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第一章 壁を登る白猫

 オルヴェル帝国の皇太子バイエルの妃、シルキーは、白銀の髪と瞳、透き通るような白い肌を持つことから、『白の姫君』と呼ばれて育った。


 儚げな容姿にも関わらず、趣味は塔などの高い壁を登ること。無我夢中で走ること。これはシルキーが子供の頃から欠かせないストレス発散法であり、思考整理の方法だった。


 壁に貼り付いて空しか見えない状態だと、不思議と頭がスッキリするのだ。


 さて。

 皇宮ヴェン・フェルージュ宮殿の片隅に、先帝時代に造られた小振りな塔が残されている。

 この塔もまた、実に登りたくなる塔である。


 がし。

 右手が壁のレンガの出っ張った部分を掴む。


(1年前)

 シルキーは塔の壁をよじ登りながら考える。

(ソリスト様の長子フーガ様が亡くなられた)

 ソリストはバイエルの兄で、1年前までこの帝国の皇太子だった。


 がし。

 左手もレンガを掴む。

(ソリスト様もいなくなった)


 ソリストは失踪し、皇太子を廃された。ソリストの妃と娘は皇宮に残されていたが、ソリスト皇子が廃されると同時に、二人は皇室から追放されるように妃の実家に戻った。


 ソリストに代わり皇太子になったのが、シルキーの夫である第二皇子のバイエルだ。


 ソリスト失踪前後に何が起きたのか、今や皇太子妃の立場にあるシルキーにすら詳細は伝えられていない。夫のバイエルと現皇帝は知っていそうだが、話してはくれない。


 オルヴェル皇室のトップシークレット。

 噂によると、ソリスト皇子が失踪した理由は息子をその手にかけたからだと言う。皇室は皇太子による人殺しを表に出すことができず沈黙を守っているのだと。


(信じられない)

 ソリスト皇子は家族思いだ。弟のバイエルを誰よりも理解して、シルキーにバイエルを支えてくれるよう頼んできたのが彼だ。


———『冷たい子だと思わないでほしい』

(あの彼が自分の子供を殺した?)

 心地良い筋肉の疲れと共に塔の最上部へ辿り着いたシルキーは、胸壁に囲まれた丸い床に横になりそのまま考えに沈んだ。


 空しか見えないこの丸い空間が好きだ。

 普段なら心が落ち着く空間なのに、ザワザワと波立った気持ちが落ち着かない。

 シルキーは自分を抱きしめるように身体を丸めた。


(バイエル……)

 夫がヴェン・フェルージュ宮殿に帰ってくるのはまだ先だ。結婚してから公務で離れ離れになるのは初めてではないのに、今は何故かそれがどうしようもなく心細い。


(早く帰ってきて)

 眩暈と喉に込み上げてくる不快感を、シルキーは気付かない振りをしてやり過ごそうとした。

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