16.瑛祐の決意と恋のライバル?
……。
そして、賢者が訪れる。
このままじゃ、だめだよな。
少なくとも、俺は、福原瑛里が好きだ。
朝、起きたら、あの笑顔を思い浮かべて駅へ走っている。
授業中も隙あらば横顔を見ては「可愛いなあ」と見惚れている。
たまに目が合ってしまうけれど、なぜか笑いを堪えるのに必死な彼女。目が合うだけで笑い合えるなんてな。
お昼のお弁当は、今、人生で一番楽しみにしている。美味しい。でも、美味しいだけじゃなくて、君といるから楽しいんだよ。
放課後のプラモ作りも、いつまでも続けていたい。
彼女が帰っても、君のことを思い浮かべて……。
ここまで考えたら、いくら恋愛音痴の俺でもわかる。
これは、恋だと思う。
あっという間に賢者は去り⋯
そして数分後、再び賢者が降臨する。
その日は、少し遅れてしまった。寝る前に何度も賢者を召喚しては、やはり朝が辛い。
⋯違うよ。
福原と楽しく話せるようになる為、ガムダン映画版3部作を徹夜で見たんだ。賢者になったのは一度だけ⋯。
最初は、一部だけのつもりだったけど、グク作るのに、哀戦士見ないと始まらないし⋯。
脚なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。
と言うセリフで、サービスを思い出して、ってのは内緒ね。
エロい奴にもそれはわからんよ⋯。
脚がなければ⋯。
確かに、福原瑛里の脚はキレイだが⋯。
そんなのはオマケです。
俺が好きなのは、あの笑顔だから⋯
自転車ならまだ十分間に合うが、「今日は少し寝坊したので、学校で」とメッセージを送り、「OK」と返事が来たので直接学校へ行くことにした。
校門まであと少しのところで、追いつくことができた。
けれど、彼女は一人ではなかった……。
佐伯と二人、並んで歩いていた。
あ、福原が笑っている。
佐伯は剣道の腕も全国クラスで、背も高く、顔も整っていて、男の俺から見ても文句なしに格好いい。
勝てねぇよ。
なんだかいたたまれなくなって……。
「はよっ」
とだけ声をかけて、自転車を力一杯漕いでスピードを上げた。この場から、一刻も早く立ち去りたかった。
昨日、好きだと実感したばかりの高揚感が、ズンと沈んでいくのが自分でも分かった。
教室に入る前に、福原瑛里不可侵同盟の奴らに声をかけられた。
「今日は一緒じゃねえんだな」
「まあ、そんな日もあるだろ」
「最近、全然情報くれねえじゃん」
あー、もう、そんなことしてるから佐伯に……。
「もう、お前らに言うことは何もないよ……」
「藤井は白川さん推しだからいいじゃねえか!」
「だから、それは……とにかく、もうコソコソするのは無しだ」
すると同盟の1人がとんでもない事を言った。
「じゃあ、俺が告ってもいいんだな?」
⋯なんだと?
「おいっ」
誰かが声を上げ、その目線を追うと……福原がそこにいた。
……気まずい。アイツが告白するなんて言ったの聞こえたんだろうか?
それから午前中の授業は実が入らず上の空だった。そしてお昼休みになるとスマホに通知が入った
『――なんか話があるらしいから、先に行っててくれる?』
福原からのメッセージ。
アイツら、マジで告る気か?
『……わかった』
隣の席なのに、メッセージでのやり取り。
まあ、昼を一緒に食べているのは皆には内緒にしているしな。
とりあえず、俺はもうこのお弁当なしには生きていけない。誰かの彼氏になったとしても、このお弁当だけは……。
……嫌だな。それならもう弁当もいらない。何もいらなくなるよ。
いつもの場所に向かう校舎の裏で、三人の男子に囲まれている彼女を見つけた。
「えっと。……ごめんなさい!」
やった。断ってくれた。ホッとしたんだけど。
「なんで? 他に好きな人とかいるの?」
「……」
「いないんなら、デートくらい……とりあえずID交換……」
しつこい。こいつら、もう我慢できん。
そう思った時には駆け出していた。
「ちょっと待ったぁぁ!」
三人を前にして、俺は言い放った。
「話は終わっただろ。福原、困ってるし」
そう言って、福原を見た。
「うん。……ごめんなさい。でも、ありがとうね」
福原がはっきりと告げると、同盟の三人は「くっ……」と呻いて諦めたようだった。
「じゃあ、これで終わりな! 福原、行こう。昼休み終わっちゃう」
俺は彼女からお弁当の袋をひょいと受け取り、もう片方の手で、彼女の手を握った。そのまま、いつもの中庭のベンチへと引っ張っていく。
自然に、手を繋いだ形。
顔に血が上っているのは、しつこいアイツらへの怒りか?
違う。この繋いだ手から、血流が増しているのが分かる。
「あのさ……手」
「あ、ごめん! 咄嗟に……嫌だった?」
「嫌じゃ……ないけど。……あの、正直どうしようかと思ってたから、助かったよ。ありがと」
嫌じゃないんだ? 本当に?
「……そうか。いや、まあ、それなら良かった」
何が「良かった」のかは自分でも分からない。でも、手を繋いで嫌がらなかっただけでも、よしとしたい。
お弁当はいつものように美味しかったが、あんなことがあってあまり話せなかった。
ハンバーグにチーズが入っている。美味しいし、手間がかかっている。その手間、俺の為だったら嬉しいんだけどね。
やっぱり俺は、福原が好きだ。好きな気持ち、俺も言うべきかな。
でも福原は、佐伯みたいな奴が好みかもしれんと思うと辛かった。
沈黙がしばらく続いて、
「ごめんね」
なぜか、彼女が謝ってきた。
「えっ、何が? アイツらがしつこかったのは、福原のせいじゃないよ!」
「いや、あの、チーズが固まってて、美味しくなかったかなって……。洸也のお礼だから、頑張ったんだけどな……」
何の話だ?お弁当はいつもの様に美味しいが⋯。
「えっ? ああ、大丈夫! 十全に美味いよ。こんなのレストランでしか食えないって感動してたんだ。……もっとアツアツなら、もっと凄いのか?」
「……うん。アツアツの時は絶品だったんだけど」
「そうか、食べてみたいな……」
「今度、作ろうか? 楓さんも一緒に」
「いいのか?」
「お寿司のお礼もしなきゃだしね」
少し明るさが戻ってきたかな……。
「あ、そうだ。これ言わないと。……あのさ、シア専ザフ。もう完成って言っていいと思う。初めてにしては、凄く上手くできたよ」
褒めているのに、なぜか彼女は複雑な顔をした。なぜだろう?
「そうだね。おかげさまで、格好よくできたよ。楽しかった」
「でさ、昨日ショップの手伝いをしてただろ。ご褒美に店長からこれ貰ったんだ」
スマホの画面に、もらったMS-07 グクのパッケージを映す。
「あ、グク? 青い巨星の……。しかも限定の、あんまり売ってないやつ?」
やっぱり食いつきが良い。本当に好きなんだな。
「店長にこれ貰えるっていうから、恥を忍んで手伝ったんだ。だからさ……次は、これ作ろうぜ。また違うテク、教えるから」
「ん? プラモ作り、終わりじゃなくて……?」
「あ、もう終わりにしたかったら仕方ないけど。……まだまだ色々教えられるし、続けてくれると、嬉しいんだけど」
「……っ、いや、私も続けたくて。……うん。嬉しい、かも」
そっか。プラモ作りが終わりになると思って、複雑な顔をしていたんだな。
福原が嫌と言うまで、ずっと続けるからね。
「お願いします!」
「ごめんなさい!」
今思うと、なんであんな番組が流行ったのだろうと言う思いと、やっぱ面白かったよなって言う思いが交錯します。




