32.夏だ。プールだ。水着だ。
塗料とか接着剤の消耗品を買いに行った帰りだった。
昼はプラモの直し作業していて、気付いたら夜になっていた。
「あ、藤井君じゃん」
振り返ると、平川ゆかりと佐伯亮介がいた。
クラスメイトで、瑛里と4人で勉強会をした仲である。
クラスでも瑛里と平川は比較的話している方かと思う。瑛里って、学校だと余り話さないからなぁ。
佐伯亮介は、剣道で全国行けるほどの達人で、インターハイ出場していたはずだ。
荷物を見ると試合終わりな感じ。ちょうど遠征から帰ってきた所みたいだ。
「佐伯⋯」
佐伯には、瑛里を取られるかと思って警戒したりしたけど、実は応援してくれていた。いいヤツだった。
小学校の時からの付き合いだけど、中学の時からあまり話さなくなった。
俺は、その頃じいちゃんからプラモ作り教えてもらうのが楽しくて⋯。
佐伯も剣道に本格的に打ち込むようになってたし⋯。
「おう。ベスト8までいけたぜ」
「凄いな⋯」
「今度、打ち上げっていうか、ゆかりとプール行こうって言ってるんだが、福原とお前誘おうかって話してたんだよ」
「プール?⋯行かないよ」
即答したら、肩に手を回して、佐伯が小声で言ってきた。
「プールだぜ。水着だぜ。お前、福原の水着姿、見たくないのかよ」
……見たい。
が、コイツには見せたくない⋯。
「俺にはゆかりがいるからな。ってか、ゆかりの水着姿もみたいだろ」
平川ゆかり⋯。
可愛いし、胸も瑛里よりありそうだし⋯。
……じゃない。俺には瑛里が⋯。
ちょっと前に、サービスサービスとか言って太もも見せてくれた記憶がよみがえる。
「それにな。お前とまたつるみたいんだよ。前みたいに」
佐伯と俺は、Dモンカードバトルで、雑誌とかに載ったこともあるくらい、昔はよく遊んでいた。
AR対決なんて言われたりね。
懐かしいし、俺もコイツの事、嫌いじゃない。
友達に戻れるなら戻りたい。
じゃあ、行くか。
決して瑛里の水着姿が見たいからじゃない⋯。
⋯あの太ももがまた見れる!
⋯違うって。
「藤井君。ちょっと携帯貸して」
平川ゆかりが、俺の携帯をひょいと取って、何やら入力している…。
ID交換かなって思ったら⋯。
『瑛里もプール誘われたよな? 楽しみだね』
って勝手に瑛里にメッセージ送ってやがった。
「瑛里がね。なんだかゴニョゴニョしてたから、トドメ刺しておいた⋯」
「お前なぁ⋯」
テヘペロってされると何も言えなくなる⋯。
まぁ、似たような事送ろうと思っていたし。
佐伯もゴメンって手を合わせて言ってくれてるし。
「しょうがねえ。みんなで行くか」
「お詫びに、瑛里に似合う水着一緒に買いに行ってくるからね」
平川の笑顔。流石に学校No.1(何が?)の佐伯を落とした笑顔だよ。
えっ、瑛里に似合う水着だとう。楽しみすぎるじゃねえか⋯。
数日後。プールの最寄りの駅前で待ち合わせした。
瑛里は平川ゆかりと一緒に来た。
「昨日ねー、瑛里と水着買ってきたんだよー」
「おぉ、良いのあったのか?」
「楽しみにしておくよ〜に!」
前を歩く佐伯と平川が、話しながら歩いている。どこからどう見てもお似合いのカップルだな。
俺と瑛里の口数は少なかったけど、佐伯と平川が話す事に相槌をうったりして、2人について行った。
あの後、俺たちも適当に水着買いに行った。
その後ゲーセンに寄ったりして、昔のように遊べて楽しかった。
佐伯、全然変わってなくて、面白いヤツだった。
コイツと仲直りできたのも、瑛里のおかげかなって思ったり。
更衣室。
「藤井って、運動してないのに引き締まってるよな」
「ガリってるだけだって。そういうお前は、凄い筋肉だな」
「フン」
と力を入れると凄い⋯。剣道だけやらせておくには惜しい気がする。
「あ、そうだ。今日、夕方までで出るけど良いよな」
佐伯がそんな事を言った。今から帰ること考えるなんて⋯。まあ、でも、俺は体力保たないからな。それくらいで十分だろ。
「全然大丈夫だけど、何かあるのか?」
「いや、まぁ、そのだな。⋯ゆかりとホテル行くから」
⋯。いやよく聞こえなかったな。
「えっ?」
「いや。インターハイ頑張ったら、ヤラしてくれるって言うから。凄え頑張ったんだよ」
「⋯で、ベスト8までいったと⋯」
「おう。お互いに初めてじゃ無いんだから、まぁ、キッカケが欲しかっただけなんだけどな」
「は? 初めてじゃないだと⋯。お互いに⋯?」
ダメだコイツら、俺の理解を超えてやがる。
「ほら、中学の時、俺彼女いたじゃん」
……あの、清楚な感じのロングヘアーが似合ってたコ?
えー。という事は、あのコ、経験済だったのかー。
地味にショックだ⋯。
更衣室を出て、佐伯と中学の時の話なんかしていたら、瑛里と平川が出てきた。
「亮くん、すごい筋肉ー!」
平川が黄色い声を上げる。平川は、ビキニタイプの水着で、めっちゃ似合ってて可愛い。佐伯も答える。
「ゆかり、すごく可愛いよ」
「えー、本当に? ありがと〜」
早速手を絡めて歩き出す二人。
俺と瑛里も隣り合って後に続く。
ラッシュガードを着て、余り露出してないけど、身体のラインはわかるし、何より綺麗な御御足が⋯。
「ごめんね。もっと見たかった?」
耳元で囁かれた。何を聞いてくるんだよ。
耳まで赤くなる⋯。
見たいかって? そりゃそうだけど。それ以上は、他の男に見せたくないよ⋯。俺、脚だけで十分⋯。
「あ、いや、大丈夫。十分だから……」
とだけ、答えるのが精一杯⋯。
流れるプールで流れに身を任せたり。
波のプールでバシャバシャと水を掛け合ったり。
時には50メートルプールで、ガチの競泳対決をしてみたり。
「楽しいね」
瑛里が言うので、俺も
「うん。こんなに楽しいなんてな。来てよかったな」
なんて答えると
「うんっ」
と瑛里が笑ってくれた。超可愛い。
「瑛里ー、藤井くん! スライダー行こ!」
平川がまたとんでもない提案をしてきた。
「す、スライダー、か……」
乗り場を見上げる。た、高い⋯。
「ゆかり、私たちはいいよ」
と瑛里が言いかけた。優しいなぁ、大好きなんて思ったんだが⋯。
平川がニヤリと笑った。
「ペアで滑れるみたいだよ?」
なんだと。ペア……だと。
見ると、かなり密着した状態で滑り降りている。……これは、いい。うん、良い。
「行こう、瑛里」
瑛里は心配そうな顔をしているが、それよりも瑛里と密着できる方を俺はとる!
決意はしたものの、階段を一段登る毎に、あ、あ、あって、判断を間違えたかも⋯。
「大丈夫? 顔色悪いよ」
階段は登りきったが、意識が少し遠く感じる。
「男には、やらねばならぬ時があるんだ……」
独り言を言うと
「何それ? ハーロックか⋯懐かしいね」
?またコイツ⋯って思うと少し気が楽になった。
「…ハーロッ?なんだよ、それ。⋯じいちゃんが言ってたんだけど」
男には、やらねばならん時がある。そこで踏ん張るんだ瑛祐! ってじいちゃんの言葉だと思ってたけど⋯。
ハーロックって何…?
「次どうぞ。はい、急いで。彼氏くん、ちゃんと彼女さんを支えておいてね。はい、ゴー!」
彼氏君だって、彼女さんだって。
……なんて考えて照れる間もなく、いきなり係員さんに押され、二人の身体は重力にさらされた。
高さに怯えてドキドキする間が無かったのは助かった。
「おぉぉぉぉぉぉーーっ!!」
ドッぼーん!
密着して、瑛里を直接感じたかったのに⋯。
そんな余裕無かった⋯。
着水し、気が抜けて呆然としてプールに沈んでしまいそうになっていると、瑛里が俺を引き揚げてくれた。
「よく頑張ったね」
頭をなでなでしてくれた。
情けないけど⋯。まぁ、良いか。
「ははっ。やっぱ無理はダメだね」
それからもしばらく遊んだが、夕方が近づくにつれ疲れが出てきた。閉園時間まではまだ時間があったが、
「そろそろ上がろうか」
平川が皆に提案してきた。俺もへとへとだよ。
「うん、楽しかったー。……あ、この後どこか行くんだっけ?」
瑛里がそう言った後、少し気まずそうにしてる。
「うん。ちょっと体力を残しておかないと……ね」
ちょっと照れながら平川が言う。
「俺はまだまだ行けるけど……あ」
佐伯は、プールが楽しくて忘れかけてたが平川の意図に気づき、一瞬で顔を赤くして沈黙した。
上級者でも照れる事があるんだね!
プールを出て、駅に向かう。
「じゃあ、ここで」
そう言って、煌びやかな街の光の中に消えていく二人を、俺たちは呆然と見送った。
行き先は、あのネオン街だろう。
奴らは既に大人なんだが、コレから大人になるんだよな。
「……どこに行くか、聞いた?」
繋いだ手に少し力がこもり、瑛里が聞いてきた。
「うん……。『お前も頑張れよ』って言われた」
「わ、私たちは、まだ……いいよね?」
え? コレ、イケるの? もしかして⋯。でも、俺はヘタレで⋯。
「う、ん。まだ……だね」
「……だよね」
ホッとしたような瑛里は、
「瑛祐くん。……そういうところも好きだからね」
と続けた。どうやら正解だったみたいだ。
「うん。俺も瑛里が好きだ。だから、俺たちは俺たちのペースでやっていこうな」
ま、瑛里のペースで付き合っていこうと言ったのだし、今日は情けない所見せちゃったし⋯。
焦ることないよな。
「帰ろっか」
「うん、帰ろう」
二人で手を繋いで歩き出す。
まだ俺たちは、手を繋いでいるだけで心臓の音がバクバクとうるさい。まだ早いって事だよな⋯。




