34.夏祭り
夏祭り当日。
付き合い始めた男女がその仲を進展させるイベント。それが夏祭りだ。
だがしかし、今回の夏祭りは違う……。株式会社Kaedeにとっては、ここが「戦場」なのだから。
生まれて初めて彼女ができて浮かれている息子をも利用して……。そして、めちゃくちゃ気に入ってしまった息子の初の彼女すら利用して……。
「絶対に成功させるわよ!」
……。母さん、完全に仕事モードだ。楓さんの気合いが半端ない。
祭り当日。
俺はノートPCを持ち込んで、事務仕事に追われていた。
試着に来た女の子からアンケート用紙を受け取り、SNSに載せる際の注意点を説明する。情報をPCに入力し、提供してもらった写真をKaedeのSNSにアップして実況宣伝……。
今日の最初の投稿は、浴衣姿の瑛里と平川のツーショット。文句なしに、めちゃくちゃ可愛い。
……それにしても、忙しいな。と思ってると。
「瑛祐君、休憩取りなよ」
Kaedeの社員の方が代わってくれた。
休憩所に向かおうとすると、外がなんだか騒がしい。
瑛里が看板を持って立っていると言っていた場所だ。
大丈夫かな?瑛里たち、 可愛いから変な奴に絡まれたりしていないだろうな。
そこへ、瑛里が休憩所に入ってきた。
「瑛里! 何かあったのか? 外が騒がしかったけど……って、あ!」
後ろから、佐伯が平川をお姫様抱っこして現れた。
なんでも瑛里と平川がナンパに遭い、強引に連れて行かれそうになった所を佐伯が助けたらしい。
「ちょっとあったけど大丈夫。佐伯くんが来てくれたから。……瑛祐くん、今度あれやってみてね!」
やりたい。瑛里を抱っこしたい。けど、今の俺には筋肉が足りないかも。
「おぉ……頑張るよ!」
「ウソウソ。私重いからダメだよ。冗談」
「いや……瑛里は軽いから。今度やらせてください」
「ん〜。どうしよっかな〜」
なんて笑い合っているのを見ると、大したことなかったのかなと思えた。
「ありがとな」
俺は佐伯に礼を言った。
中学の時、不良相手に大立ち回りを演じたこともある男だ。度胸もあるし、何より強い。
付いたあだ名が「100人斬りの亮」。
大概だな。俺なんて「瞬殺の魔術師」だし……。
変な二つ名って、誰が付けるんだろうね。
Kaedeのイベントは、準備していた分が無事完売になり、幕を閉じた。
だが、完売したからこそ裏方は大変だ。ブースの撤去に、展示の片付け。仕事はこれからが本番である。
普段から『プリズム』の編集を手伝っている瑛里も、当然のように駆り出されていた。
「ここ終わったら、あなたたちは、お祭りに行ってきてもいいわよ」
「あ、でも楓さん。撤去が大変なんじゃ……」
「そうね。じゃあ花火が終わったら戻ってきてくれると助かるわ」
お祭りに瑛里と行ける。
自然と顔がニヤけてしまう。隣を見ると、笑顔の瑛里と目が合った。
「「はい!」」
花火が終わるまで、あと2時間くらいか。
あんまり楽しめないかな……なんて思っていたけれど。
「あ、瑛祐くん。焼きそば食べよ。たこ焼きのほうが良い?」
瑛里に手を引かれて屋台へ向かう。
「うーん。どっちもいこう。バイト代もらったし」
瑛里の右手に焼きそば、左手にたこ焼き。俺はリンゴ飴と焼きもろこしを持たせられた。
これじゃあ、手が繋げない。
「……一旦食べようか?」
「……うん」
ベンチに座って頬張る。
「美味しいね」
屋台の味付けなんて、実際はそこそこだろう。でも、本当においしい。料理って味だけじゃないんだなと実感する。
「ウマいけど⋯。俺はやっぱり瑛里のご飯の方が良いけどね」
瑛里の料理は別格だ。もはや俺のソウルフードと言ってもいい。
「次何する?」
「まあ、瑛里と一緒ならなんでも良いけどね」
「じゃあ、お化け屋敷かな」
は……!
「マジか。そんなのあるのか?」
「冗談だよ、ごめんね」
「なんだよ〜。その冗談はシャレにならんから……」
「でも、私に抱きつけるチャンスだよ!」
そう言って笑い合う。でも、君を抱けるなら、俺は頑張る……。
「ま、そんな事なしに抱きついてくれても良いんだけどね」
瑛里が小声で呟いた。
「ん? なんか言った?」
「なにも〜」
……ちゃんと聞こえたよ。俺に少しだけ勇気をくれ…。
「金魚すくいしよ?」
「じゃあ瑛里、やってみなよ」
だが、彼女は一発でポイを破いていた。このコ、思い切りだけはいいんだよな。
「お嬢さん。可愛いから一匹サービスだよ。どれでも選んで」
おい、おっさん。瑛里に色目を使うんじゃない。
「え、じゃあ……これ」
当然のように赤い金魚を選ぶ。ブレない瑛里が可愛い。
「あ、でも持って帰れないか……」
「大丈夫だよ。俺も昔持って帰って、じいちゃんに飼ってもらったから。水槽ならあるよ」
小学校低学年の頃の話だ……。
ドン、ドーン。
「花火が始まったみたいだね」
広場からは大きな花火がよく見えた。
「きれいだね」
「うん」
瑛里が頷く。
ここは「花火より君がキレイ」とか言いたいところだけど……。
ドーン。ドドドド。
二人無言で花火を見上げる。
不思議な時間だ。でも、同じ時を生きているという実感が湧いてくる。
ここでキスしたりできるかな……。
でもな。実際には手を繋ぐので精一杯だ。キスだって、あの日コツっとしたのが一回だけ。
繋いだ手の先を辿っていく。自分の一部のような感覚だが、その先には腕、肩、そして顔がある。
花火に照らされた君の横顔を見ていた。花火じゃなくて、ずっと瑛里を見ていたかった。
「瑛里。俺は、やっぱりどうしようも無く君が好きだ」
「ん……?」
言葉が花火の音にかき消されていく。聞こえなかったのかな、と思ったら、瑛里が耳元に顔を近づけてきて。
「大好きだよ!」
確かに、そう聞こえた。
一旦、次で完結にします。
実験的に書いた話ではありますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
最終話を明日か明後日に投稿しますので、よろしくお願いします!




