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一緒に行けないかもしれない

「アルさま~」


 エルを撫でながらベッドの上で寝転がる。

 海龍事件が起こってから三年が経った。

 その間に、俺は父を超え、もうお前に教えることは何もない状態になっていたのだ。

 と言っても、剣術の腕に関してはまだ父の方が上ではあるが。

 魔術学園で求められる最低知識も既に頭に叩き込み終えられ…要するに、やることがない状態なのだ。


 と言っても、自分一人で出来る鍛錬は欠かしていない。

 例えば魔力を寝るスピードを頑張って早くするとか…巨神についてもっと知るとか。


 

 運命の巨神。

 何故かそう名前はついているが、運命要素は今の所全くない。

 これを発動させると、その瞬間に俺の魔力を使って体を生成する、俺から全く独立した味方を召喚する…と言った感じの能力になっている。

 基本的には土魔法で鎧を纏った人間に近い形をした丈夫な体を造り、雷魔法で体全体を覆って攻撃防御力共に底上げする…と言った感じで顕現するが、形は変えようと思えば少しは変えられるようだ。

 例えば腕だけにしたり…龍の形にしてみたり。

 しかしながら、巨神から不服の意がなんとなく感じられた為、あまりよくはなさそう。

 そんな巨神だが、意思や感情こそありそうなものの、思考能力、知性はあまりないと思われる。

 戦闘ではこと優秀な働きをするが、試しに片腕だけを顕現させジャンケンでバトルしてみようと思ったのだが、ジャンケンと言う概念を教えることすら出来なかった。



「アル様、構ってください」


 考え事をしていると、エルがその体を擦りつけてくる。

 この三年で、俺もそうだが彼女もかなりの成長を遂げた。

 俺は身長が順調に、彼女は身長こそ変わらないものの、同年代の者と比較してもかなり女性として発達してきたのだ。

 年齢に見合わない二つのふくらみが腹に押し付けられる。


 …最近エルは調子に乗っているような気がするな。

 最初こそ自分の欲求を満たす為に保護をしたが、最近は無駄に甘やかしすぎているような気がする。

 他の者から虐められないように、ずっと俺の部屋で待機するように命令していたし、仕事もそのように割り当てたのが不味かったのだろうか。

 …ずっと俺の部屋で待機って、つまり監禁ってことか?

 自分で言っておいてなんだが、今ちょっと興奮した。

 俺は救えない人間だ。


 まあとにかく。

 俺は一応貴族なので、そんなヤツに特別扱いされたら調子に乗るのもまあ仕方がないと言えるだろう。

 しかしながら、それだけでは満たされないらしく俺の事を堕とそうと数年前から過激なアピールやスキンシップが増えてきている。

 これは少しばかり、エルを分からせる必要があるかもしれない。




「…そういえばエル、俺は来年魔術学園に向かうことになっているんだけど…」

「はい、ちゃんと覚えています。私を連れて行ってくれるんですよね?」


 魔術学園は、貴族の子供は一人、従者を連れて行くことが出来るシステムがある。

 屋敷に放置しておいたらどんな目に合うか分かったもんじゃないのでエルを連れて行くつもりだ。

 しかしながら…。


「…もしかしたら、エルとは一緒に行けないかもしれない」

「……え?」


 そう告げた瞬間、信じられない、と言った表情…を通り越して、何も感じ取れないくらいの無表情でそう呟くエル。

 数秒か、数十秒か。

 固まった後、


「私の何が悪かったんですか? どうしたら一緒に居られますか?」


 虚ろな目をしてそう機械的に問いを連続で投げかけてくる。

 それはコチラが泣きたくなるくらいに痛々しくて…。



 ――――ここまでの反応をしてくれるとは思わなかった。

 やはりエル、君は俺にとって最高の女の子だよ。

 無表情ながらも俺には分かる。読み取れるよ。

 自分が捨てられるんじゃないかと不安に駆られ焦り、心が潰れそうになっている。

 腕は恐怖と絶望で震えている。


 そんなかわいそうな、曇っている彼女を見て自分の中の黒い部分が最高に満たされるのを感じる。

 彼女の絶望する顔をもっと見ていたい。

 彼女を世界の全てから守りたい。二度とこんな顔をしないくらいに幸せに生きて欲しい。

 背反する感情がごちゃ混ぜになり、それは確実に心を満たしていく。



「大丈夫だよ、エル」


 そう言いながら、エルを抱き締める。


「父上から、エルを連れて行くならある挑戦を受けてもらう…って言ってただけだから。それをクリアすればエルとは一緒に居られるよ」

「本当ですか?」


 今度は瞳から雫を幾つも流し、そう聞いてくる。


「うん、俺はエルを手放すつもりはないから」


 心からの本心を彼女に告げる。


「…大好きです」


 ボソリと呟かれた声は確かに届いたが、俺の好きと君の好きはきっと違うんだろうなあ、と頭の中で感じて、何も言葉を返せなかった。
















「アルティ、お前にはこの人と戦ってもらう」


 そう言いながら、父が顔を向けたのは、


「…初めまして、アルティ様。姉がいつもお世話になっております」


 と、俺と年の変わらないくらいの少女だった。

 どうやら彼女の姉がこの屋敷で仕事をしているらしい。


「お前が勝てば、誰でも好きな者を使用人として連れて行くといい。ただし、お前は魔法を使ってはダメだ。あのデカイのとかな」


 エルを帝都に、魔術学園に連れて行く条件。

 それは、Aランク冒険者に魔法無しで勝利することだった。




 と言っても、俺はこれが誰の差し金なのか知っている。

 彼女の姉は、エルに嫌がらせをしていたメイドの筆頭である。

 勝手な予想で、俺とエルを離れ離れにさせることで再びエルへの嫌がらせを再開しようと目論んでいたのだろう…と。実際に情報収集をしてみたらガチでそんな感じだった。

 なんでも彼女…フィリアの姉、フィリネが父に『アルティ様が魔術学園に行くとのことですが、帝都は危険も多い。アルティ様はなまじ実力があるが上に、危険に陥ることもあるでしょう。ですから、ここはしっかりとアルティ様を守れる従者を連れて行く必要があります』的な感じで自分の妹を推薦したっぽい。

 父がどういう考えでそれを飲んだのかは分からないが…どうせ「アルティはそれに反発するだろうし…これを機にまた新しい難題出したらもっと強くならないかな~」くらいしか考えてなさそうだ。全く困った親を持ったものだと心の底から思った。




「ア、アルティ様…本当に嫌なのか…でしょうか?」


 緑の髪を腰まで伸ばしたフィリアはそう俺に聞いてくる。


「その、わ、私の方を従者として連れて行かれれば…」

「…慣れない敬語は大変だろう、普通に話してほしい」

「…気遣い、感謝します」


 あまりにも会話が成立するかどうかってレベルだったので敬語をやめてもらう。

 多分姉に適当に礼儀作法を叩きこまれたのだろう。かわいそうに。


「…姉の頼みであると共に、正式にヴァーミリア家から依頼が出ることにもなるから、私にとって楽して稼げる仕事になる。私にはメリットしかない。だから…考え直してみてはくれないだろうか?」


 まあ、彼女にとってはそうだろうな。

 実は、海龍事件のせいで、ヴァーミリア領は俺の話題で持ちきりだった時期がある。


「そ、その…貴族のお抱え従者になるってことがどういうことか、知らない訳でもないし…実は私、アルティ様のファンなんだ!」


 なんでも彼女、俺の活躍を聞いてから田舎を飛び出し冒険者を始めたらしい。

 そして二年足らずでAランク冒険者…。

 冒険者ランクは一番上がSSランク、次がS、A、B、C、Dとなっているらしい。

 で、SSが災害級で国に数人いるかどうか、Sが戦術級で国に十人もいない、Aが超エリート、百人いるかな…みたいな感じらしい。

 とにかく、彼女が凄い優秀なのは分かった。

 見た目もかわいいんだが…。

 生憎、俺のセンサーに引っかからないのだ。

 エルの方が俺の中では最優先。


「…それでも、俺はやるよ」

「…もうこれ以上は無駄だろう、準備をしてくれ」


 そう父がフィリアに告げる。

 それを聞いたフィリアが名残惜しそうに部屋を出ていく。


「…アルティ、後はお前の覚悟を見せるだけだ。自分の壁を打ち破れ」


 部屋に二人だけになった俺にそう父が言う。

 無茶を言わないでくれよ…。

 そう簡単に自分の限界超えられたら人生苦労しない。

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