3.それが本当の出会いだった
入学式の日に無視された?事は、もう話したと思う。
その件は、この美少女の記憶の片隅にも残っていなかったと、後で聞いた。
その後、彼女が言う「初めての出会い」まで、俺は彼女にとって空気だったのだと、今では理解できる。
俺も友達のいないクソ陰キャボッチだと自認しているけれど、彼女こそ真のボッチの才能の持ち主だった。周りの人間を空気化して、自らも空気になる。
あれだけ可愛いのに、クラスで目立っているのは白川さんや岸川さん。福原さんは「その他大勢」って感じで、とにかく目立たないんだよな。
まあ、白川優香の可愛らしさは別格だけどね。目が大きくて、髪がサラサラしてて色白で、胸も大きい....。今それは、まあいい。
そして、その家電量販店のおもちゃコーナーへ行ったのは、偶然からだった。
母親である楓さんから、
「学校も落ち着いてきただろうから、パパの工房をどうするか決めなさい。パパは『ここは瑛祐のものだ』って言ってたから……」
と言われた。
まだ60過ぎだったけれど、じいちゃんの部屋から遺言状というか、日記のようなものが出てきて、アトリエを俺に引き継がせると明記してあったんだ。
ただ、じいちゃんとの思い出が強すぎて、じいちゃんが死んでからアトリエに行くことも、プラモを作ることもできなかった。
しなかったじゃなくて、できなかったんだ。
まあ、住んでいるマンションとアトリエはすぐそこで、ほぼ同じ敷地内にあるんだけどね。
楓さんに「一度見てきなさい」と言われてアトリエに入ると、若干ホコリを被ってはいたけれど、手入れされた道具が並んでいて……。
「おう、瑛祐。今日はあれ作るべ」
「腹減ったなあ。卵焼きで飯にするか」
そんな声が今にも聞こえてきそうで、涙が出る。
だから、できないんだよ⋯。涙を拭いて周りを見る。
棚の上には、作品の数々。
そして、じいちゃんを伝説たらしめた、旧キットで作った赤いシア専用ザフ。
……今見ても凄い。いまだにどうやって作ったのかすら分からない。
…プラモ、作りたいな。
プラモを作れば、じいちゃんをまた感じられるかもしれない。
それは辛いことかもしれないけれど、懐かしくて温かいかもしれない。
あ、電球が切れてる……。
仕方ない、電気屋に行かないと。
駅前の家電量販店ならプラモも置いてるし、ちょっとだけ見に行こう。
ちょっとだけ⋯。
そんな思いで、次の日の放課後、家電量販店へ寄って帰ることにした。
平日の午後、特に混んでいることもなく、電球のことなど頭にないまま、おもちゃコーナーへ。
最近は海外での人気や転売ヤーの横行などで、ガムプラは品薄になっている。
……あった。遠目からもわかる。
シア専ザフのパッケージ。俺は思わず駆け出して、手に取った。
いや、取ろうとしたのだけれど、伝わってきたのは紙の箱の冷たくて固い感触ではなく、温かくて柔らかい感触だった。
「「ごめんなさい」」
声が重なった。当たったのは、他の人の手。
慌てて手を引くと、そこには北高の制服を着た女子高生がいた。ポニーテールにした髪、平均より少し小さな女の子。
特に目立ったパーツはないけれど、文句なしに美少女といえる彼女がいた。
席は隣だけれど、目も合わせてくれず、口も聞いてくれない。ただのクラスメイト。
「福原さん……?」
なぜ、福原さんがプラモの箱を……。
それよりも、キョトンとした福原さん。隣の席だけれど、俺のことなんか知らない人なのかもしれない。
「同じクラスの……藤井です」
自己紹介するのも変な話だけれど。
「えっと、藤井くんだっけ?」
知っているという顔にはなっているけれど、なぜか疑問形。
あれ、顔は知っているけれど、名前までは曖昧だったのかな……。
私も、人の名前憶えるの苦手で⋯。




