4.約束
福原さんが、隣の席の俺の名前が曖昧だと⋯。
……と。それはおいておいて。
残念だけど、プラモは譲ろう。まだプラモ作り再開は早いということだろう。
じいちゃんがいない生活にもう少し慣れてから……じいちゃんのことを懐かしく思えたら、また作れるさ。今日は、ここに来られただけで良しとしよう。
「福原さん、シア専……あ、どうぞ。俺はいいから」
けど、主人公機のガムダンじゃなくて、公国軍側のプラモを選ぶなんて渋いよ。
「え、いや。買うつもりじゃなかったから、いいよ」
……買うつもりなかった、だと。
その割には、笑顔で愛おしそうにプラモの箱をじっと見ている。そんなに欲しいのか。
「これ、転売ヤーの餌食になってなかなか手に入らないからさ。俺はいいから、福原さんが買いなよ」
貴重な商品だ。もしかしたら店をハシゴして探していたのかもしれない。
「それじゃあ、なおさら私じゃなくて藤井くんが買ったほうがいいよ」
気を使っているのか……?
あ、じゃあこうしよう。俺は、隣にあった緑色のノーマルザフを手に取って答えた。
「いや、俺はこっちで問題ないから。……塗ればいいし」
「えっ、塗る?」
あれ? なんか食いついてきた?
「でも、ツノみたいなやつもついてないよ?」
「ツノ? あ、指揮官機用アンテナのことかな。それくらいなら大丈夫。自作できるから」
「じ、自作……? 武器とかバズーカは?」
可愛い顔の可愛い声で「バズーカ」と発音されると、何か違うアクセサリーのようにも聞こえる。
「元々、マシンガンを改良して装備させるつもりだったから、これで大丈夫」
適当に言ったんだけど、元々じいちゃんの瑛スペシャルは、マシンガンを改造した武器だからね。
「藤井くん、もしかしてプラモ、めちゃくちゃ上手いの?」
プラモ作りに上手いも下手もないと思うけれど、自信はある。
「いや、じいちゃんがプロのモデラーだったんだ。俺は、その道具を形見分けしてもらっただけで……」
そうだよ。今日は、形見の道具を見ていて懐かしくなったんだった。別に買わなくてもいい。
「……ねぇ、どうしようか?」
「え?」
どうしようか、とは?
首をかしげる仕草も可愛らしく思う。こんな子にそんなふうに言われたら、男なら何でも言うことを聞いてしまうだろう。
「あの……中身を見てみたいし、作り方も教えてほしいんだけど。でも、家には持って帰れなくて。……私が買うから、藤井くんが預かってくれないかな? その……良かったらなんだけど、作り方教えてもらっても良い?」
俺も男だからな。言うことは聞いてしまう。
それに、今までじいちゃんと培ってきたプラモ作りが役に立つなら、じいちゃんも喜ぶんじゃないかと思う。
「いいよ。じいちゃんのアトリエがあるから。設備も道具も揃ってるし……これから来る?」
この時は何気なく言ったけれど、よく考えたら、女の子を家に誘っていた。……なんだか恥ずかしくなってきた。
「えっ、アトリエ!? ……あ、でも今日は弟の誕生日だから……Dモンカードを買わなきゃいけなくて。どこに売ってるんだろ?」
Dモンカード?
もう一つの俺の特技じゃねえか……。
小学生の時の黒歴史だけど、情報は今だチェックしたりしてる。たまに新デッキ組みたくなって買うこともあるし。
店の中を見渡すと、売り場はすぐにわかった。
「Dモンカードならあっちだよ。付き合うよ」
と言って歩き出した。「付き合う」って自分で言って、一瞬ドギマギしてしまったけれど、カード選びに付き合うだけだからな。
なんか、さっきから調子が狂う。
ただ、Dモンカードについては、カードバトルで日本一にもなったことがある実力者なんだ。何でも聞いてくれ。
「今は、このパックが人気なんだ。予算が千円なら、五パックくらい混ぜてあげれば喜ぶと思うよ」
「詳しいんだね。ありがとう」
弾けるような笑顔。こ、これは……。
胸の奥が熱くなるのを感じる。
「本当にありがとう。これ、よろしくね」
「うん、預かっとくよ。また明日、学校で」
また明日……か。
あんな可愛い子と明日の約束をするなんて……。
じいちゃんが死んでから、周りが何かモノトーンのようにも感じていたけれど、なんだかカラフルな世界が戻ってきたような気がしてきた。
再びじいちゃんの理想を掲げるために、真のプラモ制作のために、アトリエよ、瑛祐は帰ってきた。
これから頑張ろ。




