クラス決め その3
次は準決勝らしい。
座席でぼけーっとしながら他の人間の試合を見ていると、皇子ウィルテンが俺に近づいてきた。
何の用だろう。俺は自分より位の高い相手とは基本的にあまり関わり合いになりたくないタイプの人間だからちょっと困る。
「流石の実力だった」
「ウィルテン…様」
「勿論呼び捨てで構わない。僕たちは同じ学び舎で競い合う仲間なのだから」
「ウィルテン、も今まで戦ってきた相手の中では一番強かったぞ」
嫌味無しで、対戦相手が俺じゃなかったら準決勝は余裕で迎えていただろう。
「そう言ってもらえると嬉しいよ…それはそうと、君は次の試合があるだろう? 呼び止めてすまなかった」
あ、それだけ?
まあ変な厄介ごとを持ち込まれるよりはましだけど…。
「ああ、さて、行くとするか…」
俺よりも先に会場で待ち構える彼女の所へと向かう。
「いぇーい!」
会場の向こう側では紅色のツインがプランプランと左右に揺れている。
そんなマリアはこちらに向かってピースサインをこれでもかと見せびらかしてくる。
何故かは知らないが楽しくて仕方がないと言った様子だ。
「それでは…準決勝一回戦、試合開始ッ!」
開幕の合図。
「…あたしね、ずっと前から思ってたの」
いきなり剣を下ろした彼女が独白する。
「ずっと前に、アルティに守ってもらったこと、今でも覚えてるの」
なんだなんだ。油断させてなんかしてくるか。
「守ってもらったお礼もまだしてないけど…このままじゃ駄目だって、なんとなく思って、次は一緒に戦えるようになりたいって、たくさん頑張った。そして今、ここに居る」
「だから、あたしのこと、見ててね?」
無邪気さとは一変して、瞳が妖しく光り、それから目が離せない。
その雰囲気が、初めて見るもので、少しの動揺と困惑。
瞬間、彼女が腕をこちらに向けて…。
――――轟音、桃色の烈火が会場全体を埋め尽くさんばかりに轟いた。
これは…とりあえず土魔法で防御を…?
あれ? 体が動かない。
もう既に目前まで炎は迫る。
俺に何をしたかは知らんが、こんな無様な負け方したらヤバいぞ!?
――――動け動け!
辛うじて、身を守れる程の土の壁を生成。
しかしながら、多少の炎が体を燃やす。
試合終了のブザーは鳴らないが…これ以上被弾したらヤバそうだ。
「…防いじゃうんだ。アルティって本当にすごいね」
「…何をした?」
「えへへ…内緒だよ?」
唇に指をあてて、首を傾げる。
「なるほど。まあいい」
魔力を消費して、巨神を召喚。
俺の目立てでは、恐らく魅了系の魔法。
今の今まで試合で出してこなかったあたり、切り札だろう。
俺が未だに練習していない、八つの属性に属さない無属性魔法に分類されるモノの一種。
本来なら効果を受けた相手はまともに動くことすら出来ず、命令の言いなりになってしまうらしいが…俺の魔力量がギャグみたいに多いせいで辛うじて抵抗出来たっぽい。
しかしながら動きづらいのに変わりはなく…ならば自動で動く巨神の出番。
未だに動きの鈍い俺とは違って、いつも通りのスペックで彼女に攻撃を仕掛ける。
「アルティの魔法は凄いよねっ!」
そんな巨神のランスすらも炎を纏った剣で弾き返す。
今すぐレイピアを片手に追撃しに行きたいが…こんな体じゃあっという間にみじん切りだろう。
風刃、雷槍、岩石。
彼女の周りにそれらを生成。
数千もの弾幕が彼女を襲う。
しかしそれらも全て、彼女の剣撃によって撃ち落されてしまう。
やはり、剣技は達人の域に達していることは間違いない。
よく四年でそこまで仕上げたと感嘆せずにはいられない。
しょうがない、俺も少しだけ本気を出すか。
イメージするのは、魅了が俺に効かなかった運命。
巨神を呼び出した時以上の魔力が体から抜けていく感覚。
そして、次の瞬間、俺の体のデバフが完全に消滅した。
「…よし」
左手を握ってみれば、いつもと同じ感覚で動くことが分かる。
手痛い出費をしたが、これでいつも通りに戦える。
「あれ? アルティ、余裕そうだね?」
まだ魅了が切れた事が分かっていないっぽい。
「ああ、勝ちに行かせてもらう」
ならば勝機はここに。
レイピアを強く握り、数千もの弾幕と共にマリアの元へと突撃する。
「えいっ!」
彼女が桃色の斬撃を放つが、それらを全てレイピアで受け止める。
「っ!」
どうやら魅了の効果が切れていることに今気づいたようだ。
しかしながら、既にお互いの距離は近い。
次の打ち合いが最後になるだろう、両者共に理解はしているはずだ。
だからこそ、全力を尽くす。
「…! 楽しいね、アルティっ!」
互いの斬撃が交差し、重い金属音と共に火花が散る。
桃色の煉獄、不可視の刃風、雷槍が二人の周りを舞う。
瞬間、俺の剣が大きく弾かれ、後ろに軽く仰け反る。
好機を逃さんと、一気に距離を詰めトドメを刺さんと剣を構え直す彼女の脳天から、巨神がランスで雷撃を落とす。
それも剣でいとも容易く止めているが…俺が左手に構えたもう一本の雷槍には気づいていないらしい。
「ああ、楽しかったぞ」
躊躇なく、その体に雷槍を投げ込んだ。
「負けちゃったか~」
試合後、席に戻った俺達。
「しかしまあ…よく四年でそこまで鍛えたな」
「えへへ…凄いでしょう?」
「ああ」
間違いなく鬼才だ。
「次は最終戦、突如として現れた期待の新人、アルティ・ヴァーミリアさんと、勇者ロアナさんだーッ!」
そう、実況の声がうるさい程に鳴り響く。
「じゃあ行ってくる…」
「アルティ、頑張って!」
マリアの応援を受けながら、決戦の地へと足を運んだ。




