ホームシック
佐竹の会社は、いわゆる人材派遣業を営む会社であって、まっとうな仕事も請け負っている。会社の定款には、きちんと『労働者派遣事業』と書かれてあるし、登録されている派遣社員は女性を主体に多いときは五十人くらいにのぼる。
しかし、派遣社員を受け入れる依頼先がややコワイ団体さんに偏っているため、普通の労働者ではなく、女性としての特殊技能をもった労働者の派遣を求められることが多い。
家出少女というのは、他人との関係やしがらみが一切ないという点で、女性としての特殊技能を身につけさせるにはうってつけであった。
華月は佐竹の会社に住み込みで働かせてもらうことになった。当初は経理的な仕事が中心だった。会社に慣れてくるに従って、佐竹は華月を商品として見るようになっていき、しばしば『女』を売ってみないかと話をもちかけた。
華月にとっては自分を拾ってくれた恩人の佐竹の言葉ではあったが、このことに対しては徹底して『ごめんなさい、ごめんなさい』の一点張りで、安月給でも目の前の売春行為に身を染めようとはしなかった。
もしも権三郎がいなかったら、そうでなかったかもしれない。
華月はまだ十六歳。
権三郎は二八歳。
年は一回り、十二歳離れており、権三郎は華月をまだ一人の女性として考えていなかったようだが、華月は明らかに恋愛感情の対象として権三郎をみていた。少なくとも権三郎に知られるようなところでは、どうしても他の男性に抱かれるわけにはいかなかったのだ。
◆◇◆
華月は、初めて実家以外の遠く離れた地で年を越した。激しいホームシックが華月の心を襲い、年が明けてから数日間彼女は意味もなく泣き続けた。そして、何通も何通も故郷の実家へ手紙を書いては送った。
しかし、両親からの返信はすべて佐竹の手によって破り捨てられた。佐竹はそのことを華月へ話し、厳しい言葉を付け加えた。
「今が一番寂しく苦しい時期なんだ。君が社会で自立していくためには、両親の言葉にすがっていてはいけない」
さらに言った。
「一個の女性が自立するということは、『女』としての喜びを知るということだ」
そしてその日華月は『女』になった。
彼女を女にした最初の男は当然のこと、佐竹であったが、そのあと自称支店長代理の男、同支店長、社長の個人的仲間であり派遣先の団体客の四名の男たちがこれに次々と続き、儀式のような宴は明け方近くまで繰り広げられた。
華月は失神しそうになるのを何度もぐっとこらえながら、女が一人で生きていくことの実感を確かめようとしていた。