8.プラモ作り
腹ごしらえも終わった。
本当は、このお弁当は、お昼に食べて欲しかったけど、バタバタして渡せなかったそうだ。
危うくこんなに美味い弁当が、食べられない所だったよ。
福原さんを見ていると、プラモの箱を興味深そうに観察した後、箱を開けて中身を取り出した。
丁寧に、取説とランナーを取り出して確認している。
ニッパーは最低限いるだろうな……なんて思っていたら、福原さんがランナーからパーツを無理やり引きちぎろうとしていた。
「あ、ちょっと待って。無理に取らないほうがいい」
跡が残って、目立っちゃうからな。
「え? あ、ごめん。どうすればいい?」
ニッパーは確か……この引き出しに入っていたはず。あ、あった。
「これ使っていいよ」
「これは?」
「ニッパーだよ。……ちょっと貸してみ」
まずは、ランナーを少し残して切って、それからちゃんとしたところで切る。そうすると跡が残りにくいんだ。
「こうやって少し離して切ってから、残った部分を平らに落とすんだよ」
「へぇー……すごい。綺麗に取れるんだね」
「そんなことで……。福原もやってみな」
……あ、褒められて、つい呼び捨てにしちゃったけれど。
言われた通りにパーツを切り出していく福原さんを見て、問題なさそうだなと思った。
「コイツ、切れるぞ……」
独り言のようにつぶやいている。
後でわかったんだけれど、実際には「コイツ、動くぞ」と言いたかったらしい。よくわからんが……。
「おー、上手い上手い」
「やった」
嬉しそうな顔をしてこっちを見て、
「あ、でも藤井くん。人は本当のことは二回言わないって言うよ。上手い上手いって、二回言ったな」
「……。いや、昔から大切なことは二回言うって言うじゃん?」
たしかに、特に「上手い」と意識せずに二回重ねて言っていたかもしれない。
「じゃあ、そういうことにしておいてあげよう」
福原が笑う。普段のツンとした顔も悪くないが、この笑顔は破壊力抜群で……。
楽しい。とにかく、楽しいよ。
「これ、どうやるの……?」
ちょっとハメるのが硬いところだな。俺は思わず手を出してしまった。
「それは、こうだね」
「あ、ありがと。できたね」
ちょっと手が触れちゃった。それは柔らかくて……。
それから、どれくらい時間が経っただろうか。
「いっこ、できた……!」
組み上がった胴体のパーツを見て、福原はとびきりの笑顔を見せてくれた。
「すごいな……接着剤なしでここまでできるなんて」
接着剤って⋯。旧キットとか古い設計のプラモデルくらいしかいらないよ。
コーン、コーン……。
奥の部屋から、時計の鐘の音が聞こえてきた。
「あ、もう七時……!」
時間が経つのが早い。久々にプラモに触れて嬉しかったのか、それともこの子と一緒の時間が楽しかったのか……。
「あ、じいちゃんが七時に飯を食ってたから、その合図なんだ」
「私、もう帰らなきゃ。……まだ全然途中だけど」
「いいよ。置いておくから、また来ればいいさ」
「……じゃあ、明日も、来ていい?」
「うん。明日ね!」
彼女が帰った後、俺は一人で余韻に浸っていた。
『福原』って、呼び捨てしちゃったな。
お弁当、めっちゃ美味かったよな。
俺のニッパーを使ってくれたよな。
髪をかき上げる仕草、良かったな。
……指先、触れたよな。
触れた指先の柔らかい感触を思い出すと、込み上げるものがある。
……。
今日は、早かったな。捗りました。
賢者が蘇生すると、ゴミ箱の残骸を見て、ちょっと自己嫌悪になる。
落ち着け。俺はそんな下心だけの人間じゃないはず……。
困ってそうだったから手伝った。喜んでくれたから、俺も嬉しかった。それだけのはずだ。
『明日も、来ていい?』
……あぁ、もう! 思い出すだけで心臓に悪い。ドキドキと鼓動が早くなる。賢者がダメージを受けているよ。
というより。明日も来てくれることが、そんなに嬉しいのか?
手を洗いながら考える。あ、そういえば彼女、駅までの道はわかるかな。
晩飯と、明日の朝飯。それから……ティッシュも買いに行かないとな。
そう思ったら、もう自転車を漕ぎ出していた。
賢者のHPは1なので、ダメージを受けた時点で、瑛祐の瑛祐は復活擦るだが⋯。
今回は、理性が勝ったのか。瑛里ちゃんに会いたかったのか⋯。
こ、これが若さか⋯。




