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5・世界同時動乱

 平成九(1997)年、政権の座に返り咲いたボルス・ドールはビッシュ・クリントフが作り出してしまった「消極的で弱腰なアメリカ」というイメージを払拭するための行動に腐心する。


 平成十(1998)年8月、米国はアフリカにおいて大使館同時爆破テロを受けてスーダン、アフガニスタンに所在するアルカーイダ施設を攻撃するため空母機動部隊を展開し、攻撃を行った。

 この攻撃によってアフガニスタンにあったアルカーイダキャンプを徹底的に破壊したものの、オサマ・ビン・アラディンを取り逃がす事となる。


 翌平成十一(1999)年3月から6月にかけてコソボ紛争への介入に際して積極的行動を行い、クリントフ政権の弱腰を払拭するため大規模な地上部隊の展開を厭わず、他国軍に先駆けてコソボ入りを果たす事となった。

 こうしてアメリカの威信を回復したドールは平成十二(2000)年の大統領選挙において見事再選し、雪辱を果たす事となった。


 欧州や中東においてこのように積極的な介入を行うドール政権であったが、時を同じくして事態の悪化が顕在化していたアジア情勢に対しては声明こそ発するものの、具体的な行動をとることはなく、横須賀を拠点とする第7艦隊ももっぱら中東での作戦のために展開する事が多かった。


 それは小田沢が望んだ事でもあり、平成八(1996)年に改定したばかりの防衛大綱を危機が顕在化した平成十三(2001)年には早くも改定し、在日米軍の撤退によって生じた空白を埋めるために航空自衛隊と海上自衛隊の大幅拡充を軸とした改定を行った。

 この大綱改定において海上自衛隊は悲願であった垂直離着陸機を搭載する航空護衛艦(強襲揚陸艦)4隻を整備し、米国が輸出を2隻で停止したイージスシステムを代替可能な多機能防空システム艦の配備を明記している。

 これを見越したようにヤク141を購入して研究を行っていた川崎を中心とする企業連合は即座に呼応して実用機開発を開始し、ロシア側も全面協力を申し出ることで順調に開発が進み、航空護衛艦ひゅうがの就役した平成二十三(2011)年までにFV-1を完成させている。 


 航空自衛隊は配備の開始されたF-2戦闘機を当初計画の142機から大幅に増やし360機とする事、すでに開始されているミグ社の先進実証機1.44をベースとした次世代戦闘機計画を促進し、平成三十(2018)年を目標に配備実現を目指すとされた。


 こうした計画を実現するため防衛費のGDP1%制限を撤廃し、2~2.5%とすることも明記されることとなる。

 ただし、陸上自衛隊は整理コンパクト化し12万人まで削減、総務省消防庁に広域即応災害救助隊1万人を創設し、有事には自衛隊指揮下へ移管するという新たな方針も打ち出されている。


 その様な大改革を始動させた小田沢だったが、平成十三(2001)年9月11日、アメリカ同時多発テロの発生によって選択を迫られることとなった。


 911テロを受けてドール政権は即座に自衛権の行使を表明し、実行犯であるアルカーイダの首謀者オサマ・ビン・アラディンの引き渡しをアフガニスタンへと要求した。


 アフガニスタンはこの要求を拒否するも、国外追放とすることで米国との直接交戦を避ける方針をとる。

 こうしてオサマ・ビン・アラディンとアルカーイダはアフガニスタンと境を接するトルキスタン解放政府に引き取られることとなる。

 トルキスタン解放政府は中華人民共和国の分裂によって生まれた勢力の一つであり、中央アジアと境を接する西北部に位置し、漢民族から差別を受けるウイグル人によって構成されていた。

 ここには敵対関係にある人民政府寄りの回教軍閥も存在し抗争を繰り広げており、ドール政権は介入をためらった。

 代わって日本に対して人民政府を介してどうにかしろと要求するに至る。


 中華圏はこの時、中国共産党地方政府並びに中央政府を祖とする五つの政府が乱立し、さらにトルキスタン、チベット、内外モンゴル、朝鮮族などと言った反政府勢力、さらには軍閥化した軍部隊が乱立する状態になっており、五毛十六国などと称する者まで居る戦国状態であった。そのうち比較的穏健なのはICBMを有し他からの侵攻を受けにくい重慶に在した民主政府であったが、民主政府と交渉を持ったドール政権は、「中華に踏み入るなら核攻撃も辞さず」という警告を受ける事となった。

 そんな中華世界に日本が介入するなどあり得ないというのが小田沢の考えであり、米国が自衛権行使を表明している事を逆手にとり、「国連安保理による集団安全保障措置でなければ協力できない」とドール政権の要求を拒否する事となる。


 民主政府の言い分からすれば日本の台湾支援も該当しそうなものだが、人民政府や解放政府という「敵」を狙うだけの日台による戦争は利用価値があると考え、一切介入する意思を見せていなかった。

 これは瀋陽を拠点とする北天政府にも似たような事が言える。

 北天政府は独自にロシアと交渉を持ち、人民政府をけん制する条件を呑めば沿海州経済圏に参加する旨を伝えていた。

 それは朝鮮半島において韓国軍が治安維持を理由に北進し、高句麗故地奪還を旗印に北天政府を攻撃する朝鮮族勢力と結託して遼東半島へと侵攻してくることを阻む目的も含まれていた。こうした目的から日本とも比較的良好な関係を築くことに成功している。


 こうした中華情勢を理解できないドール政権は振り上げた拳の降ろしどころを見失い、鬱憤をためることになる。


 日本が動かず、ロシアへの働き掛けも芳しくない中でオサマ・ビン・アラディンは新たなテロ計画を実行し、ペルシャ湾やアラビア海沿岸に展開する米軍艦へと自爆攻撃を仕掛けていく。


 中東において複数の艦艇が被害を受ける中、拳の振り降ろし先としてドールが目を付けたのがイラクであった。 

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