第25話・戦争を起こす話
ここはかつて鬼族が住んでいた領地。その中でも王国に近い場所である。
「ふむ、派手にやっておるの」
軍隊と言うものはよく食べる。古今東西、軍隊を動かすのは略奪である。
王国の目の鼻の先であるこの場所でも帝国は略奪行為を働いていた。彼らの言い分は奴隷の選別であるが……
労働力として使えない女子供は先に痛めつけ、犯し、殺す
――より非道になっている。
「アシュに見せたら狂乱しかねんな。それで数人切って、王国にこいつらを誘導するって話だったな」
「それでは生ぬるい。全滅させ、司令官を生け捕りにする」
「おいオキナ、案外血が頭に登りやすい質か?」
フレットは無謀な提案をしたオキナを静止しようとする。しかし、それに許可を与えたのはリアリスだった。
「あはは、良いよ、良いよ。派手にやってくれたまえ」
ちなみにリアリスは普段の猫の姿ではなく、八の足を持つ馬、スレイプニルに形を変えていた。
全ての名馬の祖と言われる魔獣である。
この魔獣の背にオキナとフレットを乗せここまで走ってきたのだった。
「良いのかよ!」
常識的に考えるなら、奇襲ならともかくこの数相手に無事なはずがない
「あれがこの程度の兵士にやられる? それは人類最強をなめ過ぎじゃないかな?」
リアリスが使ったオキナを作るために使ったリソースはおよそ、ダンジョン400年分。
それはドラゴンの最強種を20体は作り出せる計算であった。
敵の兵士はざっと100に満たない。
オキナは王国の紋章の入った赤い軍服を身にまとい、ゆらりとその村に侵入する。
フレットは慌ててその後を追う。
本来彼らを止めるはずの帝国兵は、次々と切り倒され絶命していった。
散歩のようなゆっくりとした足取りで、帝国軍の旗の多くはためく場所に近づいていくオキナ。
無論、異常に気がつく帝国兵たち、彼らは近づけば切られ、銃撃は避けられて切られ、数を減らした。
フレットも兵士を切りながらオキナに続く。
「おい、敵が集まり始めたぞ。流石にやべぇんじゃねぇか?」
集団戦の心得がないフレットには状況が悪化していると感じていた。
「数が足りんな。儂を倒すには、後1000は必要だと進言しておこう」
集団射撃は並んでの白兵戦には強いが乱戦にはめっぽう弱い。乱れて戦うと数の優位がなくなるからだ。
オキナは基本に忠実に、相手の懐に飛び込み一人ずつ順に切り結んでいく。フレットも一瞬遅れたが、オキナに習って敵陣に突っ込んで行った。
こうなると混乱により軍は烏合の衆に成り下がる。
オキナは逃げる者は追わず、近づく者だけ切っていった。
「はぁ、なるほどな。雑談はこういう時の練習ってわけか」
フレットは近づく兵と切結びながら、オキナの戦いぶりに感心した。
戦場では一人に必勝すれば勝てると言うものではない。複数の相手をしなければならないし、奇襲や遠距離攻撃が飛んでくる。
多人数に殺されるのを防ぐには「余裕」を増やすしかない。余裕の有無こそ生き残るための戦術なのだと理解した。
ちなみにリアリスはスレイプニルの姿で森の中に身を潜めながら(ちんたらしてる、やっぱり人間は遅いな)とか考えている。所詮人外である。
オキナがあらかた兵を倒し終え、天幕の中に入っていく。
フレットは初めての戦場で生き残った事に安堵した。
オキナは旗をなぎ倒し、司令官と思わしき人間の男を捉えた。
あとは逃げた者が他の部隊に連絡し、事態は大きく動くだろう。
「あ、あの!? 助けて頂けたので?」
鬼族の年老いた老人が勇気を振り絞って訪ねてきた。
周りは帝国軍の死体だらけで、近寄ったら自分たちも切られるという恐怖があった。
しかし、鬼族は義理や人情を大切にする。
彼らは助けられた恩を仇で返すわけには行かないのだ。
「ふむ、見殺しにするのは後味が悪いな。戦える者は戦えない者を守り、西に逃げよ。王国まで逃げきれば命は助かるやもしれん」
オキナは堂々と宣言した。
それを契機に、村の鬼族たちは集団で王国に移動を始めた。
「はぁ、こんなに鬼族集めたら、私もテールにどやされるじゃん。なにかに使えないか考えておかないと」
リアリスが大きくため息をつく。
助けたことより、アシュと同類と思われるのが嫌なのだろう。
「お前が安易に許可出したからじゃね?」
フレットはリアリスの責任を軽く突きながら笑い声を上げた。
◆◆◆
「そうですか……多分最も早い伝達ですわね」
テールがリアリスと真面目な話をしている。
嫌な予感はあった。フレットとオキナは少し前からいなかったし、へラード君が王城に呼び出しをされる頻度も増えた。
社交会で最近の噂は聞いている。
ただそれでもその報告に僕は心臓が止まりそうなほど驚いた。
「……アシュ、戦争が始まりますわ」
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