第1章「見えない来訪者」
※この物語は、現代世界を元にしたフィクション作品です。
この世を知らなくても読めるように執筆していますので、どうぞお気軽にお楽しみください。
「これはまだ、何も知らなかった少年が、“世界の広さ”を知る物語の始まり──」
ユウトの暮らす村は、田畑と山に囲まれた、ごく普通の場所だった。
朝になればニワトリが鳴き、子どもたちは通学の代わりに畑の手伝いや山遊びに向かう。
ユウトもその一人で、今日は仲の良い三人組──ミナ、ハルキ、コウジと一緒に、裏山の小さな川辺で魚を捕まえていた。
「見て見て!また獲った!」
「うわっ、マジかよ、ユウトってば今日だけで五匹目!」
「ねえねえ、それで焚き火して食べようよ! ミナ、塩あるよ!」
笑い声が、山にこだまする。
いつもと変わらない、平和な日常。
“この世界には人間しかいない”と、誰もが疑わなかった。
他の種族なんて、本の外の話。空想。迷信。
この村では、それが“当たり前”だった。
──その日までは。
空は、まるで黒墨を流したように曇っていた。
風もない。鳥のさえずりもない。
木々はひとつも揺れず、まるで時間そのものが止まってしまったかのような、奇妙な静寂に包まれている。
ユウトは薪拾いの途中で、ふと足を止めた。
……おかしい。何かが、違う。
そんな予感を胸に抱いた瞬間、目の前の草むらに、人が倒れていた。
「……大丈夫!?」
慌てて駆け寄る。
土の匂い。少し焦げたような煙のにおい。
倒れていたのは青年だった。青みがかった外套。異国のような刺繍。
だが、血も傷もなく、穏やかな顔をしていた。
「……きみ、は……」
かすれた声。だが目を覚ますと、彼はゆっくりと身体を起こした。
そして、ユウトの顔をじっと見つめる。
「君は……この世界の人間、だね?」
それは、どこか不思議な響きをもった言い方だった。
“この世界の人間”──まるで自分が、そうではないような……
「……あ、あの、大丈夫? どこから来たの? ていうか……誰?」
「僕は……旅の途中で、ちょっと迷ってね。休んでいただけさ」
「休むにしては、全力で倒れてたけど!?」
青年はふっと笑った。
その微笑みは柔らかく、けれどどこか、遠くの空を見ているような寂しさも滲んでいた。
「君の名前は?」
「ユウト!この村に住んでるんだ。えっと、きみは?」
「……名前、か。じゃあ、仮に〈ソウ〉とでも名乗っておこう」
翌日から、ユウトと“ソウ”は毎日のように会った。
村の外れ、小さな小道の石の上。木陰の下。
誰にも見つからない場所で、ふたりは他愛もない話をした。
「魔法……? それって、おとぎ話のやつだろ?」
「君の世界ではね。けれど“見えない”ということは、“無い”ということではないよ」
ソウは、子供にはなすようにゆっくりそれでいて優しく話してくれた。
“人間以外の種族”のこと。
“妖精族”や“魔族”と呼ばれる存在のこと。
そして、“選択”がどれほど力を持つかということを。
最初は冗談だと思っていた。
だけど、ソウの言葉には、誰かから聞いた話ではない“知っている人”の重みがあった。
ユウトの中に、それまで知らなかった世界が広がっていくのがわかった。
ある日。
ユウトとソウが並んで地面に石を並べて遊んでいたとき、村の長老が通りかかった。
「やあ、ユウト。こんなところで、一人遊びかい?」
── 一人?
ユウトは反射的に隣を見た。
そこには、いつも通りの微笑みを浮かべたソウがいる。
だけど──長老の目には、見えていなかった。
風が吹いた。
住処を置いたようにそこにいた雲が、わずかに流れ始めた。
“何か”が、確かに変わろうとしている。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
この物語は、現代世界の裏に隠された“もうひとつのファンタジー”を舞台に、
少年と不思議な青年との出会いを描いた、長い旅のはじまりです。
この世界のベースとなっているTRPG『NexDia -TRPG-』では、
プレイヤー自身が「選択」と「交渉」を通して物語を紡いでいきます。
今回の物語はその世界観の一片、そして“もしも”の物語としてお届けしています。
感想やご意見など、お気軽にお寄せいただけたらとっても嬉しいです
次回、「別れと旅立ち」も、どうぞよろしくお願いします!




