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8・ロシアショック

 平成十七(2005)年には再選を果たしたオバハン政権はさらに踏み込んで解放政府と人民政府の停戦交渉を取り持とうとするのだが、合意に至れず民間人犠牲者は増え続けていた。

 そんな中、北天政府はロシアを後ろ盾に平成十七(2005)年5月8日に満州共和国として独立を宣言し、ロシアとの間に国交を結んだ事を発表した。

 この独立宣言に対して人民政府はすぐさま反応し、ロシアによる侵犯行為であると非難声明をだす。

 翌月にはさらに国家承認する国が続々現れる様になり、日本も米国や台湾と足並みを揃えて国家承認を行った。

 こうした世界の動きに対して人民政府は海上航路の封鎖を行い、満州共和国は反乱勢力であると宣言するに至る。

 そのさなかに今度は海南島も海南民主共和国として独立を宣言、米国が仲介した和平合意を破り解放政府による攻撃が再発し、米国は再び空母機動部隊を南シナ海へと派遣する事になる。


 黄海における海上封鎖には日本が対応にあたり、イージスシステムを代替する国産防空システムFCS3Aを搭載した護衛艦きりがみねを基幹とする艦隊を派遣して封鎖解除を要求した。


 この行動に対して人民政府は「日本の侵略的意図が顕在化している」と批判。沖縄や八重山諸島へ弾道ミサイルを発射するとともに攻撃機を出撃させて九州爆撃を目論んだ。

 自衛隊はこの時、E-2Cを補完、代替する独自の早期警戒管制機の配備がようやく叶い、九州、沖縄方面で運用をはじめたばかりであった。


 これもまた、離米宣言の影響からE-767の輸出を拒否された結果である。

 ベースには三菱とミグによって共同開発された小型旅客機MMJが採用され、機体上にフェイズドアレイレーダーの板を立てらした外観をしている。


 低空侵入を図った人民政府軍機であったが、早期警戒管制機EP-1に捕捉され、築城基地から発進したF-2によって撃墜される。この攻撃に対して日本は策源地攻撃を実施し、F-2Bを改造した電子攻撃機の初の実戦投入も行われ、成功裡に作戦を遂行し、国産電子攻撃機の能力を内外に示す事にもなった。

 この事件のあと人民政府は海上封鎖の解除を表明し、満州共和国を事実上黙認する。


 ただし妨害行為が行われなくなった訳では無いので、日本のきりがみね型や米国のイージス艦が常に黄海において監視活動を継続する事になった。


 これ以降の中華紛争は対外的な攻撃は抑制され、他の多くの勢力を配下に納めた人民政府、解放政府、民主政府のいずれが中華を主導するのかという武力による政治闘争が主となり、対外的には一応の平穏が訪れ、日本も内政に目を向ける余裕が生まれた。


 この頃の日本は異次元の円借款の返済を地下資源によって受け取る事で経済を回していた。

 小田沢が打ち出した消費税20%は安野辺が撤回し、戦後レジーム打破を訴え財政法を改正する事で国債発行の制限を緩和、不足する防衛費は国債発行により賄う様になっていた。


 韓国では北部平定という特別事態の発生を受けて金大准が非常事態を宣言して任期を延長していた。

 金大准は平定事業と並行して日本との関係緩和へと舵を切り、米韓相互防衛条約の改定にも尽力する。

 こうして韓国に駐留する米軍は中華を睨む体制を敷き、韓国は北朝鮮を抱え込んだ事で再びゼロからの再出発を余儀なくされ、豊かな南と困窮する北の対立解消に腐心する事になった。


 一見して平和を取り戻した様に見えるアジアであったが、日本では安野辺晋三が体調を崩して退陣すると政治が混乱し、過重な防衛費や対外戦争に批判的な勢力が平成二十一(2009)年に政権の座を手に入れ、鴨山有紀夫が総理に就任した。

 しかしロシアとのパイプを自慢していた鴨山は、円借款返済交渉の席上「最低でも円、理想はドル返済」と語り、交渉をひっくり返してしまう。

 後に「知れば知るほど対露円借款の意味を理解した」とインタビューに答え、従来通りの現物返済を継続したのだが、日露間に亀裂が走った事は間違いなかった。


 そんな鴨山は1年で総理の座から引きずり降ろされ、あとを継いだ鹿場直人(かのばなおと)は平成二十二(2010)年9月、尖閣諸島で哨戒中の巡視船に衝突事件を起こした中華船籍漁船への対応で映像隠蔽を行い、平成二十三(2011)年3月に発生した東日本大震災においても不手際を多発し、野間吉彦へと総理の座を譲った。


 こうした政治の混乱が国内で生じている間、満州共和国でも政変が巻き起こっていた。 

 ロシアに後押しされた王日州政権は選挙で敗北し、親米の呼登仁が後継政権を率いる事になる。


 これを仕掛けたのはパラディン・オバハンの後を受けたアール・ゴーヤ大統領であると云われている。

 平成二十五(2013)年に安野辺晋三が政権に返り咲き、満州問題で拗れた米露の仲介に乗り出し、何とかまとめ上げるのだが、世界に目を転じればゴーヤ政権の仕業と見られる政変騒ぎに溢れていた。


 平成二十六(2014)年2月にはロシアがクリミア半島を併合する事態となり、日本の対ロシア政策が問われる事態となるが、前年の満州合意もあって米国は日本を擁護、欧州とアジアの情勢は別であると示す結果となった。


 ただ、米国とロシアはアラブ革命がシリアに及ぶと直接介入する事になり、両者の武力衝突が懸念された。

 ロシアがシリアへミグ35を配備した事も、欧州諸国に日本への不信感が募る結果を招くのだった。


 こうした不信感の捌け口とされたのが中華であり、フランスやドイツは民主政府に近づき、技術や資金提供を行っていた。


 その成果が民主政府が人民政府や解放政府へとばら撒いた兵器類であり、その代表格が成都航空工業公司が開発した殲撃10という戦闘機だった。

 機体はどこかラファールを彷彿させる小型双発機であり、幾ら関与を否定しようにも無理があった。


 平成二十八(2016)年10月、人民政府軍准将である中勇が唱えた満州征服計画が明るみに出る。

 人民政府はそのような行動計画は一切存在しないと表明するものの、満州共和国は人民政府の侵攻に備えた軍備増強を開始し、それに応えて日本が余剰となったF-2A戦闘機を60機供与する事を表明し、日満の連携をアピールする事となった。

 

 日本ではミグ社との共同開発が開始された時点から、次世代機開発の資料として1.44の資料も受け取っていた。

 さらにミグ社がSu47の飛行に対抗するために1.44を飛行させるための資金も提供し、第五世代実用機の共同研究を開始している。

 この研究から次期主力戦闘機計画が生まれ、平成十三(2001)年に防衛大綱で示されたロードマップに従い開発を進め、平成二十一(2010)年にはXF-3実証機を飛行させる。

 XF-3では炭素繊維複合材の使用範囲も大幅に拡大され、主翼は一枚の大きな炭素繊維構造物として製造されている。

 ミグ1.44をプラッシュアップしてステルス性を実用範囲まで高めた機体はカナード翼が無い事や尾翼がV字となった事などから外見上は全く別の機体となっているが、基本コンセプトは踏襲されていると言われる。

 量産型の初飛行は平成三十一(2019)年2月となり、平成十三(2001)年大綱から1年遅れとなった。

 こうして日本とロシアの関係は紆余曲折がありながら平成の終わりまで続くことになったが、令和四(2022)年2月に発生したウクライナ征服に続く北方領土占拠によって唐突に終焉を迎えた。


 この時ロシアはミグ35電子戦型を多数投入して緒戦でウクライナの防空網を破り、僅か1週間で首都キエフを掌握、ヨブ・トリューニスキー大統領を拘束した事であっけなく成功を収め、欧州では技術協力を行っていた日本への批判が巻き起こる事となるが、プチャーニンは返す刀で3月3日には択捉、国後へと軍の再配備を行うとそのまま色丹島や歯舞諸島へとロシア軍を上陸させ、日本を慌てさせた。


 色丹島には元島民が帰還を果たしたが、そもそもの産業が無い事からロシア人島民との共生が図られ、令和四(2022)年における島の人口2356人のうち、1482人が永住ロシア人であった。歯舞諸島は諸島全体が根室国立公園に指定され、恒久的な営利建造物の建設や定住が禁止されており、ロシアは難なく占領に成功している。さらに同日を持って択捉、国後への自由渡航も禁止され、滞在者は即日帰国を命じられることとなってしまった。日本は円借款やパイプライン、在ロシア日本人の問題を鑑み、即時自衛権行使を行う事をためらった結果、クリミア併合を踏襲したかのような事態が引き起こされ、日露関係は完全な終焉を迎える事となってしまった。


 こうして平成のはじまりとともに始まった夢は、平成と共に終りをむかえる事となってしまったのである。

 

 

さて、最後は劇的な急展開を見せたが、ハト・・鴨山が日露関係にデッカイ楔を打ち込んで不信感を持たせ、安野辺が米ロ関係を取り持って満州合意を引き出せたからと言って、それで安泰な訳がない。


 この物語はX上に屯する親ロ論者達のお花畑がベースにある。


 エリツィンが川奈合意や東京宣言の時点で北方領土問題を解決して円借款や日本からの支援を受けていれば、確かに2010年頃までは良好な関係を築けたことだろう。そこは否定しない。


 しかし、それが以降のプーチンの行動に影響を与えたか?となると疑問しか無く、クリミア併合は北方領土併合に置き換わったかも知れない。


 少なくとも、今回描いた様に、ウクライナ侵攻と同時進行ないし、直後に実行される事になっていた事は否定出来ないんだが。


 そんな考えを放り込んだのがこれ。


 ゴーヤ政権はドールの短期決戦とオバハンによるイラク撤退で現実ほどの疲弊がない経済、軍事力を有している。

 2020年にはゴーヤは引退し、バイデンに相当する人物が政権を担う状況だろうから、その失政を利用してウクライナ掌握、北方領土併合を実行したプチャーニン。


 まあ、このあとは経済力が現実を越えるロシアと疲弊してない米国による第二次冷戦に突入し、中華で代理戦争が派手に行われ、日本が火の粉を被り、欧州は衰退するんだろうな。


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