珍獣(マスコット)、魔法世界に降り立つ
…うん、一旦空を見るか‼︎
顔を上げ、空を見上げ、心を落ち着かせる。澄み切った空を10秒くらい見てから再度湖を見てみると…
…水面に映るのはピンクの珍獣。
2度目のご対面である。熊のぬいぐるみの様な、否、熊では無いか?大きな頭と、それを支えるには不釣り合いな程小さな身体に短い手足。とにかくファンシーな見た目の可愛い姿が映っていた。
…うん、一旦空を見るか‼︎
顔を上げ、空を見上げ、心を…
ー以下略ー
…この行為をあと10回以上繰り返してようやく現実を受け入れられる様になった。
何これ。少女どころか人間ですらねぇんだけど。どうしてこうなった。
前言撤回、やっぱ受け入れられてねぇわ。
こいつぁ一体どういう事ですかいステラさんよぉ…私は伝えたぞ「とびきり可愛い少女で」と…
あれ?待てよ?そういや私「可愛い少女」では無く「可愛いので」と伝えたんだっけ?まぁ急に聞かれて焦って答えたせいで「少女」を言うのを忘れたのだが…
…もしかして、この姿がステラにとっての
「とびきり可愛い姿」なのか?
だとしたら辻褄が合ってきた。私はあの時、とびきり可愛い「少女」とも「人間」とも言わなかった。確かにこの姿は可愛い。もし、ステラにとっての可愛い=ぬいぐるみ等のファンシーな見た目の、すなわちマスコットの様な生物の事だとしたら…この姿になったのも納得がいく。つまりは互いの解釈が違っていたという事か。私にとっての可愛いが木○本さ○らちゃんなら、ステラにとってはハ○ーキ○ィ というわけか。成程。成程。
完っ全にやらかしたーーーー!!!
元凶はステラでは無く「少女」そして「人間」と言わなかった私じゃねぇか!!!!!!
ごめんなさい私の伝達力がカス過ぎたばかりにとんでもねぇ事になっちまった。最悪すぎる。これって今から変更出来んのかな?頼む変更出来るシステムであってくれーー!!
「ピコン」
私の心の叫びに応えてくれたかの様に、いきなりふと目の前に封筒の形をしたマーク?みたいなものが現れた。とりあえず触ってみると、マークは変形し、文字が書かれた紙に変形した。文末に「ステラより」と書いてあったのでこの手紙はステラからので間違いないだろう。早速読んでみる。
「転生おめでとうございます。新しい身体はどうですか?とても可愛い姿になっていると思います。」
ー確かに可愛いんすよ、でも私の求めてた理想とは異なってるんすよ。まぁ、とりあえず読み進めよう。
「早速この世界についてご説明します。転生前にお話しした通り、この世界は魔法が存在します。
基本的に魔法、そして魔力が重要視される世界です。
その為、優れた魔法使い、若しくは魔力を持つ者であればあるほど地位と権力を有する事が出来ますが、逆を言えば魔力が少ない者は疎まれ、侮辱される傾向にあります。
この現状をどうにかしたいのは山々ですが、神は自分の世界の全てに過干渉してはならないというルールがありましてね。何も出来ず野放しになっている状態です。
貴方への固有魔法付与や姿変更等はまだ私の世界に転生する前だったので、大丈夫だったのですが、これ以上の干渉はルール違反になってしまいますので、姿や固有魔法の変更は出来ないので悪しからず」
ーはい、終わったーーー。変更出来ませんね最悪だーーー!!!
ーいや待てよ、この世界は魔法が存在するんだよな。だったら姿を変える魔法とかあるのでは⁈固有魔法とやらもプレゼントしてくれたみたいだし、まだ希望を捨てちゃいけない。
「では次に、改めて固有魔法の説明をしますね。
固有魔法は特殊で、通常の魔法とは異なりその者にしか使用出来ない唯一の魔法の事を指します。使用者が少ないのと、場合によっては狙われやすいので固有魔法が使える事は隠しておいた方が賢明ですよ。」
ー狙われる?確かに使用者は7人しかいないって言ってたけどやっぱり貴重な存在だからなのかな?
「それでは早速、あなたの固有魔法を発表しちゃいまーす‼︎」
遂にこの時が来た。ここで私の異世界生活の運命が決まると言っても過言では無い。さて、一体私の固有魔法はどんなものかー。
「貴方の固有魔法は『奇跡の作り手』。どんな魔法も自由に作り出す事が出来る魔法です。」
ーどんな、魔法も、自由に、作り出す?
よっしゃ勝ち確ーーーーー!!!!!
ありがとうステラ様!!死んでも信仰しますわ。魔法を自由に作れるって事はあれだよね?可愛い少女に変身する魔法とかも作れるって事だよな?そうすりゃこの珍獣の姿ともおさらば出来る‼︎
一気に希望が見えてきた。憧れの魔法少女になって魔法の世界を冒険する、この夢が現実味を帯びてきたのは本当に嬉しい。それじゃあ早速この固有魔法とやらを使ってみますかね。と、その前にどうやって魔法を使うのか知らないといけないよな。先に手紙の続きを読もうか。
「奇跡の作り手を使用する時は、自分が作りたい魔法を頭の中で強くイメージして下さい。すると目の前に、『新たな魔法が完成しました』という文字が表示されます。これが表示されると、魔法の作成に成功したという事になります。」
ー成程。魔法を作る為には想像力が重要という事か。想像力は長年鍛えているから問題ないだろう。誰しもが罹る中二の病の時に最強の魔法とか考えていた時が懐かしいな。
では練習がてら、奇跡の作り手とやらを使用してみますk…
ドシィィィィィン!!!
ドシィィィィィン!!!
…地響きなのか、爆発音なのか。わからないが明らかにヤバめの音が少し遠くから聞こえた。そしてこの音は鳴り止まない。それどころか段々と音が大きく近くに聞こえる様になってきた。察しが悪いといつも言われる私でも流石にこれは察しがついた。間違いない。多分これはー、
魔物か何かの足音だろう。それも巨大な。
湖の水を飲みにきたのか、足音は私のいる湖に近づいてくる。
まずい、ここら周辺は見渡す限りかなり開けている。身を隠せるような木々が生い茂った場所までは地味に遠い。人間なら走って数分くらいで着きそうだが、この足じゃ多分20分経っても半分も進めないだろう。どうしよう。
…そう絶望した矢先、うっかり忘れていた事を思い出した。そうだ、私魔法使えるじゃん。
まずはこの湖から離れる事が最優先だ。早速魔法を作るとしますかね。えーと、この湖から走って逃げたいから、人間…よりももっと速く走れる動物の方が良いかな。チーターとかか?でもチーターになる魔法か〜今後も使うかってなると微妙だよなぁ…あ、そうだ。これならどうだろう。
「なりたいものになれる魔法」
これならチーター以外の動物にもなれるし、人間にもなれるし、今後も使える便利な魔法だよね。
えーと、強くイメージするんだよね、なりたいものになれる魔法、なりたいものになれる魔法…すると目の前に突然、文字が現れた。
『新たな魔法が完成しました』成程、これが成功の証か。て事は魔法が作れたんだな。じゃあ早速…
って、あれ?作った魔法ってどうやって使うんだ?作り方の説明から下を読むの忘れちゃってたわ。急ぎで読むか。と、まだ表示されていた手紙の続きを読んだ。
「因みに、あくまで奇跡の作り手は魔法を作成する魔法であり、作成した魔法は作成者本人が使用する事は出来ません。作成した魔法を他者に与えて使用させる事は可能ですが。」
ーは?え?は?作った魔法は使えねぇ?嘘だろ?て事は私の固有魔法はただ魔法を作る「だけ」の魔法って事?
最悪なんだけど!!!!!!
ーいや待て、まだ諦めちゃいけねぇ。
咄嗟に閃いたんだが、魔法を作る事しか出来ないなら「自分で作った魔法が使える魔法」を作れば使用出来る様になるのでは?物は試しだ。早速作って…と、いう私の目に手紙の続きが目に入った。
「因みに、『作成した魔法を作成者本人が使用出来る魔法』は作成出来ませんのでご注意を。あと、固有魔法の使用者は自分の固有魔法以外のあらゆる魔法が使用出来ません。再度忠告しますが、固有魔法の使用者は、特に貴方の様な魔法を持つ方は特に狙われやすいのでお気をつけて ステラより」
ふと目に入ったと思ったら、幾つかのとんでもねぇ事実が淡々と書かれていた。
え?え??じゃあ私、魔法使えないって事?
実質そういうことになるよね?
ーステラ様ぁぁぁぁ?!?!?!?!
私魔法使えないじゃ無いですか、話が違うじゃ無いですかどういう事すかステラ様いや
ステラァァァァあ"?!?!ふざけんなよマジで何も出来ねぇじゃねぇかよ。身体こんな小せえピンクの珍獣だし。魔法も自分で使用出来ねぇなら意味ねぇだろうがよぉ!!ほんと最あk…
ドシィィィィィン!!!!!!
私が荒ぶっている間にも魔物(仮)は近づいてくる。段々と全貌が見えてきた。
魔物(仮)の姿はドラゴン、否、どちらかと言えば怪獣みたいな奴だろうか。周囲に立派に聳え立つ木々が小さく見える程の大きさである。
紫の体色が何ともシュールだが、某怪獣映画さながらのゴツくて迫力のある姿を見た私は、夢の異世界生活が怪獣擬きの魔物(仮)に殺され即終了する想像しか出来なくなっていた。