18.これまで通りとは
そう、俺は君に恋してるんだよ。
「……俺の恋ってなんだよ?」
「えっと、同盟? の人たちが言ってるの聞いたよ。白川さん推しだって」
は、? んな……。
クラスで可愛い子は誰かって聞かれて、本当は福原瑛里だって思ったけれど……。まあ、みんなが可愛いと言う白川優香に手を挙げただけで。
ん? 女子が男子の人気投票をしていたとして、このコが佐伯に手を挙げていたら……。
いかん。ダメだろ。泣いてしまうかも⋯。
こんな時、「認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」とか言うんだろうか?
これを言えていれば、すぐにでも付き合えていたかもしれないと、後で思ったけれど。
「違う! 違うよ。俺が好きなんは……福原だよ!」
最後、名前がちょっと小声になってしまった。聞こえただろうか。
少し間があった。
「違うの? 白川さんじゃないんだ?」
あれ。なんか返答が……。
「うん。白川さんは美人だと思うけど、それだけだ」
「あれ、じゃあ誰? 応援するから教えてよ」
誰って、やっぱり聞こえていなかったのか?
ちゃんと名前を言おう。
「応援はいらないから……特別なのは福原だから。だから、応援なんてしないで欲しいんだけど」
「トクベツ……?」
わかってくれたか?
「うん。だからこれからも、ふくは……いや、え、瑛里のお弁当が食べたい」
よし。名前で呼べた。
今度は即答だった。
「いいよ。そのかわり、プラモ作り教えてね」
いいって。やった。人生初彼女か……?
「うん。それに、また瑛里と映画観に行ったり、一緒に録画したアニメ観たりとかもしたい」
ちゃんと、瑛里って自然に言えてるよな。
「瑛祐くんっ」
急に名前で呼ばれた。
「へっ、なに!?」
ビックリして声が裏返ってしまった。でも、めっちゃ嬉しいな。
名前で呼ばれるなんて、じいちゃん、楓さん。佐伯も昔は呼んでくれていた。あとは幼稚園の頃からの腐れ縁の幼馴染のお姉ちゃんがいるが……まあ、それくらいだ。
嬉しいなあ。
「わかった。応援っていうのは無しで、これまで通りだね」
ん?
「……う、ん。これまで通り? お願いします」
これまで通り、か。
じゃあ、瑛里の横に居るのは俺ってことでいいんだよな……。
瑛里が帰ったあと、僕はアトリエで呆然と立ち尽くしていた。
こ、これまで通りだと……?
駅まで送っていく間、映画三部作を観たと言ったら、彼女は今日一番の笑顔を見せてくれた。
これだよ。この笑顔が見たかったんだ。改札で「またね」ってはにかむ顔、最高です。
自転車を押していたから手を繋げなかったけれど、次こそは、また……。
なんて浮かれて帰ってきたのに、一人になって冷静になった。
「これまで通り?」
俺、好きだって言ったよな。
特別なのは福原だって、これからも弁当食べたいって。あれ、自分でも引くくらいのプロポーズ並みのセリフだったと思うんだが。君の作った味噌汁が飲みたい的な?
頑張ったよ、俺……。名前で呼ぶのも、心臓止まるかと思いながら呼んだ。
……なのに、「これまで通り」?
「人を好きになるとか解らない」って言ってたっけ。
そういえば昨日の朝、佐伯が言っていた。
『お前も頑張れよ。あのコ、相当手強いぞ』
手強いとは、こういうことか……。
その時は恋のライバル宣言かと警戒したもんだが。
とはいえ、彼女なんて出来たことがないから、僕もこれ以上どう押せばいいか解らない。
「好き」という決定的な言葉は、また今度ちゃんと言おう。
今度は……そうだ。瑛里の方から「好き」って言わせるくらい、頑張るしかない。
今日のところは、名前で呼べるようになった。瑛祐くんって呼んでくれるようになった。
今までのヤロー共と違って、振られたわけじゃないはずだ。無理とか嫌とかってバッサリいくらしいから。
き、キツイよね⋯。
「面白くない冗談だね!」って言われた奴もいるらしい……。手強いよな。
でも「瑛祐くん」って呼んでくれたし。
……。
とりあえず、ティッシュどこだっけ。
あ、これ……瑛里がスミ入れの時に使ってたやつ。
「ハミ出ちゃった……」か……。
……は、捗ります。
瑛里:当たらなければどうということはない!
瑛祐:な、なんの話だよ!
⋯君の気持ちにだよ。




