9.偶然と必然
自転車を漕ぎ出してすぐに、右往左往している女子高生を見つけることができた。
なんだか可愛いのでしばらく見ていたかったけれど。
「福原っ!」
声をかけると、福原はこちらを振り返り、俺だとわかるとホッとした表情になった。
「送っていくよ。まだこんなところにいたんだ」
「うん、ちょっと迷っちゃって」
「あー、そっか。わかりづらいよな。案内するよ」
駅まではすぐ着くけれど、所々わかりづらい場所があり、間違えると逆方向へ進んでしまうんだ。
「ありがと。買い物に行くんだっけ?」
「ああ。晩飯と、明日の朝食。母さんは仕事が忙しくて家事に手が回らないから、基本は惣菜とか弁当を買ってるんだ。去年までは、じいちゃんがいたんだけどな……」
じいちゃんと囲んだ食卓、楽しかったな。
駅前のスーパーまで来た。ここまで来たら大丈夫だろう。
「あ、そこのスーパーに行くから」
「じゃあね」と言おうとすると、福原が思ってもみなかった提案をしてくれた。
「あのさ……今度またって言ったけど、明日も、お弁当作ってこようか?」
心の中で、バンザイして走り回っている奴がいるけれど、そこまでは甘えられないだろう。
「えっ? あ、でも悪いよ」
「大丈夫。一個作るのも二個作るのも、手間は変わらないから。……じゃあ、また明日ね!」
と言って、とびきりの笑顔をくれて、手を振って去っていった。
あんなに美味い弁当を、また食えるなんて……。
嬉しすぎて、買い物をするのを忘れて帰ってしまった。
お弁当をさっき食べたから、カップラーメンでいいやと思ったけれど、ティッシュはいるか。
もう一度、買い物に出るハメになりました。
ーーーーーーーーー
次の日。居ても立ってもいられない俺は、一度駅へ行ってから学校へ行くことにした。
『偶然』福原に会えればそれでいいし。会えなくても、まあ席は隣なんだし問題ない。
ただ、あの笑顔をいち早くもう一度見たかったんだよ。
じっとしていたら待っていたみたいだし……と思ってウロウロしていたら、駅から彼女の姿が現れた。
「あ、福原。偶然だな」
偶然だよな? 駅に来たらいた、って体で。でも、声が弾んじゃっているのが自分でも分かる……。
「おはよう。どうしたの?」
「あの、その、それ……」
照れすぎて、喋れなくなっているな……。偶然じゃないのがバレバレっぽいよ。
弁当が目当て。
美味しい弁当が欲しいだけ……。
よし、大丈夫。
「あ、お弁当? うん、作ってきたよ」
「重たいだろうから、持つよ」
よし、お弁当ゲットだぜ……。
「ありがとう。助かるよ」
「いや。……昼休みが楽しみだな」
今日はおかず、何を入れてくれたんだろう。卵焼きが食べたいけれど……。
駅から学校までは、歩いて十分程度。
自転車を押し、歩きながら話した。
彼女は早口で『機動戦記ガムダン』の話題を繰り広げている……。
プラモを作るのに、「見たことある」程度の知識だと太刀打ちできん。
でも、普段無口なのにこんなに話すんだな。すごくカワイイ……。
「あ、もう着いちゃったね」
「うん。歩いても全然短いな」
学校までが短く感じるなんて。楽しかったってことだろう。
「いつも学食だから、昼が楽しみだよ」
「えー、あまり期待しないでほしいな」
とか言い合いながら、ウチは母子家庭だけれど母親が家事できなくて、去年までじいちゃんに育ててもらっていたことなんかを話した。
「だから、涙が出るほど感謝してるんだ」
「もう。大袈裟だよ。これで不味かったらガッカリさせちゃうね」
昨日の弁当を見る限り、大丈夫。というか、本当に楽しみだ。
学校へ着くと、すぐに声がかかった。
「フジいー! どういうことかな?」
「ちょっと、来ーい!」
例の『同盟』の奴らに呼び出された。登校時に福原と一緒に来たのを見られていたのか。
「い、いや。偶然駅で会ったから……」
そのための「偶然」を装っていたんだが……。
「あのさ、俺たちは福原瑛里不可侵同盟なの。分かる?」
「そうだぞ。一緒に登下校するなんざ言語道断!」
「で、何で一緒に来たんだよ」
廊下に連れ出されて三人に突っかかられた。
「あのさ。そもそも俺は、そんな変な同盟に入った覚えはないんだが」
今回はそう言って済ませたが、このままでは昼に弁当にありつけない。
福原に聞くと、いつもは人のいない中庭で昼を食べているらしい。先に行っていてもらい、同盟の奴らと話をつけた。
同盟の奴ら、俺が福原と話しただけで気に入らないらしい。
「俺ら同盟の許可なく話すんじゃねぇ!」
「抜け駆けは許さないって決めたんだろ!」
「お前、白川優香推しなんだろ!」
隣の席なんだし、成り行きで話すようになっただけだと説明しても納得しない。
「とにかく福原とは、そんなんじゃないから安心しろ!」
そう吐き捨てて立ち去ろうとしたら、奴らは「交渉」を求めてきた。
瑛里の好きなタイプや趣味など、情報の提供に協力しろ、と。
「まあ、それくらいなら……」と言いかけたところで、「よし、交渉成立だ! お前も立派な同盟員だ!」と勝手に話をまとめられた。
「……それは嫌だな」
同盟員になるのだけは、キッパリお断りだけどな。
ああ、面倒くさ……。
でも、お弁当はいただく。
あと、アトリエでのプラモ作りも楽しかったから続行だ。
同盟の奴らに約束したことも忘れ、中庭へ急ぐ足取りは軽やかだった。
同盟のスパイ?
俺が情報を流したばかりに瑛里が⋯。
ってならんようにしようね。




