14.お寿司と瑛里
なぜか、俺と楓さんで福原を挟んで、お寿司屋さんでお寿司を食っている。
「瑛里ちゃん、遠慮しないで食べてね」
と言われて、借りてきた猫みたいになっていた福原が、パクパクとお寿司を食べ始めると、途端に表情が明るくなった。やっぱり、明るい表情の方が、可愛い。
楓さんは、いつも息子の為にお弁当を作ってくれているお礼に、ご馳走したいらしく、半ば強引に連れ出してきた。
普段、母親らしいことなんて何一つしないのに、こんな時だけ母親ぶるのをやめて欲しいよな――なんて思っていたのだけれど⋯。
お任せで来た寿司を食べ終わった福原は、楓さんにどうだった?あとは何でも注文しして良いからねって言われて、少し考えてから
「えっと、ヒラメもコハダもアオリイカも、あとブリじゃなくてヒラマサかな……全部美味しかったです。それで、あの、卵焼き、もらえますか?」
「「「…………」」」
一瞬、三人が妙な沈黙に包まれた。
こ、コイツ。ガムダンだけじゃなくて、寿司ネタオタクでもあったのか……。
俺なんてイカの種類なんて見分けがつかないし、ブリとヒラマサの違いなんてさっぱりだ。
福原の料理が美味い理由がわかった気がした。味覚がきっと鋭いんだ。
「卵焼きな、あるよ。ウチの看板だ」
大将がニカッと笑った。
「それはそうと、ヒラメとコハダとアオリイカってよく分かったな! 確かにブリじゃなくてヒラマサだ。瑛里ちゃん、いい舌してるね。半端なものは出せないな」
あ⋯。大将まで虜にしてしまった。
……それ以上、近づくんじゃねえ⋯!
って、瑛里ちゃん、か⋯。俺なんていまだに名前で呼べていないのに。
「あ、楓さん。福原の作る卵焼きも、すごく美味いんだよ」
楓さんに自慢してみる。
「あらそうなの? 私も食べてみたいわ。……でも、瑛里ちゃんとあんなに仲がいいのに、アンタ、まだ名字で呼んでるのね」
うるせぇ。それよりなんで楓さんが「瑛里ちゃん」って呼ぶんだよ。
……俺だって、呼びたいさ。
「別にいいじゃん。なあ……え、……福原!」
あぁ、やっぱり言えねえ。「え、えり」……あ、シャツの襟だと思えばいけるか?
「呼び方なんて、別にいいけどね! ……え、……藤井くん!」
「エリ」と呼べない俺⋯。
「エイスケ」と呼べない福原⋯。
……なんだこれ。
つい、つまんだガリの刺激が、いつもより鼻にツンとくる気がした。
駅まで二人で、福原を送っていった。
「それじゃあね。瑛祐と仲良くしてね!」
楓さんが大きく手を振る。
「なんだよそれ。……じゃあな、また」
俺も軽く手を振る。確かに、仲良くはしてほしいけれどね
「はい。とても美味しかったです。ご馳走様でした!」
弾けるような笑顔を見せて、福原は電車に乗っていった。
ーーーーーーーーーー
「いい子ね!」
「……うん。お弁当も美味いし、話も合うと思う」
女の子っぽい話題なんてほとんどしたことがないけれど。
「そうなの?年頃の女の子がアンタと話が合うとは思えないけど?」
「そんなことないって。この前、映画観に行って……って、あ⋯」
「へぇー。もうデートする仲なんだ! いいなぁ」
……。マジでうるさい。
「デートじゃねえって。ガムダンの新作を観に行っただけで……」
「へぇ~」
「と、友達なんだから、映画くらい行くさ……」
「友達……ねぇ。アンタと……ね」
楓さんはしばらく黙ってから、
「瑛里ちゃん、アンタには勿体ないわね。私が嫁に欲しいくらいだわ……」
勿体ない、か。まあ、俺なんかを相手にしてくれているのも、プラモのおかげだしな。
というか、自分の嫁にって、バカなのか?
「何言ってんだよ。……でも、福原の料理って、なんかじいちゃんを思い出すというか……」
「……あの人の話はしないでって言ったでしょ」
「あ、うん、ごめん。でも……」
そうだ、楓さんは、じいちゃんが浮気してばあちゃんが出ていったことを根に持っているんだった。この話はもう終わらせよう。
俺が生まれる前の話なのにな⋯。
福原と三人の食事も、悪くなかったな……。
「……でも。今日は楓さんと……ママとご飯食べられて、楽しかったよ」
今さらこの歳で「ママ」なんて言うのは、自分でも恥ずかしい。
「えっ、今なんて? ママって言った?」
「……いや、福原とご飯食べられて良かったって言ったんだよ!」
それは、本当のことだ。
友達……か。自分で言っておいて。
この関係を、もう「友達」では済ませたくないと思うようになっていた。
GquuuuuuX制作中⋯。
パーツが細かい⋯。
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