケさんが高いテンションと大仰な身振りでテーブルの上に置いたのはパスタだ。丁寧に刻んだニンニクをベースにしつつ、刻んだバジルをオリーブオイルで和えて爽やかなソースとして上からかけている。松の実とキノコがパスタを爽やかに彩る。


いつの間にか審査員にされた私を羨ましそうにきちゅねさんが見ている。後で分けたげよう。そもそもこれは明らかに4人用の量がある。私一人で食べきれるわけがないから、終わったらみんなで御飯だ。さて、どちらも一口、二口程食べ比べて結果を出さないと。もぐもぐ…これは、どっちも美味しい。私の顔を二人が緊張して見詰める。


「どちらも美味しかったですが…パスタの勝ちです!」

「よっしゃぁ!」

「負けちゃったかぁ。あらら残念。決め手は何だったのかしら」


ピザも勿論美味しかったんだけど、初めて食べた松の実の香ばしさが全体の味を引き上げていたパスタが、食べ終わった後に、口の中でいい具合に主張していたのです。風味が香ばしくて、幸せになれたのが一番かな。


「なるほどね。あの限定状態でよく松の実を使う発想に至ったわね」

「滝から流れて打ち上げられていたのをたまたま見付けたから、これは使わねばならないと。H.Dさんの鮮度を活かしたピザも、美味しそうだよ。これは勝てたのが不思議なレベルだ。さすがハーブ職人」

「いえいえ、地の利が私にあったというのに、ここまでやれるとは思ってなかったわ。やるわね」


お互いに褒めあい、高め合い、熱く握手を交わす二人。ここに何やら友情が芽生えたみたい。よいことです。取り皿を持ってきて早速皆で仲良く美味しく料理を頂く。うん、これはどっちもやっぱり美味しい。二人とも、またお互いを褒め合ってる。食後に入れたハーブティーを飲みながらも料理の細かい話にまで発展してる。何か次元が違う…。


「あぁそうそう、これを渡しとくわね」


ポンと手を叩くと、H.Dさんがユウスケさんに手の平大の薄い板みたいな物を渡した。角度によって色が変わる真珠色で凄く綺麗だ。


「私の鱗だから大事にしてよね。それがあれば滝の裏にある門の所に行けるわよ」

「うろこ?」

「解った。大事にするよ。ありがとう」


何だかよく分からないけど、二人にはお互い分かる物みたい。


「洗い物は私がするから、お腹落ち着いたら行ってきなさいな~。うちに泊っても構わないけど、今日中に帰った方が都合いいんでしょ?」

「あぁそうだった、すっかり寛いでたわ。ありがとうございます」

「うちのお店にも、その内いらして下さいね。美味しい物たくさんありますよー」

「コンコン」


申し出をありがたく受け入れ、お茶を飲み干してから、早速行ってみる事にした。

ハードディスクやレーザーディスクじゃないですよ~。

ユウスケが作ったのがジェノベーゼ。

H.Dさんが作ったのはハーブピザかな。

どちらもうちで作った事があるものを出しています。

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