11.映画館
……デート、か。
着ていく服がないな。
俺の母親の楓さんは、女子高生のカリスマと言われるファッションデザイナー。だけど、基本的には女子の服だし、デートに着る服なんて相談したら、大騒ぎされてややこしいことになる。
ただでさえ最近、「お弁当を作ってもらっている」と言ったら、「お礼をしないと」とか「相手の親御さんに連絡を……」とか言い出して大変だったんだ。
忙しいんだから、今は仕事に打ち込んでください……。
あ、そうだ。ファッション雑誌で働いている従兄の曜一朗にいちゃんに相談してみようかな。
「曜一朗にいちゃん。というわけで、映画に行くんだけど、こんな感じでどうだろ?」
すぐ近くに住んでいるので、仕事終わった頃合いに行ってみた。
「……瑛祐。悪くないけど、ダメね。それとアタシのことは『サクラねーさん』と呼びなさいと言ってるじゃないの」
……。従兄じゃなくて、従姉なのか? 桜川曜一朗、28歳のはず。性別は……不明。
「普段着でいいのよ。背伸びするとダサくなるから……。あんた、瑛おじさんから何を習ってきたのよ?」
「え? じいちゃんからは、模型作りとか心構えみたいなのを……」
「模型に色を付けるときに気を付けることもあるでしょ?」
「でも模型って、プラモデルって言うだけあって、大体モデル(見本)があるから⋯」
「……。オリジナルで色をつけたり、飾りを足したりもするでしょ?」
「あ、そっか。全体のバランスを考えて……上着がこれなら、確かにズボンはこれじゃないな」
「分かってきた? 今回だけ特別に、アタシが若い頃に着ていた服をあげるから、それを着ていきなさい」
「若い頃……? あ、カッコいいお兄さん時代か。あの頃の曜一朗にいちゃん、カッコよかったなあ」
「ふん。アタシからしたら黒歴史もいいところなんだけどね……。でも、そういえば、雑誌モデルの女の子も明日のデートの服で悩んでたわね。……まあ、若いっていいわね!」
へぇー、雑誌モデルでも私服で悩んだりするんだ。まあ、俺なんかとは住む世界が違う人種なんだろうけど。
「福原さん!」
待ち合わせ場所に行くと、逆方向を向いている少しおしゃれな女の子がいた。
長めのスカートで派手すぎず地味すぎず……。落ち着いた雰囲気で、呼び捨てにするのも憚られるようだった。
「藤井くん……」
振り返ったその顔は、やっぱり会いたい人だった。
昼食のファストフード店で、ポテトをつまみながら話した。塩が効いていて美味い。
福原の優しい味の料理もいいけれど、たまにはこんな暴力的なメシも悪くない。
「藤井くん、オシャレさんだったんだね」
「……いや、従兄のお兄……いや、オネエさんに無理やり見繕ってもらったんだ。自分じゃ全然わからなくて」
「そーなんだ。ちょっとカッコいいって思っちゃったよ」
マジか。曜一朗にいちゃん、ありがとう。お礼にちゃんとサクラちゃんって呼ぶね。
「そっちこそ。……今日、なんというか、すごく似合ってる」
福原って、私服もおしゃれだったんだな。俺も、隣にいられるよう頑張らないとな。
「私も、バイト先のオネエさんに選んでもらっただけなんだけどね」
「なんだ。ちょっと緊張して損したよ」
「そうだね。私も」
二人で笑い合う。時間が経つのが、驚くほど早い。
映画館に入って、勝手がわからずにオロオロする福原も可愛いが、俺はシミュレーションを繰り返した通りの動きをする。
優待券を提示してチケットをもらい、ジュースやポップコーンを買ってシアターへ。
カップルシートに一瞬ドキッとしたけれど、福原が気にせず座るので、俺も気にしないフリをして座った。
初デート(仮)だと映画の内容が入ってこないのが定番だと言う。
けれど、映画が始まると隣の横顔の集中力は凄まじかった。
手が触れるかも、とか、横顔が綺麗だ、なんて思っているのは多分俺だけで。隣の美少女は、その格好には全然似合わないロボットアニメを凝視して、こちらを気にする素振りを一切見せなかった。
上映終了後。涙をためて放心状態になっている彼女に声をかけた。
「出よっか」
楽しんでもらえたのは良かったけれど、せっかくのデートなんだから、このまま帰したくないな。
「スタバでも行く?」
「あ、うん」
と付いてきてくれるのは、嬉しい。
コーヒーショップの席に座り、
「どうだった?」と聞くと、福原さんが壊れた。
「まずシアが出撃するシーンから凄くて! あのやらかし伍長がいない代わりにシアがフライングしてるのも、役者が違う感じで良かったし、白いロボットが五倍のパワーゲインとか言ってもうドキドキしちゃって! あのプロトタイプに乗ってたの誰!? でも、シア様とは役者が違ったよね! あと、ビックサムが量産化して本当に連邦を倒しちゃうのエモすぎる! でもドズリ様が死んじゃって、これからどうなるの!? あ、それとシアの行方不明の続き、テレビでやるんだよね!? 楽しみすぎる! あと主人公の女の子も可愛かったよね!」
早口で一気にまくしたてられた。
本当に好きなんだな。普段のツンとした表情や、教室で話しかけても「あ、うぅ」と要領を得ない言葉遣いとは全然違っていて。
……。ギャップ萌えって、こういうことか。
可愛いが止まらない。
さらに萌え苦しみたい。ここは燃料投下だ。覚えていることで話を広げてみる。
「……あ、うん。俺は、サーラさんがどこで出てくるか楽しみかな……」
サーラさんは、福原の愛するシア大佐の妹。食いつかないはずがない。……アルテーシアって言ったほうが萌えたか?
「え、藤井くんサーラさん派なんだ。匂わせあったもんね。でも私はミウイさん派だったかなー。フララちゃんも可愛くて好きだけど……」
どんどん出てくる。面白すぎる。喋るのに疲れたのか、飲み物を口にする福原瑛里。
「いやー。福原がこんなに楽しんでくれて良かったよ」
「……うん。面白かった。誘ってくれてありがとう。一人じゃ行かなかったな」
思えば、俺の脳もギャップ萌えに焼かれていたんだろう。普段なら絶対に言えないことを言っていた。
「テレビ放送、どうせ深夜だろうから、録画したのを作業場の奥の部屋で一緒に見る?」
「……え、いいの? 楽しみ!」
女の子を家に誘うなんて。
作業場ならプラモを作るため、と言い訳ができる。
けれど、奥の部屋なら――。
おウチデートじゃん?
俺の推しは、ミライ少尉だ!
今の気持ちをあんまり本気にしない方が良い⋯。
今日も複数話更新しますっ!
時間ある時に作業するので、不定期になりますがよろしくお願いします。




