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第十章 心の守り方

 『シンフォニー』と名付けられたバイエルとシルキーの子供は、二人が暮らす皇宮ではなく、シルキーの実家であるアルザス公爵家の屋敷で育てられることになった。


 そして公爵夫人は、シルキーには、身体が落ち着いた頃に一人皇宮に帰れと言う。

 バイエルもシルキーも反対したが、公爵と公爵夫人は譲らなかった。


 表向き、公爵達の言い分はこうだった。

 廃太子ソリストの第一子であるフーガ皇子は、皇宮ヴェン・フェルージュ宮殿内で殺害されたと言う噂がある。


 フーガ皇子の死からまだ数年しか経っておらず、今現在、皇宮はシンフォニー皇子にとって安全とは言えない。シンフォニー皇子は、かつてのフーガ皇子と同じ、皇太子の第一男子という立場だから尚更のこと。


 命を狙われる危険からシンフォニー皇子を守れるのは、アルザス公爵家だけ。大事な孫であるシンフォニー皇子を、アルザス公爵は命に換えても守る、と。


 アルザス家は元を辿れば皇室だ。シンフォニーが皇帝になるための教育も私達に任せて、皇太子ご夫妻は安心して公務に集中してほしい。と公爵は付け加えた。


 しかしアルザス家の本当の目的は、『アルザス家育ちの皇帝』の輩出だ。アルザス家の血を引き、アルザス家を贔屓し、アルザスのために動く、アルザス家の傀儡皇帝を育てる。


 バイエルもシルキーもそれは理解していたが、シルキーに冷たいバイエルの母后がシンフォニーに対してどう出るかも分からない上、公爵達の圧力は強かった。


 シンフォニーが10歳になるまで。

 それを条件に、二人はアルザス家の提案を受け入れた。


「今から壁を登りますわ」

 シンフォニーをアルザス家に預けることを決めた時、シルキーは目を据わらせてそう言った。


「良いな。同行しよう」

 バイエルの言葉に、シルキーは目を丸くする。

「どんな風の吹き回し?」

「壁に登りたい気分になっただけだ」


 実際バイエルは酷く腹を立てていた。臨月が迫ったシルキーをアルザス家に預けたのは、我が子を奪われるためではない。


 アルザス家に関われば分かる。シルキーが何故、壁登りを趣味にしていたか。


 空だけを見て一心に、体を動かす。

 地上の声など無いものにして。

 危険だと何度止められても、登りたくて仕方なかったのだろう。


 人を駒としてしか見ない、そんな人間達に壊されそうな心を守る、彼女なりの逃避法だったのだ。


 産後のシルキーが無理をしないよう見張っておきたい気持ちもある。たまには彼女の趣味に付き合うのも良いだろう、と、バイエルは妻と共に、アルザス家の白い塔(シルキーのお気に入りの壁がある)へ向かった。

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