1人(?)と1匹(?)
年内に出すと言っておきながら、年末、しかも大晦日になってしまいすみませんでした。
急ピッチで書き上げたので普段よりも読みづらいかもしれません。本当にごめんなさい。
「あれ?何これ。急に鳴き声がおかしくなっちゃった。こんな鳴き声あげた事ないのに」
紫色のファンキーな魔物(仮)から聞こえてきたのは、何とも可愛らしい少女の様な声であった。
…???何だこの可愛いヴォイスは?私の目の前にいる魔物(仮)から聞こえてきたけど気のせい?魔法少女になりたい欲望が限界突破した故の幻聴とか?
声を聞いた私は理解が追いつかなかった。
想像してみてほしい、めちゃくちゃ厳つい、迫力満点の魔物(仮)から、10代の少女の様な可愛い声が聞こえてきたとしたら。
すんごい違和感ありすぎて困惑するんだけど。
本当にこの魔物(仮)が喋ったのか?口元はあまり動いていなかった気がするけれど…
「あ、あの〜…」
…今の声を聞いてはっきり理解させられた。
可愛らしい声はやっぱり、魔物(仮)から発されていた。今度は魔物(仮)の口元を凝視していたからわかった。確かに、あまり動いてはいなかったが、話す際に少しだけ口が開いたのが見えたので確信した(させられた)。
「えと、あの、急にこの鳴き声しか出せなくなっちゃったんだけど…」
…しまった。勝手に脳内であーだこーだ考えていたせいで魔物(仮)を放置してしまっていた。
魔物(仮)は、私に聞こえる様にか、転んでうつ伏せになった状態のまま話しかけてくれていた。
それにしても「鳴き声」か…
魔物(仮)にとっては「話せる様になった」のでは無く「鳴き声が変わった」と認識しているのか?
とりあえず私は、話せる様になった魔物(仮)に話しかけた。
ーすみません、私が必要だからとお願いしたのにそのまま放置してしまって。
でもこれで貴方の言葉がわかる様になりました。本当にありがとうございます。
私は魔物(仮)に向かって一礼した。
「そ、そんな…‼︎ 私はあなたに言われた通りにしただけなんでお礼なんて…、でもすごい不思議な感覚…今までとは違う鳴き声なのに、ちゃんと意味がわかる…」
ーあの、一つお聞きしたいのですが、貴方の種族は相手に何か伝える際に「鳴き声」を使っているのですか?
「えと…う、うん。私達ザルドフ族は鳴き声を使ってるんだ。でもわかるのは同じ種族同士だけ。他の生き物の鳴き声や、人間とかが使う『言葉』もわからないんだ」
ーでもさっき、魔法を使う前も私の言っている事ををわかっていた様でしたが…
「そう、それ‼︎それが不思議なの‼︎
今まで他の生き物が何を言っているかなんてさっぱりわからなかったのに、なぜかあなたの言っている事はちゃんとわかったの‼︎
明らかに私達が使う鳴き声じゃ無いはずなのに」
私の疑問に対し、魔物(仮)は興奮気味に同調した。確かに、急に異なる種族と通じ合う事が出来る様になるなんて驚かない訳がない。
私もいきなり犬や猫の言っている事がわかる様になれば凄くびっくりすると思う。
あと、魔物(仮)はザルドフ族という種族である事がわかった。まぁ、種族の名を聞いてもさっぱりわからないが…魔物かどうかもわからんし…
するとレニアさんは、少し微笑む様な声で私に話しかけた。
「ふふ、それにしてもこの鳴き声、面白いね。いつもの鳴き声とは違ってすんごい複雑なのに。」
ーレニアさん、それは鳴き声では無く、「言葉」というんですよ。
「言葉?あぁ!これが言葉なんだ‼︎
そういえば、あなたに魔法をかけてもらう前も、『言葉が〜』どうとか言ってたからよくわかんないまま頷いちゃってたけど、この事だったんだね〜」
レニアさんは納得した様だった。
『言葉』については知っていた様だったけど、意味はよくわかっていなかったという事か。
というか、意味わかんないまま頷いてたのかよ。私は心の中でツッコミを入れた。
あ、そういえば…
ーあの、話が変わるのですが、貴方のお名前を聞いていませんでしたね。すみませんが名前をお聞きしても良いですか?
「そ、そうだったね。すっかり忘れちゃってた。私はレニアって言うの。よろしくね。」
ーよろしくお願いします、レニアさん。
「よろしくね。そういえば、あなたの名前もきいていなかったよね」
ーそうでしたね。こちらも名前を名乗らなくては、私の名前は…
と、言いかけたところで私は一つ重大な事に気づいた。
…私って、今、何者なんだ?
うっかり人間だった頃、即ち前世の名前を言おうとした私だったが、今の私は人間では無い。しかし今世の珍獣である私は、一体何の種族なんだろうか。
ステータス画面とか無いかな?それを見てからでも…
「あの、どうかした?」
レニアさんが心配そうに声をかけてきた。
…しまった。また黙りこくってしまった。
とりあえず適当に…名乗るにしてもネーミングセンスゼロ、寧ろマイナスの私に素敵な名前は浮かばなかった。
仕方ない、もうこれで行こう。
ー私は………、妖精です。
「妖精?」
ーはい、妖精です。
「……あなたが……妖精……?」
レニアさんは訝しそうに私を見ている。
…「妖精」に対して「何それ?」では無く、
「あなたが」と言ったという事は、「妖精」は存在しているのだろう。
しかし問題は、妖精が「どんな姿」をしているのかという事だ。訝しそうに見るという事は、全然違う為に怪しんでいるという事なのか…
「すっっっっごーーい‼︎初めて妖精さんが見えた‼︎私たちは見る事が出来ないって長老が言っていたのに‼︎‼︎」
レニアさんは、すんごい嬉しそうな声で、また暴れ出した。さっきの暴れとは違い、どちらかというと子供がはしゃいでいる様な感じである。
ーど、どうしました急に?
「あ、ごめんなさい、うれしくてつい…妖精さんは人間達には見えるけど、私達他の生き物は、見る事も気配を感じ取る事すら出来ないって、小さい頃群れの長老から教わっていたから…」
暴れるのをやめたレニアさんは、少し恥ずかしそうに話した。
良かった、訝しんで見ていたのは怪しんでいたわけでは無かったのか。
ー妖精は人間達以外の生き物は見る事が出来ないのですか?
「うん、私も小さい時に教わったんだけど、妖精さんは神の使いって言われていて、人間にしか姿を見せないんだって」
ー何で人間だけが妖精を見る事が出来るのですか?
「詳しい事はわからないけど…長老は確か、人間は、神様に似せて作られた、神様に最も近い存在だからだって言っていた気がする…」
この「神様」はステラの事かな?確かにステラは人と同じ姿形をしていたな。
うーん。まだこの世界についてわかっている事は、魔法が存在し、魔法による格差があるという事位である。もっと詳しく知りたいのだが、レニアさんはどこまで知っているのだろうか…
というか、暴れるで思い出したのだが、何故レニアさんは、私を見て逃げたのか、その後転んで何故暴れたのだろうかを聞いていなかったな。
ーあの、レニアさん。もう一つお聞きしたいのですが、私と初めて会った時に何で逃げたのか、そしてその後転んでしまった後もしばらく暴れていた様でしたが、何があったんですか?
魔法を付与した一番の目的でもある、私がずっと気になっていたレニアさんのあの行動の真相を私は聞いてみた。
「あー、あれはね…
最初妖精さんを見つけた時は、『何だろうこれ』と気になって見ていたんだけど…
急に妖精さんが叫んで暴れてびっくりしちゃって。
それになぜか妖精さんの言っている事がわかる様になってて…
今までこんな事なかったから…私もなんかパニックになっちゃったんだ」
ーそれで、私が落ち着いた隙を狙って逃げたと。
「うん、暴れている最中に逃げるのは怖かったし…でも走るのは得意じゃないのに、無理して走ったから足がもつれて転んじゃったの…
そしたらなんかもう、痛みとさっきの恐怖が重なっちゃって…パニックになって…」
ー鳴きながら暴れていた、という事ですね。
「うん、でもようやく落ち着いたと思ったら…」
ー再度、私が現れ声をかけてきた。
「そ、それでまた怖くなって…」
ーまたパニックになった…という事だったんですね。
「うん、本当にごめんなさい…」
レニアさんは申し訳なさそうに謝罪した。
ーいえいえ、急に暴れたのは私ですから。謝るのはこちらの方です。こちらこそ、突然暴れてすみませんでした。
「いやいやそんな…!
あ、そういえば、怪我についてだけど、足をぶつけて痛かっただけで切れてもいないし、跡も何も無いよ。今はもう痛くないし、心配かけて本当にごめんなさい」
ー今は痛みも無いのですね。本当に良かった。
私はホッと胸を撫で下ろした。
するとレニアさんは私に話しかけた。
「なんか久しぶりだなぁ。こうやって誰かと一緒にいるのって。ずっとひとりぼっちで森の中で過ごしてたから、懐かしいなぁ。」
ーあれ、レニアさんって1人(?)で暮らしていたんですか?さっき群れとか長老とか話していた気がするのですが…
「あ、うん。昔は群れにいたんだけどね…」
私の質問に、レニアさんは悲しそうな目をして、話し始めた。
「ザルドフ族はね、おとなになっても、この森の木々の半分くらいの大きさしかないの。
私はね、ザルドフ族の中でもおかしい存在だったんだ。
私も生まれた時はみんなと同じくらいの大きさだったの。
でも7歳を過ぎた辺りから、私だけすごく大きくなっていって、11歳の時には、群れで1番大きかったお父さんを超えちゃったの。
ザルドフ族は草食だけど、他の生き物からは肉食だと勘違いされて警戒されるから山の中や森の奥に隠れて住む事が多いの。
私達も同じ様に、とある山で、静かに暮らしていたの。
でも私があまりに大きくなったから、偶々山に入った人間達に気づかれちゃって…。
その日の夜に私達を討伐しに来たの。
結局私達はなんとか別の山に逃げる事ができたの。
でも…、
こうなったのは私のせいだって、みんなから責められた。
そして、私は群れから離れるようお父さんとお母さんに言われたの。
確かに私のせいでこんな事になってしまったのだから、当たり前ではあるんだけどね…
でも、少しだけ、お父さんとお母さんなら庇ってくれるって思ってたの…」
既にレニアさんの目は涙で濡れていた。
「結局私は群れから離れて遠くを目指したの。誰にも迷惑をかけない様な、誰にも見つからない遠くの場所を目指して。」
ーそれで、この地に辿り着いたと。
「そう。ここなら何もいない、森の奥だから人は来ないし、他の生き物すら私の大きさに驚いて近寄らない。私だけの場所。ここなら誰にも迷惑をかけなくて済むから本当に良い場所なの。」
「でも、やっぱり寂しかった。誰もいない。誰も来ない。ずうっとひとりぼっち。
どこか別の森や山に行きたくても、もう行けない。ここにいる間にさらに大きくなっちゃった。こんな身体じゃ、何も出来ない。
何で私はこんなに大きくなっちゃったんだろう。
何で私はみんなと同じじゃなかったんだろう。
何で神様は私を普通じゃないものにしたんだろう。」
泣きながらレニアさんは自分の境遇を嘆いた。
皆んなと違う。それがどれだけ辛い事か、私も痛いほどわかる。私も同じだったから…。
レニアさんを見て、私は胸がきゅっと苦しくなった気がした。
…重たい空気のおかげで暫く静寂が続いた。
今現在、レニアさんは泣き止んではいるが、察しの悪い私でもわかる程に落ち込んでいる状態だ。さぁどうしよう。
完全に私のせいだ。私が話を振ってしまった事で、レニアさんに辛い過去を思い出させてしまったのだ。
こう言う時ってどうしたらいいんだろう…
下手に慰めても逆効果だろうし、うーん。
考えていた私に一つだけ、私にとっての名案が思い浮かんだ。
そして私は、レニアさんに話しかけた。
ーあの、レニアさん。レニアさんは、何か夢とかありますか?
「ゆ、ゆめ?って、いきなりどうしたの?」
私の唐突すぎる質問にレニアさんは戸惑っていた。
ー突然すぎるのはわかっているんですが、レニアさんの夢を聞きたいなと思いまして。
あぁもちろん、レニアさんが嫌なら無理には聞きませんから…
「そ、そんな‼︎ 嫌とかはないよ‼︎
え〜とそうだなぁ、私の夢はね、
人間の生活をしてみたい‼︎ かな。」
ー人間の生活、ですか?
「うん、ちょっと長くなるけどいいかな?」
ーえぇ、もちろん。
「私が小さい頃に住んでいたのが人里に近い山だったの。
でも人間達は『山は危険だから立ち入り禁止』にしていたから、特に人間に見つかる事はなかったんだ。
私たちも、人に見つからない様、山の中心部で暮らしていたし。
でも、山の中で暮らしているのは私達だけじゃない、他の生き物もいるから、段々食べられる物がなくなってきちゃってね。
私達の群れは別の所に引っ越す事にしたの。
引っ越す時間は夜だったのだけど、どうやらその日は里の人間達がみんな集まっていたんだ。
後で長老に聞いたら『お祭り』というものだと知ったんだ。
私は遠くでそれを見かけてね、楽しそうだなぁと思って、木の影からこっそりのぞいていたの。
この時、私は初めて人間を見たの。
そしたら、みんな笑っていて、踊っている人や、何か食べたり飲んだりしている人がいて、みんな幸せそうだったの。
中でも特に楽しそうに踊っている人がいてね、子どもかな?周りの人よりは少し小さい気がしたから多分だけど。
まぁこの後、群れにいない事に気づいたお父さんに連れ戻されて怒られちゃったんだけどね。
でもその時に思ったの。人間ってどんな暮らしをしているのかな?って。
ザルドフ族に、お祭りというものは無いし、食事もあんなに幸せそうにしていたのがすごく不思議に思ったの。
それ以降、私は、人間の生活をして、あの時の人間達の感覚を知ってみたいと思う様になったんだ。」
ーそれがレニアさんの夢、なんですね。
「うん。まぁでもこの身体じゃ無理なんだけどね。
身体が大きすぎたせいで人に見つかった時、そして討伐しに来た時も、人間達の目は明らかに私を
『敵』として見ていたからね…
この時に思ったの。『あぁ、私の夢は叶うわけがなかったんだ』って。」
レニアさんはそう言って寂しそうに笑った。
だが、私はそのレニアさんの夢を「聞くだけ」にはしたくなかった。
ー私、もしかしたらレニアさんの夢を叶える事が出来るかもしれません。
「え?」
少し驚くレニアさんを前に、私は話を続けた。
ー先程、魔法で「言葉を使える」様にしたのと同じ様に、今度はレニアさんを人間にする魔法を使うというものです。そうすれば、レニアさんも人間と同じ生活が出来るかもしれません。
「そ、そんなこと出来るの⁈」
ー但し、初めて使うので正直確実に成功するという保証は出来ません。
しかし先程の魔法は成功したので、同じ様にすれば大丈夫なはずです、多分。
それでもやってみますか?
「……うん。可能性があるなら、やらないで後悔するよりは、やって後悔した方がまだいいと思う。」
うつ伏せのまま、レニアさんは一度ゆっくり瞬きをしてそう言った。
よし、そうと決まれば早速取り掛かろう。
まずは魔法を作る所から…と、通常ならばこの工程から入るのだが、今回はここはスキップして大丈夫だ。
なぜならすでに魔法は作られているからだ。
本来であれば、私自身が使おうとしていた魔法。
『なりたいものになる魔法』をここで使用するのである。
では、レニアさんに付与する為に呪文をつけますかね。
なりたいものになる=変化=変身、て事は…
もうこれしかないよね。
「メタモルフォーゼ」
私の目の前に「呪文が決定されました」の表示が出たので、呪文を付けるのには成功した。
後はこの「メタモルフォーゼ」をレニアさんに向けて、届けーー!!!!!!と念じる。
そして今度は「魔法が付与されました」の表示が出たので、魔法付与も成功したみたいだ。
私はレニアさんに魔法を付与した事を説明した。
ーレニアさん、お待たせしました。今レニアさんには「なりたいものになる魔法」を付与しました。これでレニアさんのなりたい人間になる事が出来るはずです。
では、先程と同じ様に、私に続いて呪文を唱えてください。
「うん。わかった。」
ーメタモルフォーゼ
「メタモルフォーゼ」
するとうつ伏せのレニアさんの身体が突如光に包まれた。
かと思ったら、包んだ光は球体の様な形に変化した。
ーレ、レニアさん⁈レニアさん⁈
大丈夫ですか⁈
突然の事に私は慌ててレニアさん(を包んだ光)に向かって必死に声をかけたが、返事がない。
魔法は成功したのか、大丈夫なのだろうか…
光に包まれたレニアさんを見ながら、私は不安と心配で胸がいっぱいだった。
するとついに、光の球体が弾けた。
そして中から現れたのは…
13歳くらい?の少女だった。
髪はブラウンのロングヘアー。
紫色でガラス玉の様に綺麗な大きな瞳。
小さな唇にあどけない表情が堪らない。
服はクリーム色の長袖ワンピースに白いエプロン、西洋の町娘の彷彿とさせる様である。
正直言うと、めちゃくちゃ可愛い。
もうほんと、最高としか言いようのないくらい、顔といい、髪といい、服といい、全部が私の『理想の少女』を超えていた。
もし今、私が人間の時のままなら間違いなく顔面崩壊の不審者と化していただろう。
…しかし、ちょっとだけ疑問がある。
「なりたいものになる」とは言ったが、それにしてもやけに凝っている様な気がするのである。
レニアさんは誰かを想像したのかな?
新しい姿になったレニアさんは、自分の足下を見たり、自分の両手を暫く見ていた。
するとレニアさんは、私に向かって話した。
「すごい、私、本当に…人間になれたんだ‼︎」
レニアさんは可愛らしく笑った。そして
「どんな顔なのか見てみたいな」と言った。
そこで私達は、先程の湖の所まで戻る事にした。私は歩くと遅いので、レニアさんに頼み、抱き抱えて運んでもらった。
そして湖で自身の顔を見たレニアさんは、さらに嬉しそうな顔をして私に言った。
「やっぱり、私があの時に見た人間と同じ姿になってるの!」
ーあの時?
「うん、ほら、さっき話したお祭りの」
ー特に楽しそうに踊っていた子、ですか?
「そうそう‼︎ あの子みたいになりたいな〜と思っていたら本当にあの子と同じ姿になっちゃった‼︎ すごいなぁ〜! 」
レニアさんは嬉しそうに私を抱き抱えたままくるくる回った。本当に嬉しいのがこっちにも伝わってきて、何だか私も幸せな気持ちになった気がする。
憧れの魔法少女になる筈が、ちんちくりんな珍獣(マスコット?)に転生して、チート魔法を手に入れたかと思えば、自分は使えないというかなりのデメリットがついていて…と、散々で最悪な気分だったが、今は割と悪くないかもしれない、そう思っている自分がいる。
レニアさんの笑顔を見ながら、私はそう思った。
するとレニアさんは抱いていた私を地面にそっと降ろした。
そしてレニアさんは私の正面に向かって地面に正座した。
「妖精さん、私の夢のために魔法をかけてくれて本当にありがとう。」
そう言うと、ぺこりと一礼した。そしてレニアさんは話を続けた。
「私ね、妖精さんに恩返しがしたいんだ。私に出来る事に限られちゃうけど…でも、何でもするよ。」
ーそんな、大丈夫ですよ。
「そんな訳にはいかないよ‼︎お願い、何かさせて欲しいの」
レニアさんは私に向かって強めに訴えた。
そうは言っても、本当に何も無いんだよなぁ。
あ、それならこれはどうかな?
ーじゃあ、私と友達になってくれませんか?
「友達?」
ーえぇ、実は私はこの世界でまだレニアさんとしかお話しした事がないのです。そしてレニアさん以外の種族も見た事がないのです。
ですから、レニアさん。あなたが私の友達になって色々教えてくれませんか?
「なるほどね。もちろん良いよ‼︎ というか、妖精さんと友達になるって、すごすぎるよ〜」
レニアさんは目をキラキラさせていた。
ーよろしくお願いしますね、レニアさん。
私はレニアさんに向かって一礼した。
すると、レニアさんは何か思いついた様子で私に向かって話しかけた。
「レニアさん、じゃなくて、レニア、って呼んでよ。友達なんだし」
ーそ、そんな、まだ出会って日が浅いですし、呼び捨ては…
「あと、それ‼︎ その…なんか難しい喋り方‼︎
それも友達なんだから普通の喋り方で良いよ‼︎」
ーえぇ、そんなぁ…。
元人見知り陰キャの私にとって、『タメ口』や『呼び捨て』等はある程度段階が必要だと思っていた。
しかし、こうも簡単に段階をすっ飛ばされるとは想定外だった。
ザルドフ族のコミュ力、恐るべし。否、もしかしたら彼女のみの特性かもしれないが。
ーというか、貴方だって「妖精さん」付けで呼んでいるじゃないですか。不公平ですよ。
「妖精さんは特別だから良いの‼︎ 」
ー自分勝手すぎるでしょ⁈
「あ、ようやく普通の喋り方になったー!」
しまった。つられてしまった。
「ふふ、改めて、よろしくね。妖精さん。」
にっこり笑うレニアさん。
ーよ、よろしくお…じゃなかった。
よろしく…ね。レニア…
「んん〜よく聞こえないなぁ〜」
私よりも大きな声で、彼女は私に意地悪っぽく言った。
ー〜ッよろしくね‼︎‼︎ レニア‼︎‼︎‼︎
ヤケクソになった私はさらに大きな声で返すのだった。
そんな私を見て、レニアはご満悦の様子であった。
こうして、私は、魔法の世界で初めての友達が出来たのであった。
漸く話を少しだけ進ませる事ができました。
ただ、まだまだ本筋に入っていないので、とりあえず早く投稿できる様頑張りますのでよろしくお願い致します。