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クラスメイト

「…全然人来ないね~」


 椅子に座る俺に全体重をかけて寄りかかるマリアがそう言う。

 確かに、俺達が教室に入ってから人数は増えていない。

 Sクラスは十人らしいので、半数が来てないことになる。

 なんて考えていたら、唐突にクラスの扉が開く。

 そこからは、オレンジ色の短髪の少年と、その少年に続いて、レモン色の髪をした少女が現れた。

 すると、オレンジ色は突然俺に目を向けたかと思うと、


「…お前、学年一位だな?」


 と睨まれながら言われてしまった。


「…そうだ」

「今すぐ俺と決闘しやがれ」

「???」


 なんだなんだ。物騒だな。


「聞いた所によると、お前侯爵なんだってな? 田舎の貴族でも三大貴族くらいは知ってるよな? 俺がそのうちの一人、アロン・セリウスだ」


 うわ、俺より位の高い人間だ。

 公爵はこの帝国に三家しかいないから、そいつらひっくるめて三大貴族と言うらしい。

 実は目の前のオレンジ色もそうだが、マリアは結構お高い身分なのだ。


「そんな高貴な身分の俺が、勇者や皇子ならともかく、ぽっと出の田舎貴族―――」

「うるさい」


 会話の途中に、突然レモン色の少女がアロン・セリウスにガン! と痛そうな音を立ててチョップをかました。


「アロンはいつもそう。変な所に拘るんだから。それに、私闘なんてしたところで順位は変わらないし、学年順位は次から試験の点数も加味されて決定されるから、もう貴方が学年で最上位を取ることはできない」

「う、ぅぅ…」


 チョップが相当痛かったのか、涙目になりながら肩を落とすアロン・セリウス。


「で、でもせめてアイツより強いって証明しないと…召喚獣なんかに頼ってる軟弱者だし…」

「どんな手段でもそれは彼の実力。それに、卒業まで時間はあるんだし焦らなくていい、違うかい?」


 巨神は単なる召喚獣ではないと思うんだけどなあ。

 ボロクソに言われて、アロンは泣きながら自分の座席に座った。


「はあ…すまない。これでも彼なりにいろいろと事情があるんだ、察してもらえると助かる」


 くるりと俺の方を向いて、そう謝罪する少女。


「話には聞いているよ、アルティ・ヴァーミリア。それに、マリア・ディンストン、久方ぶりだな」

「マリア、知り合い?」


 マリアが首を少し縦に振る。


「少し前に彼女とは茶会で会ったよ。名乗るのが遅れたね、私はシラ・ベルティーニ。ディンストン家とセリウス家、そしてベルティーニ家で構成される三大貴族の内の一人だ」


 シラはそう自己紹介をし終えると、


「それでは…アロンのメンタルケアに行かないといけないので失礼するよ」


 そう言うなり、そそくさと俺の目の前を後にした。




「いや~、朝から面白い物を見させてもらったぜ」


 突然、マリアが寄りかかってる方とは反対から男の声が聞こえて来たからビックリした。


「オレ、ラエル。よろしくな」


 金髪のチャラそうな男はそう言いながら俺に手を差し出した。

 断る道理もないのでとりあえず握手くらいは返しておく。


「オレ、辺鄙な所の子爵家の息子だから、このクラスほとんど伯爵以上の身分しか居ねえし、居心地悪いかと思ったんだけど、お前は身分なんて気にしなさそうだから安心したぜ」


 そう言いながら、サムズアップを決めてくる。

 凄いコミュ力。


「横のマリアだっけ? もよろしくな」


 そう笑顔でマリアに手を差し伸べる。


「う、うん…」


 おずおずと言った感じでマリアは手を出す。


「はは…、あんまり歓迎されてない感じか、そりゃ二人の時間を邪魔されたらな」

「どういう意味だよ…」


 なんて会話をしていれば、教室の扉が勢い良く開く。

 瞬間、学校に鳴り響くチャイムの音。

 そして、そこからは生徒…ではなく、昨日の入学式で滅茶苦茶元気だった大男。


「お前らァッ! 席に着け!」


 そんな一喝で、いつの間にかラエルは俺の横から消えていた。足はっや。

 よく見たらマリアも自分の席に戻ってたわ。


「さあて出席を取るぞ…っと、まだ来てないヤツが居るな。どれどれ…ウィルテン・エルトゥアーラにクラリス・エルトゥアーラ…」


 よくよく教室を見渡してみれば、確かに機能の皇子の姿が見えない。

 と、次の瞬間。


 ガラリ、とまた勢いよく扉が開かれる。


「バカ兄様のせいで危うく遅れる所だったでしょ!」

「い、いや…すまない」


 昨日のウィルテンと、そのウィルテンに髪色の似た少女が教室に入って来た。

 名前からしてクラリスと言うのはウィルテンの姉か妹だろうか。

 ぷりぷりと怒るクラリスと、昨日の好青年感はどこへやら、頭が上がらないと言った感じのウィルテン。


「危うく遅れる所だった、ではなくもう遅れているぞお前達! …まあ初日だ、許す!」


 そんな大男の声を聞いて、二人はいそいそと座席へと急いだ。











「俺の名前はコガリ! これから一年、お前達の担任を務めさせて頂くッ! お前達のような未来ある少年少女のクラスを受け持てて光栄だッ」


 そう名乗ったコガリは、全身が筋肉だった。

 ここまで極まった肉体美を見たことはない。

 この世界では魔力で体の強度を上げることが出来る為、筋肉がなくても前世の人間の数百倍程の力が出せるのだ。だからこそ、ここまで筋肉を仕上げている人間には初めて出会った。

 燻ぶった茶色の頭髪はかなり薄くなっており、おじさんと言うくらいの年齢だと言うのが分かる。


「皆、分かっているとは思うがこのクラスは学年内で最高の実力を手にしているエリート中のエリート! しかしながら、いくら実力があろうとも、学園と言う機関である以上、ある程度は学力が問われてしまうことになるッ!」


 ここでアロンが頭を抱えているのが横目に見えた。


「武力もそうだが、知力で下のクラスの奴らに足元を掬われないよう、俺がビシバシ鍛えていくッ! これからよろしく頼むぞ!」


 そう大声でコガリは告げた。







「さて、この学び舎で共に過ごす学友の名を知らないというのは幾ばかの損失を被るだろう! 早速だが、自己紹介をお願いしたい!」


 そう唐突に告げた後…。


「さて、最も遅く来ていた二人から始めるとしようか?」


 と、ウィルテンとクラリスの方へコガリは顔を向けた。

 すると…素早く皆の前に立ったウィルテン。


「僕の名前はウィルテン。エルトゥアーラ帝国の第三皇子だが、この学園に居る間は身分など気にしないでくれ。これから宜しくお願いするよ」


 そう優雅に一礼したかと思えば、すぐさまクラリスの方がやってきた。


「私はクラリス。兄様…ウィルテンの妹よ。と言っても双子なのだけれども。これからよろしく」


 そう言うなり、自分の座席へと戻ってしまった。


「よしッ。二人ともありがとう。それでは次は…アルティ、来い」


 どうやら次は俺を指名する様子。

 言われるがままに前に出る。

 うーん、何を喋ったらいいのか分からん。


「アルティ・ヴァーミリア。ただの侯爵貴族だ。仲良くしてくれると助かる」


 それだけ言って座席に戻る。


「皆も知っているとは思うが、アルティは昨日の大会で堂々の一位を手に入れた男だ。それに加えて、ホントは筆記テストの結果は教えちゃ駄目なんだが、コイツは一教科除き全て満点だったんだぞ」


 それは嬉しいが。教えちゃ駄目なコト教えるなよ。

 それを聞いて…クラスの数人がおお~と声を上げる。マリア声でかすぎ。


 その後も自己紹介は続き。


「あたし、マリア! アルティと一緒の学園に行きたくて頑張って入学しました! 仲良くしてね!」


 自己紹介でその情報は要るだろうか?


「…拙者はリュウと申す。しがない伯爵家の息子であるが、宜しく頼みたい」


 座禅を組んでいた赤茶の髪の少年は凄い武人みたいな喋り方で面白かった。


「リ、リリ、リリアです…」


 ぼさぼさの黒髪の少女の名前はリリリリリアらしい。流石に噛んだだけか。


「俺はアロン・セリウス。三大貴族の内の一人で、いつか学年一位を手に入れる男だ」


 流石の威勢である。アロン。

 だから俺を見つめながら自己紹介するのは止めて頂きたい。



「私はシラ・ベルティーニ。アロンがこれからバカみたいなことをするかもしれないが、大目に見てやってくれ」


 シラはアロンの保護者か何か?


「よーっす、俺ラエル。気軽に話しかけてくれよな」


 ラエルは平常運転だ。ほんの数秒しか関わってないのに平常運転だと分かる彼の人格…。


「私は勇者。ロアナ」


 ロアナはそれだけぼそりと告げると、とっとと座席に戻ってしまった。

 …なんか壁を感じるよな~って思ったけど、この年で勇者なんて重圧ぶん投げられたらそうなるよな…。


 そのような形で、つつがなく自己紹介は終わった。

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