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海龍

 ウマい話には裏がある、とは言ったもので。


「おいおい坊ちゃんに嬢ちゃん、初対面の相手をそんなに簡単に信用するもんじゃないぜ?」


 豹変したおっちゃんが笑う。

 船の甲板、周りは青一体の海水の上であり、どこにも逃げ場はない。

 そんなところに二人、大海原を背にし俺たちは数十人と対峙していた。


「アルティ…」

「…何が目的だ?」


 後ろで怯えるように背中に引っ付いてくるマリア。


「何が目的か? だと? フフ、冥途の土産に教えてやろう。と言ってもお前達をまだ死なすつもりもないが…。ダエル教団については知っているか?」

「ダエル…?」


 教団と言うことは何かを祭っている団体なのだろう。

 しかしながら、このような行動をする奴らを抱えている団体なんてカルトに決まっている。


「何か失礼なことを考えているな? …まあいい。ダエル教団が信仰する最強の邪神、ダエル様の生贄の為に優秀な血族の生き魔力が必要! …らしいのだ。生憎、俺は末端の中間管理職だから大した事は知らん」

「そう…」

「だがな! 俺だって出世したい! 邪神がどうとか知らん! 毎日酒飲んで寝てたいよ!」


 なんて等身大な欲望を口にする男だが…。

 ――――ブーーーッ!


「…すまん、ちょっと着信だ、待っててくれ」


 懐から取り出した水晶に魔力を籠め始める。

 明らかに隙だらけだが、周りのBランク冒険者? が一斉に俺達に杖やら魔導書を向けてきたので、攻撃はやめておく。


「ああ、俺だ…え、大丈夫?」


 何やら様子がおかしい。


「赤髪の男と茶髪の男に全滅させられた!?」


 なんか誰にやられたのかなんとなく分かるぞ。


「え!? それに、もうアレ到着するの!?」


 冷や汗を垂れ流しまくり、腕が震えている。


「…ああ、ああ。…俺はなんとしても帰るぞ…」


 青白くなった顔面のまま、水晶をゴトリと落とした。


「…まあ、話を聞いていたら分かると思うが、俺達は今ピンチだ」


 ハハハ、と生気のない顔で嗤う。


「今からこの都市を、海龍が襲う。そう、あの討伐ランクがSの正真正銘化け物だ」

「だが、俺達のやることは依然変わらない。こいつらを捕えて、素早くここから去るだけだ」


 そう不気味に笑いながら、おっちゃんは隠し持っていたサーベルを二本、両手に構える。


「坊ちゃんに嬢ちゃん、暴れるのは得策じゃない。大人しく眠っててくれないか? 俺達だってまだ死にたくないんだよ」


 そう、告げながら、おっちゃんは飛び出し、冒険者たちは一斉に魔法を放つ。



 一対多数、しかもマリアを庇いながらという慣れない環境、相手の力量も解らぬ状況で勝つ自信が当初はあまりなかったのだが、動きを見て理解した。

 それは紛れもない杞憂であり。

 また、自分の才能を抜きにしても。父の鍛錬は狂っていたのではないかと。


 土魔法で鉄を生成、レイピアの形に変形させ、一閃。

 それだけでおっちゃん以外全ての人間が意識を刈り取られ地に付した。


「なっ…!?」


 おっちゃんは驚いているが、個人的には今の一閃を所見で止められているおっちゃんに対する驚嘆の気持ちの方がデカイ。

 後ろで震えていたマリアも、今の一瞬の光景を目に焼き付けていた(見えていたかは分からないが)らしく、震えは収まっていた。


「…暴れるのは得策じゃない、だっけか? 俺はもう何もしないから、死にたくないならとっとと航路を戻した方が良いんじゃないか?」


 ――――瞬間、後ろから恐ろしく巨大な存在の反応。

 後ろを振り返ってみれば…巨大な龍が姿を現していた。





 青と白の美しい鱗、しかしながら、それとは対照的に暴力的な威圧感を感じさせる。

 蛇のように細長くうねった体には四本の脚、角はねじ曲がり、黄色く光る眼は威厳を感じさせる。

 そしてとにかくデカい。

 見上げて尚、上があるといったレベルだ。


 見ているだけでも足が少し竦む。

 そんな海龍が、俺達を見て…興味を失ったかのように、町に視線を変えた。

 そしておもむろに口を広げたかと思うと、暴力的なまでもの水がそこへ集まる。

 ――――町を消し飛ばすつもりか!?


「お、おい…海龍がコッチを見逃してくれそうだぞ…今のうちに逃げるぞガキども!」


 そう叫びながら、おっちゃんは舵を取るため船の中に戻ろうとする…。

 いや、ここで逃げるのは簡単だ。

 しかしながら、明らかにこのままでは町が吹き飛ぶ。

 父や公爵だって無事である保証はない。


「…いや、龍の前まで向かえ」


 そう告げながら、素早くおっちゃんの背後に回り、レイピアを突き立て脅す。


「お、おい!? 気でも狂ったのか!?」

「仮に龍が今俺達を無視したとして、あいつが町を破壊した瞬間こっちにヘイトが向く可能性だってあるだろ? 死にたくないなら早くしろ!」


 一ミリ前後、首筋に突き立ててやれば、鮮血がツー、と零れ落ちる。


「俺がアイツを倒す」



「アルティ!? 早く逃げないと!」


 後ろに庇っていたマリアがそう俺に言う。

 確かに、ここに居るのは危険極まりない。

 だが…。


「あの町にはたくさんの人間がいるし、俺達の父さん母さんだって居る。それに――――」



 俺のサガは到底救いようのない変態的で屑な癖であることは自分自身が一番理解している。

 だから、そんな俺が生きて行くのを許されて、ましてや自分の欲求を満たそうとすることを、世界に許してもらう為の、独りよがりな偽善をせめて。

 ここで全員救って、自分の業を帳消しにできなくても、出来ることはする。



「わ、分かった! 私もお父さんとお母さんを守るの!」


 それに、の後は言葉が続かなかったが、マリアは良い感じに納得してくれたようだ。














 ――――グルアアアアアアアア!


 少しずつ、しかしながら確実に破壊の一撃を準備する海龍。

 そんな龍の目前に、小さな船が一艘。

 絶対的な強者である海龍にはさして気に留める必要もないようなちっぽけな存在。

 であるはずだった。


 突如として、海龍と同じ大きさの人型の鎧が現れ、その片手に持ったランスで強く海龍を殴った。

 いきなり妨害された海龍は、溜めていた破壊の一撃の照準を外し、それは遥か空の彼方へと消えていった。

 それで初めて、海龍は目の前の巨人を認識し、明確な敵であると判断する。








「お、おい、見ろよアレ…」


 オケアノスの民にとって、いきなり現れた海龍は絶望の象徴であった。

 国に何人と居ないSランク冒険者ですら手を焼くバケモノ、海と自然の怒りの権化。

 それが自分達に牙を剥いていると知った瞬間、ほとんどの者が絶望した。


 しかしながら、全身を土や金属、鉱石などで作られた巨大な人がそれを見事防いだ。


「あ、あれは…神だ…」

「神が俺達を守ってくれたのか…!?」


 瞬間、町中に巨大な声が響き渡る。


『皆の者! 俺だ、領主、ハヴェルト・ヴァーミリアだ! 今俺の息子、アルティがあの海龍を足止めしている! 腕に覚えのある者は俺に続いてアルティを助けてくれ!』


 そう町中に声が届く、と次の瞬間。


「「「ウオオオオオオ!!」」」


 と、大声が響き渡る。

 海の男や冒険者が多いオケアノス。一度は絶望したとしても、血気盛んな者達が集まる町である。

 自分達を勇気づける存在さえいれば、すぐさま彼らは立ち上がることが出来るのだ。

 ある者は魔法を練り、またある者は船に乗り込む。


 巨神と龍の決戦の時は近い。

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