ようし、見てなさいよ!
このような場合、だまされて納得がいかないとか、許せないとか、そういった恨み感情が表にでてくるのが普通である。従前の愛情が深ければ深いほどそれが大きな憎しみとなって裏返しに強烈にあらわれてくるものだ。
華月の場合はどうであったか。
田舎者でテンネンの彼女は、全く普通でない感情に支配されていた。
――ようし、奥さんから権三郎さんを奪い取ってやろう。こちとら花も盛りの『ぴっちぴち』十七歳だ。三十路おばさんに勝ち目はないよ。バーカ!
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ええ?
まったくもって普通でない。
主人公がこうでは筆者はまともな話を続けて書くことなどできない。
ええい! もう、どうにでも勝手にしろ!
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◇◆◇
千葉県M市の勝野権三郎の住所のもとへ、一通の書簡が届けられた。差出人は、『佐竹コーポレーション 社長 佐竹源治』。
権三郎は美しく整った顔でにやりと笑った。
――佐竹さんよう。百万くらいのはした金でこっちを脅してくるとは、あんたもとうとう焼きが回ったねえ。
――しかも、気色の悪い少女文字だよ。どうやらあんたを見損なっていたようだぜ。はっははは。
封筒を開けてみて権三郎はぎょっとした。
『権三郎さ〜ん。お元気? 私。華月よおん。お金返してくれなくていいから、あなたのお嫁さんにしてえ。私、今、想像妊娠中よ〜ん。あれ? 産まれるかも。やっだー。うう。ううう。うううう。』
「…………」
――ううううって。なっ、なんだ。こいつ……。
一枚便箋をめくると、そこには続きの文章が書かれていた。
『あーあ。産まれちゃったみたい。ああ、そうそう。秀美ちゃんによろしく伝えておいてね。じゃあ、まったねー!!【華】』
権三郎は美しく整った顔を歪めた。怖いものなしの一流詐欺師権三郎も、予想を覆す手紙の内容に一瞬背中がぞくっとした。
――こいつ、ここまで頭おかしかったか?