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31.ナナシ

ナナシに残るもっとも印象的な記憶は騎士によって両親が殺されるところだった。どうやら彼女の親は盗賊にさらわれて人質になっていたのだが、助けに来た騎士たちに盗賊と間違えて斬られてしまったようだ。盗賊たちも元は村人であり服装が似ていたのが原因であった。そして、保護された彼女は孤児院に送られることになる。

 両親と死に別れたのはつらかったけど、周りには同じような境遇の人間がたくさんおり、しばらくすると心の傷も癒えてきたときだった。



「あなたもそろそろ良い歳ね。訓練に参加しなさい」



 孤児院で生活していた彼女が院長にそう言われたのは七歳の時だ。今ならばわかるがこの孤児院は盗賊ギルドが管理しており、ギルドで使える人間を育成する場所だったのだろう。

 同世代の少女が集められて一年間体力づくりや、ナイフの使い方、鍵の開け方などを習って素質アリと判断されたものは盗賊ギルドへ、ないものは孤児院に帰り日常へと戻っていった。

 


「その加護は面白いわね。私の元で学びなさい」



 そんな中ナナシはのちに師となるデネブにその力を見初められ、直接盗賊としての技術を習うことになる。その訓練はとってもつらかったけど、頑張ったら褒めてくれるし、美味しいものもくれて彼女にとっては悪いものではなかった。

 彼女にとってデネブは親代わりだった。彼女が教えてくれたのは技術だけではなかった。悪いことをしたら叱られてるということ、同世代の人間との交流方法、テーブルマナーなど多岐にわたった。まるで親みたいで……悪い気はしなかった。

 そして、一緒にデネブに習っている子たちとの生活は存外悪くなかった。いつまでも若いままのデネブのことを魔女ババアと誰かが言った時は連帯責任でトラウマになるほど怒られたし、訓練もつらかった。だけど、まるで家族のように暮らすのはとっても楽しかったのだ。

 そうして、彼女は一人前の盗賊を目指して一通りの訓練をすまし、試験になった時だった。



「それじゃあ、二組になって敵だと思って殺すつもりで戦いなさい」



 デネブの指示で最も親しい友人であるアンリと戦った時だった。ナナシの訓練用の刃がアンリの首筋に刺さりそうになって……


 

 両親が殺されるシーンがフラッシュバックして吐いてしまった。



 心配そうにかけよってくるアンリとデネブ。そんな彼女たちにナナシは泣きながら叫ぶ。



「私は人を殺せない……悪人だと間違えて殺すのがこわいんだ……」



 その涙ながらの訴えにデネブは少し考えてから口を開く。



「わかったわ。ならば今は誰を殺せなんて言わない。そのかわり、その主のための刃となるための鍛錬は積みなさい。今のあなたの実力は中の中よ。そのハンデを持ったままでも将来使えたいと思った人の役に立てるように頑張りなさい」

「それで……いいの?」



 意外にもデネブが人殺しを命じることはなかった。むしろ、どうすればいいかを導いてくれたことに驚きと共に嬉しさを感じたものだ。



「ええ、だけど、いつかあなたも決断する時がくるわ。その時は主の判断に従って相手を誰かを殺すかもしれない……そのことだけは覚えておいて」

「うん、わかった……」



 そして、ナナシは高い技術を持ちながらも人を殺さない盗賊として、盗賊ギルドで活動することになり、グレイブと出会うのだった。

 人を殺せないという彼女をそれでもほしいという彼にナナシは好感を覚え、デネブに彼の元で働きたいと訴え今回の茶番が行われたのだ。

 そして、そこでまた予想外のことがおきる。邪教の襲撃である。海魔の攻撃を受けて負傷し発情しているアンリを避難させたはいいものの圧倒的物量に絶体絶命だった時に彼は助けにやって来てくれたのだ。



「グレイブ……助けてに来てくれて嬉しい……だけど、危険だよ。私のことは見捨てて……」

「いやだね!! 言ったろ、おまえは俺のものだってな!!」

「グレイブ……うれしい……」



 その一言で胸がポカポカと熱くなり、ナナシは確信する。彼こそが自分の主なのだと……デネブがいっていた存在なのだと。

 そして、敵を追い払って二人っきりになったナナシは熱い気持ちを胸に忠誠を誓うのだった。



「大丈夫……私は良い人を殺したくなかっただけ……グレイブは世界を救うんでしょ? ならグレイブの敵はみんな悪ってことだよね……だから、グレイブの敵はみんな殺すよ……」

「それは違うぞ。俺だって間違えることはある。だから、ナナシが自分で判断するんだ。俺が間違っているって思ったらしっかりと言ってほしい。その代わり俺もナナシが間違っているって思ったらちゃんと言うからさ」



 だけど、そこで予想外のことがおきる。彼は優しく彼女に諭すように言ったのだ。それはナナシが今まで逃げていたことを指摘していた。



 グレイブは私に楽をさせてくれない……だけど、なんでだろう。とっても嬉しい。ああ、そっか……彼は私を心から信じて……道具じゃない……仲間だと思ってくれているんだ……



 その言葉で彼が自分を道具ではなく、人間として見てくれているというのが嫌ほどわかったからだ。ナナシは改めて誓いの言葉を伝える。



「え……グレイブは難しいことを言う……だけど、なんだかいい気分だね。私……頑張ってみる。だから、私に色々と教えてね……ご主人様」



 そう言って抱き着くとグレイブは頭を撫でてくれて……とっても幸せな気持ちになったのだった。





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